2026/7/4
大阪の副首都論を考えるうえで、まず整理すべきなのは「大阪都市圏」とは何か、という点です。
最近の大阪府・市や維新の会の掲げる副首都論を見ていると、「大阪都市圏」という言葉を使いながら、実際には大阪府という地方公共団体の範囲に話を閉じ込めているように見えます。
大阪府をどうするのか。
大阪市をどう分割するのか。
府と市の二重行政をどうするのか。
もちろん、それ自体は大事な制度論です。
しかし、本気で東京一極集中に対抗する「副首都」を語るのであれば、本当に問うべきはそこだけではありません。
問うべきは、京都・大阪・神戸を含む京阪神規模の巨大な実体経済圏を、どの主体が、どのような制度で経営していくのか、ということです。

大阪府市の副首都推進局が2023年に作成した資料では、東京大学の金本良嗣教授と同志社大学の徳岡一幸教授の研究に基づく都市圏設定の考え方を参考に、大阪市を中心とする都市通勤圏が整理されています。当時の副首都推進局の資料は、最近のものとは異なり、客観的に都市のデータを分析しています。
そこでは、おおむね「その市町村の就業者のうち10%以上が大阪市へ通勤しているか」が、大阪都市圏に含まれるかどうかの大きな基準になります。
この整理では、八尾市、東大阪市、豊中市、吹田市、堺市、尼崎市、西宮市、奈良市、生駒市などが、大阪市の郊外市町村として大阪都市通勤圏に入ります。
つまり、大阪都市通勤圏は大阪府域を超え、兵庫県や奈良県にも広がっています。

大阪府市副首都推進局の2023年資料は、東京・大阪・名古屋の都市通勤圏と圏域人口分布も比較しています。
この資料は非常に興味深く、東京と大阪では都市圏の構造が根本的に違うことが見えてきます。
東京都市圏は、東京23区という圧倒的な中枢を中心に、横浜、川崎、千葉、さいたまといった周辺大都市まで、その強い重力に引き寄せられる構造を持っています。
いわば、東京23区を中心とする超一極集中型です。
一方、大阪都市通勤圏には、京都市や神戸市は入ってきません。なぜか。
京都市や神戸市は、大阪市にすべてを吸い込まれる単なる郊外都市ではないからです。
それぞれが独自の経済、産業、大学、観光、文化、都市機能を持つ中心都市であり、独自の都市圏を形成しているからです。
大阪市は京阪神圏における最大の経済核です。
しかし、東京23区ほど圧倒的に周辺都市を吸い込んでいるわけではありません。
周辺には京都、神戸、堺、阪神間、奈良方面など、独自の強みを持つ都市集積が存在しています。
つまり大阪は、東京のような一極集中型ではなく、複数の強い核が重なり合ってできている多核型の巨大経済圏なのです。
都市経済学の視点では、「都市」を行政区域だけで捉えません。
大阪市役所の区域。
大阪府の境界線。
そうした行政の線引きだけで、実際の都市経済は説明できません。
重要なのは、人、企業、仕事、サービスが実際にどこに集まり、どうつながっているのかという、実体としての都市集積です。
この視点で見れば、大阪の経済の実体は、大阪市域にも大阪府域にも収まりません。
京都・大阪・神戸を含む京阪神全体で、ひとつの巨大なメガリージョンを形成しています。
ここを混同するから、今の副首都論や大都市制度改革の議論はおかしくなるのです。

大阪都市圏の本当の課題は、大阪市が強すぎることでも、大きすぎることでもありません。
むしろ東京23区と比べれば、大阪市の都市圏内での中枢性は相対的に弱い。
京都や神戸という強い周辺都市が存在しているからです。
であるならば、大阪市を細かく分割して弱めるという発想は、方向が逆です。
ただでさえ東京圏に対抗しなければならないのに、京阪神の最大の核である大阪市を小粒にしてどうするのか。
本当に京阪神圏で強い核をつくるなら、むしろ大阪市の権限、税財源、都市経営能力を強化すべきです。
その選択肢の一つが、特別市です。
大阪特別市が、府の権限や税財源も含めて一体的に持ち、大都市政府としての経営責任を明確に負う。
まずは京阪神最大の核である大阪市を強化する。
そのうえで、大阪府という既存の枠組みを超えて、京都、兵庫、奈良、阪神間と広域的につながる。
足元の大阪市は単独で強化し、外への広がりは広域連携で広くつなぐ。
この二段構えこそが、京阪神という実体経済圏に合った制度設計ではないでしょうか。

首都圏には、九都県市首脳会議という枠組みがあります。
東京都だけでなく、神奈川県、埼玉県、千葉県、さらに横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市が入っています。
東京圏ですら、都市圏を東京都だけに閉じていません。
環境、防災、交通、治安、産業、地方分権など、幅広い広域課題を、都県と政令市が実務的に協議しています。
であるならば、大阪の副首都論も、大阪府域に閉じるべきではありません。
京都、大阪、神戸、奈良、阪神間を含む京阪神都市圏の主要自治体が、都市圏戦略を協議する枠組みを正面から構想すべきです。
関西には関西広域連合もあります。
しかし、関西広域連合は鳥取県や徳島県も含む広域行政の枠組みであり、京阪神都市圏の成長戦略に特化したものではありません。
必要なのは、京阪神という実体経済圏に焦点を当てた、より実務的な都市圏協議の枠組みです。

都構想は、大阪市を廃止し、特別区に分割し、その上の広域機能を大阪府が担うという発想です。
しかし、それではスケールが中途半端です。
大阪府は、兵庫県や京都府を統治できません。
大阪府域の中だけで「副首都」を語っても、京阪神という実体経済圏全体の経営には届きません。
その一方で、足元の大阪市は分割されて弱くなる。
つまり、府市一体であろうが、特別区であろうが、今の発想では京阪神規模の都市圏経営というゴールには届かないのです。
副首都論で本当に議論すべきは、大阪府を「都」という名前に変えることではありません。
ましてや、大阪市をどう切り刻むかという内輪の制度再編でもありません。
京都・大阪・神戸を含む巨大な経済圏を、どう成長させ、どう世界と戦える都市圏にしていくのか。
副首都論とは、本来そのグランドデザインであるべきです。
大阪市を圏域の中心都市として強くする。
その上で、京阪神をつなぐ。
そして、府県域を超えた都市圏として世界と戦う。
大阪の成長戦略や日本の多極化を語るなら、身内のコップの水をどう分けるかという話に終始していてはいけません。
副首都を語るなら、実体経済に合った、夢のある議論をすべきです。
今回のような制度論や、八尾市政・大阪府政、地方自治の仕組みについては、YouTubeでも解説しています。
統計データや公的資料、議会活動の現場で得た視点をもとに、できるだけ分かりやすく発信していきます。
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ホーム>政党・政治家>稲森 洋樹 (イナモリ ヒロキ)>視点が小さすぎる副首都論――大阪都市圏は「大阪府」ではなく「京阪神」で捉えるべき