2026/7/16
国際保健から国益と国際益を考えるPTを開催し、広島大学の久保達彦公衆衛生学教授にプレゼンテーションをいただきました。私の事務所に届けられた1本のメールがきっかけとなって進めてきたテーマになります。グローバルヘルスは日本が世界をリードしている分野ですが、医療機器や製薬に限らず、実は「データフォーマットの標準」においても日本は大きな貢献を積み重ねてきています。その中心にいらっしゃるのが久保先生です。

日本には災害時に派遣されるDMATと国際緊急援助隊の派遣によるJDRが存在しています。しかし2011年の東日本大震災の時には多くの医療関係者が現地に入っていく中で「標準カルテ」がなく、救護所に無数の様式が散在し引き継ぎに支障が発生していました。また「標準診療日報」がなかったため、本部が患者の全体像を把握できず医療調整に課題がありました。
きっかけとなったのは、2013年のフィリピンミッションだったといいます。
世界中から地震に見舞われたフィリピンのレイテ島に緊急医療チームが集まっていた所、どのような患者が何人いるのかのサーベイランスはSPEEDというシステムで把握可能になっているのに気付きました。フォーマットは実にシンプルです。日本であれば、体温を測って37・8度とか記入しがちですが、緊急時には「発熱があるかどうか」が大事であって何度であるかは必要ない、との判断に基づいてシンプルになっていたのだそうです。感染症なのか、骨折なのかによって対応する医師が変わってくるので、正確に情報を収集することが重要です。
災害診療記録が日本で作られ、初めてこのフォーマットが使われることになったのが熊本地震でした。シンプルなデータにしたことで、どの地域に感染症が増えたのかが分かり、衛生機器を優先的に回す事などが出来るようになりました。
このようにフィリピン発日本育ちのJ-SPEED方式がWHOで2017年にMDS(ミニマムデータセット)として国際標準に採用されることになりました。2019年モザンビークサイクロンの時にも2023年のトルコ大地震の時にも2025年のバヌアツ地震の時にも活用され、それぞれの国の保健大臣らに毎日正確な情報があがるようになり、大変有り難がられました。
「これまで海外チームを受け入れても何のデータも残らなかったが今回は日本のデータの標準を活用することで変わった」
「JICAチームの活動によって保健省職員が守られていると感じた」
「平時にもここまでデータが集まることはなかった」
といった感想も届けられています。リアルタイムの状況を可視化させたMDSはゲームチェンジャーだと評価されました。

ASEANではMDSを共通ルールとして取り入れたり、中南米や大洋州などの国向けの災害研究、サーベイランス研修でもMDSを使うことができる人材が育ちつつあります。
災害医療分野ではドイツ、イタリアに続いて、日本の広島大学がWHO協力センターに指定されており、ガザのデータをリモートで管理する協力も行っています。ガザとウクライナのデータ比較によって、銃撃による怪我だけでなく、環境変化に伴う疾病や生活習慣病も顕在化していることも分かっているのだそうです。
「緊急時にデータを活用しても良い」と思われるのも、日本への信頼の証左です。一方で、標準フォーマットを目指すヨーロッパ、ドイツ、オーストラリアの台頭の話も出てきています。一度ツールを奪われてしまうと日本が標準化の舞台から締め出されてしまうかもしれません。日本が主導権を得ているチャンスを失うわけにはいきません。日本は災害の多い国ですが、だからこそ災害時対応、復旧復興プロセスの知見が蓄積されており、多くの国に貢献できる分野となっています。
日本が国際標準管理を主導し、医療救護を世界に届けることができる国であり続けたい、という思いを共有する時間となりました。
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