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【会派視察報告-後編】佐賀県伊万里市民図書館 ― 直営か指定管理者か、そして倉敷市の図書館づくりへ

2026/7/10

前稿【前編】では、佐賀県伊万里市民図書館の運営の特色を、市民参画・直営・司書育成・レファレンスの4つの切り口でご紹介しました。


[前編はこちら👉
http://blog.livedoor.jp/ash_ashida1185/archives/31259884.html

 

前編でも述べた通り、同館の運営ぶりには目を見張るものがありました。ただ、視察の目的は「感心して帰ってくること」ではなく、倉敷市の今後の図書館運営に活かすことです。本稿【後編】では、視察を踏まえての私自身の所感と、倉敷市への示唆を率直にご報告いたします。


本稿もAIによる整理をベースに、現地で伺った内容と視察後の自分の考察を加えて再構成しています。

 

5.所感

1) 「直営だから成功した」のか、「投資したから成功した」のか

まず率直に申し上げて、伊万里市民図書館の運営ぶりは素晴らしいものでした。市民参画は形式ではなく実態を伴っており、司書のプロ意識も高く、地域に深く根を張った図書館の姿がそこにありました。

その上で、冷静に押さえておきたいのが、同館が平成7年の開館時に、当時としては高額ともいえる約23億円を投じて整備されており、また現在でも年間1億円を大きく上回る運営予算で経営されているという事実です。初期投資額は伊万里市の規模から見ても大きな投資であり、「市として図書館運営に本気で力を入れる」という明確な意思表示であったといえます。

つまり同館の成功は、「直営を選んだから」というよりも、自治体としてどこまで本気で図書館に投資し、どこまで市民参画を制度として支え続けたか、という判断の総体の結果である、と受け止めるのが適切と考えます。

伊万里市では開館に先立ち、図書館設置条例にて

「伊万里市は、すべての市民の知的自由を確保し、文化的かつ民主的な地方自治の発展を促すため、自由で公平な資料と情報を提供する生涯学習の拠点として伊万里市民図書館を設置する。」
 

と定めました。

漫然と公営貸本業施設として整備するのではなく、事前に図書館設置条例にて、図書館の機能、あり方を確りと練り込んだ自治体は非常に少ないはず。この点も他の自治体の見本であると同時に、同市の図書館事業に対する思い入れの強さの証左とも言えます。


運営形態の議論の前に、「どれだけ本気で図書館に向き合うか」という覚悟の議論がある ―― これが視察の最大の収穫でした。

 

2) 「民間には無理」と決めつけてよいか

同館が強調する、
・質の高いレファレンス機能
・利用者の知的好奇心を刺激するサービス
・市民活動を呼び込む場としての図書館

などの長所は、本質的に民間企業には対応不可能な領域とまでは、私は言い切れないと感じました。
 

確かに前出の図書館設置条例の条文は、「すべての市民の知的自由を確保し」、「民主的な地方自治の発展を促す」、「自由で公平な資料と情報を提供する」など、一見すると民間の営利主義とは親和性が低いと読む人もいるかもしれません。
 

しかしながら、顧客満足度が死活問題となる民間企業に対し、募集時の仕様書でこれらの役割を明確に規定すれば、民間でも対応できる余地は十分にあり得るのではないかと思います。
 

むしろ懸念すべきは、「民間=商業主義であり、公営図書館には馴染まない」というシンプルな拒絶反応が先行することで、優秀な企業関係者が距離を置き、かえって自治体側の機会損失を招くことです。
 

書棚の整理や本の貸し出し/返却の作業は単純作業であり、司書が担うべき理由となる高度な知見は要求されないと思われます。また館内清掃などは、伊万里市民図書館でも、外部業者に委託しているそうです。「何が何でも全面一括直営化」という話ではなく、どこに直営部分を残すかという議論ではないかと思います。

一方で、前編でご紹介した通り、司書育成という「時間軸」に関しては、雇用に期限が設けられない直営方式に一定のアドバンテージがあることも事実です。ここは5年間など委託期間を区切られる指定管理者制度が本質的に苦手とする領域であり、直営の強みとして正当に評価されるべき点だと考えます。


