2026/6/5
現在、新聞、テレビといったいわゆるオールドメディアでは、今回の都構想・副首都をめぐる動きについて、
「大阪府域全域で住民投票をすると成立に有利」
「憲法違反の疑いがある」
「大阪市民にとってはデメリットが大きい」
「進め方が拙速である」
といった点が強調されています。
もちろん、これらは重要な論点です。
大阪市の存廃に関わる制度変更を、大阪市民以外の府民も含めた住民投票で決めてよいのか。
過去に二度、住民投票で否決された都構想を、再び持ち出すことの政治的妥当性はどうなのか。
こうした点は、当然議論されるべきです。
しかし、
「進め方が強引だ」
「手法が特殊だ」
「大阪市民が不利益を受ける」
といった論点ばかりが前面に出ると、特に大阪市外の府民からすれば、
「また反対のための反対をしているのではないか」
「結局、大阪市の話であって、自分たちには関係ないのではないか」
と、単なるメディアの印象論として受け止められる可能性があります。
大都市制度は本来であれば慎重に検討されるべき制度論であるにもかかわらず、単なる反対キャンペーンや、メディアによるレッテル貼りとして片づけられ、「いつもの反維新報道」「反対のための反対」といった形で処理され、肝心の大阪府民全体にとっての論点が埋もれてしまう危険性があります。
副首都法案の附則で大都市法の改正に進むか否かは令和8年6月5日時点ではまだわかりませんが、仮に維新の会の狙い通り、府域全体で住民投票が行われることになれば、大阪市民以外の府内有権者、約500万人規模の府民が、都構想の行方を左右することになります。
そして現状、維新の会の側も、また報道各社も、吉村知事の人気やこの間の大阪府政への支持を背景に、府域全体で問えば「賛成多数になる」と見ているのではないでしょうか。
私はこの問題を、単なる手続き論や感情論ではなく、もう少し制度と政策論の観点から、八尾市民、そして大阪市外の府民の目線から、本質的な問いとして考える必要があると思っています。
それは、
「仮に都構想が実現し、大阪府、あるいは大阪都に広域的な権限と財源がより集中したとき、ほんまにその“成長”は大阪全体に波及するんか?」
という問いです。
まず前提として、私は、大都市制度改革そのものには反対ではありません
むしろ、今の地方自治制度には限界があります。
政令指定都市と府県の役割分担。
広域交通、拠点形成、産業政策、防災、成長戦略。
基礎自治体の行政サービスと、広域自治体の都市経営。
これらをどう整理するかは、大阪だけでなく、全国の大都市圏に共通する課題です。
実際に、現在地方制度調査会や指定都市市長会などでも、特別市制度を含め、さまざまな大都市制度改革の議論が行われています。

出典:指定都市市長会「多様な大都市制度実現プロジェクト報告書(スライド形式)」令和7年11月
もし大阪市の持つ広域的な事務や権限を大阪府、あるいは大阪都に集約することで、大阪全体の成長が本当に図れるのであれば、それは検討に値すると思います。
問題は、これまで直近で大阪府が進めてきた大阪の都市戦略・都市政策の結果として、すでに大阪府内では、人口や投資の偏在がかなり強まっているのではないか、という点です。
前回の記事でも、令和7年国勢調査速報値をもとに、大阪府内の人口動態を分析しました。
▶【進む2極化】令和7年国勢調査速報値分析~大阪は本当に「一体」で成長しているのか~【大阪都構想】

そこで見えてきたのは、大阪市中心部や北摂の一部では人口が増える一方で、周辺部では人口減少が面的に広がっているという、かなり急速な大阪の二極化です。
つまり、今の大阪では、すでに
「成長する大阪」と「取り残される大阪」
の分かれ目が、かなりはっきり見え始めています。
その状態で、さらに広域的な権限や財源を大阪府、あるいは大阪都に集中させた場合、大阪市都心一極集中の傾向がさらに加速するのではないか?
これが、現時点での私の見立てです。

