2026/6/4
これは3人の男たちが同日にフラれた青春の物語である。
※私以外の人物の名前は仮名です
19歳の春、大学2年生になった私は友人に誘われて早稲田祭の運営スタッフになった。いわゆる学園祭実行委員会というやつだ。
それまでの私は中高を混じりっけなしの男子校で過ごし、大学進学後も何を間違ったか「早稲田カンフー」というサークルを選んでジャッキー・チェンを目指して鍛錬を勤しんでいた。
…いま思い返してもまったくの謎行動なのであるが、早稲田カンフーと迷っていたもう一つのサークルがヘヴィメタル研究会みたいなところだったので、たぶん何度人生をやり直しても同じような失敗をしているんだと思う。なにやってんだよ。
そんな私にとって、そこは始めて行き着いた桃源郷であった。
なにせ、女子がいるのだ。しかも驚くほど沢山。仕事をしても飲み会をしても、女子がいる。
この当たり前の環境から人生の大半を隔離されていた生粋の童貞たちは、当然のごとく発情した。私もご多分に漏れず、同じチームで活動する同学年の女子に激しく恋心を抱くことと相成った。
総務局という「裏方スタッフのそのまた裏方」みたいな部署で、組織内広報誌の発行や内部ホームページの更新をするチームに配属されたのだけど、
恋の力というのは恐ろしいもので、DTP(童貞パワー)をいかんなく発揮した私は、その子の気を引くためだけに瞬く間にイラレのデザインやHP更新まで完璧にマスターした。当然、失恋した後にはすべて忘れた。
さて、当時の早稲田祭運営スタッフは意外と(?)硬派なところがあって、
「早稲田祭本番(11月)が終わるまでは、どんなに好きになっても告白・交際してはいけない」
という鉄の掟があった。わりとこっそり破られてたけど。
同じく広報局の女子を好きになった同期の高田(仮名)と2人で、私たちは悶々とした日々を過ごしながら、告白をするその日に向けて作戦を練った。
なお高田(DT)も当然のように男子校出身であり、恋愛弱者が集まったところでロクな作戦など思いつくわけもなく、日々酒を飲み、ゲオでアダ◯トDVDをレンタルして帰った。
そんな私には一つ懸念点があった。
好きになったA子さんには、運営スタッフ内にとても仲の良い先輩・堀江くん(仮名)がいた。堀江くんは話が面白くて、文章を書くのも歌を歌うのも上手く、誰からも尊敬されるナイスガイ。
男子校出身でありながらコミュ力も高い、私にとっても憧れのパイセンであった。
A子さんはすでに堀江くんと付き合っているのではないか?
明らかに堀江くんもA子さんと過ごしている時は楽しそうだ。早稲田祭が終わるまで本当に待っていて良いのか?先手必勝ではないのか、いやしかし…。
悶々としながらやはり私は日々酒を飲み、深夜になるとDLしたエ◯動画を結合する作業に勤しんでいた(懐かしい)。
取り立てて劇的な進展もないまま月日は過ぎて、2004年の早稲田祭は感動のフィナーレを迎えた。20歳になった我々が向かうフィナーレはここからである。ハッピーエンドであれ。
高田と私の計画は極めてシンプルであった。「早稲田祭の打ち上げの日に告る」。
高田は二次会の居酒屋を選択。私はお酒の力に頼るのはなんか違う気がしたので、夕方に文学部キャンパス(今はなき記念会堂前)で告白することにした。A子さんが第二文学部生だったので。
一世一代の告白はあっけないものだった。
「ずっと一緒に仕事をしていて、好きになりました。付き合ってください!!」
「ありがとう。うん、でもごめんね…もう(彼氏が)いるんだ」
完敗だ。
やっぱり堀江くんと付き合っていたんだ、お似合いのカップルじゃないか…。しめやかに失恋した私は呆然と文学部キャンパスを後にし、痛飲するために打ち上げ会場に向かった。
そして懇親会の二次会。早大生御用達の居酒屋「わっしょい」の外に、高田は決意の表情とともにB子さんを連れ出していった。
彼の帰還を待つ間、ハートブレイクしてヤケクソ気味の私は堀江くんの元に絡みにいった。半年間も想いを募らせて告白して散ったのだ、嫌味の一つを言って、堀江くんに一気飲みをさせる資格くらいあるはずだ!
「堀江くん!酷いじゃないですか、付き合っているなら付き合っているって言って下さいよ!
「え、なんの話?」
「A子さんですよ!僕、今日、好きだって告白してフラれたんです。もう彼氏がいるんだって。堀江くんですよね?薄々わかってたけど、教えてくれたらフラれなくて済んだのになって…」
「いやいやいや、ちょっとまって!A子さんに彼氏がいる?知らないし、ほんと?待って、いやなんで??!」
???!!
想定外に取り乱し始める堀江くん。正気に戻った私たちはここで、状況を冷静に整理することにした。
・A子さんの彼氏は堀江くんではない
・いろいろな状況を総合すると、どうやらA子さんの彼氏は出版サークルの先輩だ
・堀江くんもA子さんに好意を持っており、相思相愛ではないかという希望的観測の元、早稲田祭後に告白する機会を伺っていた。
・そして告白する前にフラれた←イマココ
ゴメン、堀江先輩。おれ完全に余計なことを言ったわ。
そこに告白を終えた高田が帰ってきた。当然のようにフラれており、その目はクルタ族のように真っ赤だった。おつかれっす。
期せずして同じ日に失恋をした我々3人は、そこから文字通り浴びるほど日本酒を飲んだ。「富士登山!」とか言いながら一合、二合と杯を開け続け、八合目を超えたあたりで記憶ぶっ飛ぶ。
…終電を逃したらしき私と高田は、気づけば大学のキャンパスに戻って大隈講堂を見上げていた。
季節は11月。明らかに寒かったが、すでに正気を失っている我々は野営の体制に入った。
最寄りのファミリーマートに行き「すいません、段ボールください!」と懇願すると、若い店員さんがめんどくさそうに奥から大量の段ボールを持ってきてくれた。
段ボールは意外と暖かい、とよく聞く。まったくの嘘だ。全然暖かくなかった。失恋の寒さは、段ボール一枚では到底防げない。
我々の青春は、梱包されないまま散らかっていた。
翌朝、信じられないくらいの頭痛を抱え、身体の芯まで冷え切って目覚めた僕らを、早稲田のシンボルである大隈講堂は冷ややかに見下ろしている。
そこで私たちは、こう強く誓うのであった。
「もう恋なんてしない」
なんて、ね。
【エピローグ】
ちなみに同じ日にフラれた3人は今でも仲良しだ。
堀江くんは有名クリエイターになって誰もが知るゲームをつくり、私の名前を冠した謎の人物を登場させてくれた。高田は私の公式ホームページや選挙ポスターを作っている。
すっかりおっさんになった我々だけど、お互いに顔を合わせると、ほんのちょっぴりだけあの3人同日にフラれた日を思い出し、
「あれってハッピーエンドのルートあったのかな?」
「いや、ねえだろ」
と杯を片手に語り合うのであった。
終
制作・著作
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ホーム>政党・政治家>おときた 駿 (オトキタ シュン)>20歳、恋をした男子校出身の僕たちは同日に散った。