3) ネット時代における司書機能をどう再定義するか

もう一点、正直に触れておかねばならないのは、インターネットやAIの普及です。

広範な情報検索、書籍情報の検索、書評や関連書の探索――かつて司書が独占的に担ってきた機能の一定部分は、既にネット検索や館内の書籍検索端末で代替可能になっています。(個人の性向として)自分専用の本を購入して、書き込みをして使いたい私は、ある時期からアマゾンによる書籍検索や類似本紹介機能を利用し、図書館は利用しなくなりました。似た経歴をお持ちの方はいるはずです。
 

(また、余談ですが、筆者自身、ある市立図書館で探したい本の相談した際、司書により館内の検索端末に案内された経験があります…。)


だからこそ、これからの司書には「検索の代行」ではなく、「書籍による知的探究の伴走者」としての役割が求められます。伊万里市民図書館は、まさにその方向で司書機能を再定義し、レファレンスと市民参画にリソースを集中することで、ネット時代でも代替されない価値を生み出しているように見えました。もちろん購入する新刊書選定や、地域資料の保存の価値判断も司書に継続的に求められる価値発揮場面でしょう。
 

「司書は直営での雇用か、指定管理者が雇用するのか」の検討ではなく、「これからの司書に何を担ってもらうのか」を先に定義することが、運営形態の議論よりも先に必要ではないか、と強く感じました。
 

また、それほど価値のある司書の機能であれば、直営により、「司書の雇用を守る」、「処遇の悪化を防ぐ」といった議論ではなく、司書を特別職化し、処遇を向上させることも選択肢になるはずです。

4) 倉敷市の現状「利用率26%」という数字

そして、忘れてはならないのが、倉敷市自身の現状です。


本市の新中央図書館整備に先立ち、令和4年2月に実施された市民アンケートでは、「過去1年に図書館を利用したことがある」と答えた方は全体の26%に留まりました。しかも、そのうち約53%は「年に数回程度」の利用です。
 

「複合施設における図書館の在り方についてのアンケート」 の集計結果について  (リンク資料の4ページご参照)👇

https://www.city.kurashiki.okayama.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/018/993/libraryquestionnaire.pdf
 

つまり、現在の図書館は市民の一部にしか届いていないのが実態です。この現状を踏まえずに「直営か指定管理者か」という運営形態論だけを議論しても、市民の暮らしにとっての実益は乏しいのではないか、というのが正直な思いです。

 

6. 倉敷市の図書館づくりへ ― 複合施設化という方向性

同時に、この「利用率26%」という現状をそのまま是とすることも問題です。
本市が現在検討している、図書館を複合施設化して、本との接点や入口を増やすアプローチは、その意味で的を射たものだと考えます。

庁舎等再編整備事業(市民交流ゾーン)の基本設計 概要版(2ページ目の「基本理念」ご参照)👇
https://www.city.kurashiki.okayama.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/023/368/kihonsekkei_gaiyou.pdf

図書館を「本を借りに行く場所」から、「立ち寄ると自然に本と出会える場所」「多世代が交流する場所」へと再定義する。伊万里市民図書館の市民参画のノウハウは、倉敷市の方向性と通底するものがあると感じました。


7.まとめ ― 覚悟の話に行き着く

前編・後編を通じての結論として、改めて申し上げたいのは、

「直営か指定管理者かという議論は、つまるところ、自治体がどこまで本気で図書館に向き合うかという覚悟の話に行き着く」

ということです。

  • 伊万里市が直営+市民参画で成功しているのは、直営という形式のおかげではなく、多額の初期投資と、市民・司書・議会が長年積み上げてきた蓄積の結果である。
     
  • その本質は、指定管理者制度の下でも、仕様書と評価の設計次第で相当程度実現し得る。行政コストの適正化はいつであっても必要である。
     
  • ただし、10年・20年で司書を育てるという一点においては、直営に優位性がある。
     
  • そして何よりも、利用率26%という倉敷市の現状を出発点に、複合施設化を含めた「入口を増やす」戦略を丁寧に組み立てていくことが必要である。


新中央図書館の議論はこれからが本番です。今回伊万里市で伺った知見を、倉敷市の議会の場でもしっかり活かしてまいります。


最後になりましたが、休日にもかかわらず長時間にわたり丁寧にご対応くださった伊万里市民図書館の墨谷館長、鴻上前館長、中村係長、図書館フレンズいまりの皆さま、そして盛泰子伊万里市議会議員に、心より御礼申し上げます。

下関市立中央図書館の視察報告は、別記事にてご報告いたします。


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