大阪府のような広域自治体に本来期待される役割は、府域全体を見渡し、一つの市町村だけでは担いきれない大きな都市戦略を描くことです。
広域交通、拠点形成、産業政策、防災、成長戦略などを通じて、大阪市中心部だけでなく、府域全体に成長の効果をどう波及させるのか。
ここにこそ、広域自治体としての大阪府の存在意義があります。
ところが、現在の大阪では、前述の通り、人口増加が大阪市中心部や北摂の一部に集中する一方で、大阪市外縁部を含む大部分の地域では人口減少が面的に広がり、2極化が急速に進んでいます。
「大阪の成長」とは、大阪の一部の成長で良いのか。
この要因を分析するうえで重要なのが、この間の府の税源や投資の動きです。
大阪府の税収はどこで生まれ、府の投資はどこに向かっているのか。
都構想によって広域自治体に権限や財源を集めた場合、その成長が大阪府民全体に届くのどうかを、これらの動きから考察します。

まず、大阪府全体の税収を見ると、平成25年度から令和5年度にかけて大きく伸びています。
大阪府税収入全体は、平成25年度の1兆1,171億円から、令和5年度には1兆4,812億円となり、10年間で3,642億円、率にして32.6%の増加です。
大阪全体として税収が伸びていること自体は、府の成長を示す重要な材料です。
では、その税収は府域のどこで強く伸びているのか。
大阪市域内で発生する府税収入を見ると、平成25年度の4,769億円から、令和5年度には7,075億円となり、10年間で2,306億円、率にして48.3%増加しています。
つまり、大阪府全体の税収も伸びていますが、それ以上に、大阪市域内で生まれる府税収入の伸びが大きいということです。
これは、大阪市内に経済活動が集中し、その結果として、府税収入の伸びも大阪市域でより強く表れていることを示しています。

さらに、大阪府税収入全体に占める大阪市域の割合も上昇しています。
平成25年度には42.7%だった大阪市域の比率は、令和5年度には47.8%まで高まっています。
大阪府税収入のほぼ半分近くが、大阪市域から生まれているということです。
この点だけを見れば、大阪府という広域自治体が大阪市内都心の成長エンジンを重視することには、一定の合理性があります。
しかし、広域自治体である大阪府に求められるのは、大阪市内で生まれた成長を、府域全体にどう波及させるのかという視点です。
大阪市域の比重が高まっているからこそ、その税源をどうやって大阪市外を含めた府民全体の成長につなげ、配分するのかが問われます。

大阪市域内で増えている府税収入の中身を見ると、さらに特徴が見えてきます。
府民税は、平成25年度の1,527億円から、令和5年度には1,063億円へと減少しています。
一方で、事業税は1,537億円から3,133億円へ、地方消費税は1,088億円から2,300億円へと大きく増えています。
つまり、大阪市域内で伸びているのは、主に企業活動や消費活動に由来する税収です。
大阪市内にオフィス、商業、観光、投資、消費が集中し、その経済活動の集積が府税収入の伸びにつながっていると見ることができます。
もちろん、大阪市中心部の経済活動が活発化すること自体は悪いことではありません。
繰り返しになりますが、その経済活動の伸びが、大阪市外の府民の暮らしや地域経済にどこまで波及しているのかが府民にとっては重要です。

