2026/7/14
前回、佐賀県伊万里市民図書館の視察報告(前編・後編)をお届けしました。今回はその前日(令和8年5月8日)に訪問した、もう一つの視察先である山口県下関市立中央図書館についてご報告いたします。
伊万里市が「直営+市民参画」で成功を収めている図書館だとすれば、下関市立中央図書館は、一度は指定管理者制度を導入したものの、様々な問題を経て再び直営に「戻した」、全国的にも珍しい経緯を持つ図書館です。
本稿もAIによる整理をベースに、現地で伺った内容と視察後の自分の考察を加えて再構成しています。前編では視察の概要と、指定管理者制度導入から再直営化までの経緯を、事実関係中心にご報告いたします。
【視察概要】
・日時:令和8年5月8日(金)13時~14時30分
・視察先:山口県下関市立中央図書館(生涯学習プラザ「DREAM SHIP」内)
・応対者:﨑野美也子 館長、大石敦磨 副館長、水戸麻規子 館長補佐
1.なぜ下関市立中央図書館を視察先に選んだのか
倉敷市においても、新中央図書館の整備に伴い、「指定管理者制度を導入すべきか、直営とすべきか」という議論が今後本格化していくことが予想されます。
下関市立中央図書館は、一度は指定管理者制度を導入したにもかかわらず、運営上の様々な問題が表面化し、再び直営に戻したという、全国的にも大変珍しい経緯をたどっています。しかも、結果的に運営予算も削減できたとのこと。
この「導入して、戻した」という貴重な実体験をお持ちの現場から学ぶことで、本市の議論に厚みを持たせたいというのが視察先選定の理由です。
2.「DREAM SHIP」― 図書館は複合文化施設の一部
まず押さえておきたいのが、下関市立中央図書館は単独の図書館建物ではないという点です。
同館は、市立生涯学習プラザ「DREAM SHIP(ドリームシップ)」という複合文化施設の4階~6階に入居しています。DREAM SHIPは、かつて別々に存在した中央公民館・婦人会館・文化会館を統合・複合化して整備されたもので、市民ホール(大805席・小204席)、多目的ホール(360席)、各種会議室、料理教室、音楽室、茶室などを備える総合文化拠点です。
・建物全体の延べ床面積:18,408㎡ ・図書館部分の延べ床面積:約4,000㎡ ・蔵書数:約45万冊
この「図書館は複合施設の一部」という構造が、後述する指定管理者制度導入の判断にも大きな影響を与えることになります。
3.整備の経緯 ― PFIからDBO、そして指定管理者制度へ
同館の整備は、平成の大合併に伴う合併特例債の活用を前提に構想されました。時系列で整理すると次の通りです。
・平成16年度:基本計画策定
・平成17年度:整備手法をPFI方式からDBO方式(Design-Build-Operate=公設民営方式)に変更
・平成19年度:指定管理者選定(合人社計画研究所グループと協定締結)。この時点では、図書館運営は「直営維持」の方針。
・平成21年度:DREAM SHIP竣工。開館直前になって、中央図書館も同一の指定管理者に委託することを決定。 ・平成27年度:運営上の問題が表面化。図書館部分のみ再度直営化へ変更。
ここで注目すべきは、当初は「図書館は直営を維持する」方針だったにもかかわらず、開館直前になって指定管理者制度への変更が決まったという点です。
その理由としては、①設計・建設・維持管理を一括化し、DREAM SHIP全体を一体運営するほうが効率的、②民間ノウハウを活用する、といった説明がなされたそうです。
しかしながら、下関市内の他の小規模図書館5館は直営を維持していることを考えると、中央図書館の指定管理者化は、「民間の図書館運営ノウハウに期待して積極的に導入した」というより、「DREAM SHIPの施設管理に付随して決定された」という印象を、私は受けました。
4.指定管理者制度の下で起こった問題
さて、開館直前に指定管理者制度が導入されたわけですが、その後、様々な問題が表面化することになります。
①司書の大量離職 開館日数の拡大や営業時間の延長は、司書の労働強化につながりました。処遇への不満から司書が大量退職。代わりに採用した人員も定着せず、業務遂行そのものが危ぶまれる状況に陥ります。
②地域資料継承機能の劣化 郷土資料や地域資料に精通した職員が不足し、地域資料の継承にも悪影響が及びました。図書館の重要な社会的機能の一つである「地域の知の記憶装置」としての役割が損なわれてしまったわけです。
③一括再委託の問題 指定管理業務が、特別目的会社(SPC)の代表企業へ一括で再委託されていた点も問題視され、市のガイドラインとの整合性が課題となりました。
④コスト管理思想の違い(私見) これは私の推察ですが、貸出冊数に連動する変動型の委託料が採用されていたため、固定費で管理できる直営方式とは根本的にコスト管理思想が異なっていたのではないかと思います。利用が増えれば費用も増える構造で、コストにキャップがかけられないわけです。
これらの問題を受け、最初の契約期間である5年を経過した後、原初の構想通り図書館のみを直営に戻すことになりました。DREAM SHIP建物本体の運営については、(公財)下関市文化振興財団という準外郭団体を非公募で指定するという、いわば旧来型の体制へと一気に舵を切り直したことになります。
次回予告 ― 後編は「所感編」です
後編では、以下のポイントについて、私自身の所感と倉敷市への示唆を率直にご報告いたします。
・下関のケースは「民営化そのものの失敗」なのか、「発注側のマネジメントの失敗」なのか ・図書館に求められる機能はそもそも変化しているのではないか ・過去に視察した札幌市図書・情報館の事例との比較 ・倉敷市の新中央図書館整備への示唆
(後編に続きます)
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