税源の次に見るべきは、大阪府が施策・予算として、どこに投資しているのかという点です。
先ほど見たとおり、令和5年度時点でも、府税収入の52.2%は大阪市外から生まれています。
つまり、大阪市外の府民や事業者も、大阪府の財政を支える大きな存在です。
では、その府の財源は、どこに向かっているのでしょうか。
大阪府の都市整備部・大阪都市計画局による拠点整備、広域交通、駅前結節などに関する主な投資を、令和5年度から令和8年度までの4年度分で整理すると、府負担相当額は合計461.4億円。
このうち大阪市内への投資はなにわ筋線やうめきたなど、大型プロジェクトを中心に328.7億円、全体の71.2%。一方、大阪市外への投資は132.7億円、28.8%にとどまります。
ここでいう府負担相当額は、国費や市町村負担などを除き、大阪府の一般財源と地方債を対象に整理したものです。
府税収入の52.2%は大阪市外から生まれている。
しかし、拠点整備・広域交通関連の府負担は、71.2%が大阪市内に向かっている。
この対比は、かなり重要です。
ちなみに、これは大阪府の全事業を対象にしたものではありません。
都市整備部・大阪都市計画局が担う、拠点整備や広域交通などのハード投資に範囲を絞って整理したものです。今回見た数字には、万博やIR関連の予算、観光・産業振興などのソフト事業は含めていません。仮にそれらまで含めれば、大阪市内、特に都心部・臨海部への偏重は、さらに明確に見えてくる可能性があります。
府税収入の5割以上が大阪市外から生まれているにもかかわらず、拠点整備・広域交通関連の府負担は7割以上が大阪市内に向かっているという傾向は、前回の記事で確認した近年の大阪の人口動態とも重なります。
大阪市中心部や北摂の一部に人口が集中し、南河内、泉州、東大阪・中河内の一部などでは人口減少が面的に進んでいるという人口の二極化と、大阪府が政策として行っている拠点整備投資の大阪市内偏重との間には、一定の相関が見えてきます。
大阪市内に投資を集中すれば、大阪市内の魅力や利便性はさらに高まります。
一方で、大阪市外の拠点整備が後回しになれば、周辺部から人口や投資が吸い上げられていく。
そら、府がこんなことを続けていれば、大阪の二極化は進むやろなと思います。
広域自治体として大阪府が本来担うべき役割は、大阪市中心部をさらに強くすることだけではありません。
大阪市外の市町村においても、地域の拠点をどう育てるのか。
人口減少地域にどのような成長の回路や持続可能性をつくるのか。
そこまで含めて都市戦略を描いてこそ、広域自治体としての責務を果たしていると言えるはずです。
大阪市内への集中投資は、都市競争力を高めるうえでは一定の合理性があります。
しかし、それが大阪市中心部をさらに強くするだけで、大阪市外の地域に波及的効果を広げる設計になっていないのであれば、「大阪の成長」は府域全体のものにはなりません。
広域自治体としての大阪府に求められるのは、成長の果実を大阪市内に閉じ込めることではなく、それを府域全体へ波及させる都市戦略です。

年度別に見ても、大阪市内への大阪府の拠点整備投資比率は一貫して高くなっています。
令和5年度は64.9%。
令和6年度は67.4%。
令和7年度は74.2%。
令和8年度は74.5%。
直近2年では、おおむね4分の3が大阪市内案件となっています。
繰り返しますが、大阪市内への投資そのものを否定しているわけではありません。
大阪市中心部は、大阪全体の成長エンジンであり、都市競争力を高めるうえで重要な地域です。
しかし、人口も、税源も、投資も、大阪市域への集中が強まっているのであれば、都構想を考えるうえで避けて通れない論点があります。
仮に大阪府や都といった広域自治体に権限や財源をさらに集約してしもたら、この大阪市一極集中が加速するんちゃうか?という点です。

ここまで見てきたように、大阪では、人口の面でも、税源の面でも、府の投資の面でも、大阪市域への集中・偏在が強まっています。
大阪市内で府税収入が大きく伸びている。
府税収入全体に占める大阪市域の比重も高まっている。
伸びている税収の中心は、企業活動や消費活動に由来する税収である。
そして、府の拠点整備や広域交通に関する投資も、大阪市内に大きく寄っている。
この流れを踏まえると、都構想をめぐる論点は、単に「大阪市民が損をするのか、得をするのか」だけではありません。
仮に都構想によって、大阪市の広域的な権限や財源を大阪府、あるいは大阪府(都)に集約するのであれば、その結果として、大阪市外の府民にも「大阪の成長」が実感できるものでなければなりません。
大阪市中心部への投資がさらに進む一方で、周辺部の人口減少や地域経済の縮小が放置されるのであれば、それは大阪全体の成長ではなく、大阪市一極集中と都市の二極化の加速にすぎません。
大阪市外の府民こそ、都構想を自分ごととして考える必要があります。
「大阪の成長」とは、どこの大阪の成長なのか。JR環状線の内側:都心部だけの成長で良いのか?
その成長は、自分たちの市町村に届くのか。
大都市制度改革には大阪都心一極集中の加速にならない、慎重な制度設計が求められます。
6月16日(火)、八尾市議会本会議において一般質問を行います。
今回の記事で整理した大阪の人口動態・府の施策の動向の考察も交えながら、八尾市の成長戦略について議論させていただく予定です。
開始時刻は14時前後の見込みです。
ただし、議事の都合により前後・変更となる可能性があります。
傍聴はどなたでも可能です。
ご都合が合いましたら、ぜひお越しください。
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ホーム>政党・政治家>稲森 洋樹 (イナモリ ヒロキ)>都構想で、大阪市外は置き去りに!? 〜進む「大阪市一極集中」、大阪府民は“成長”を実感できるのか〜