
6月1日公開の「選挙ドットコムちゃんねる」では、前・駐イラク特命全権大使の松本太氏をゲストに迎え、中東情勢を解説。アメリカのトランプ大統領による活発なSNS発信とは対称的なイラン革命防衛隊の重い沈黙、この状況から私たちが読み取るべきこととは?MCの政治ジャーナリスト・今野忍記者が深掘り取材します。
MC今野忍記者:(公開日時点では、アメリカとイスラエルがイランを攻撃してから)ちょうど3カ月です。今どういう状況なんですか?今、ニュースで見るとトランプ大統領がSNSで交渉は順調だとつぶやいてみたり、また攻撃するかもしれないとつぶやいてみたり、日々のニュースってその時その時その刻んでトランプ大統領がディールをしているわけじゃないですか。だから、ちょっと揺さぶるために言ってみたりするのをそのまま垂れ流すから、一般の視聴者とか読者は今どういう状況かよくわからなくなってきているんですよ。
松本氏:それは重要な問題です。私は以前インテリジェンスの仕事もやっていましたから、見通しを立てる場合は、「ノイズを除外する」必要があるわけですね。おそらくトランプ大統領の発言というのは、もちろん重要な情報ではあるんですけれども、このイラン戦争がどうなるかを見極める上では、一種の「ビッグノイズ」かもしれないわけですよ。

ノイズがこれだけ大きいと、人は現状で何が起きているかを見誤りますよね。例えば分かりやすいのは株式市場だと思うんですけれども、株式市場はトランプ大統領の一言一言で右往左往して、今はなぜか非常にアメリカ市場も日本市場も上がっていて、日経平均株価は6万5000円を超えた。私から見るとですね、市場もそのビッグノイズに影響されすぎていて。
MC今野記者:ただ、現在(※編集部補足:収録日の5月26日時点)のステータスとしては、60日間の暫定合意を結ぶかどうかの交渉をしているんですよね。要は一時的な平和の状態で、その期間に改めて核(問題)なり何なりの大玉の交渉をしますと。完全停戦の前、それを交渉するための「プレ停戦」の合意を結ぼうとしているのが今の状況だよね。

松本氏:そうです。それを「覚書」と言っているわけですけれども。
MC今野記者:60日間の暫定的な停戦の覚書ですね。これは結べそうなんですか?
松本氏:色々な評価があると思うんですけれども、私の見方は極めて、依然として厳しいと思っています。私がどこに注目しているかというと、やはりイランの革命防衛隊が何を言っているか。これがすべての基本です。
MC今野記者:やっぱり革命防衛隊ですね。(トランプ)大統領やアラグチ外務大臣が色々言ってニュースに流れるけれど、やっぱり革命防衛隊。ここがどう考えているかですね。
松本氏:彼らは今に至るまで、一切「合意を結ぶ」ということは言っていないわけですよ。あと例えば、ホルムズ海峡の封鎖解除であるとか、あるいは核について議論をするかといった主要な問題がありますけれど、これらについて何一つ前向きな発言は革命防衛隊そのものからは出てきていないんですね。要するに、そこまで沈黙が今も続いているんです。他方で、トランプ大統領はじめワシントンからは大きなノイズが出てきている。現状を理解する上で、我々はどちらをベースにすべきなのか。私の見方はやっぱり、革命防衛隊のこの「大きな沈黙」ですね。
MC今野記者:だから、みなさんがニュースを見るポイントとして、革命防衛隊がどう言っているかに意識を向けて、色々なニュースやネットの情報を見た方がいいってことですよね。トランプさんがこう言った、ああ言ったという情報だけに振り回されていると、逆にノイズになってしまう。
松本氏:で、残念ながら沈黙というのはニュースになりませんからね。だからこそ、これはニュースの本質的な問題に関わる部分だと思うんですよね。
他方で、イランのアラグチ外務大臣とか外務省の報道官とかは色々なことを発信しているわけですけれども、彼らの発言というのはニュースになるんですよね。
それはトランプ大統領が、おそらくアメリカの国内向けに行っているであろう発言と呼応するわけですよね。そうすると、それを聞いている側からすると、「じゃあこの覚書は結ばれるんじゃないだろうか」というような流れになっていくわけです。
MC今野記者:僕もそんな感じに認識していました。
松本氏: だから私がここで言いたいのは、やっぱり「多く語っている人よりも、重い沈黙を守っている人の心がどういう状況にあるのか」を深く理解することが、この時点で最も重要じゃないか、と思うんですね。

MC今野記者:なるほど。イラン戦争の今後を見極めるニュースのポイントとして、トランプ大統領のような声の大きい人よりも、沈黙している革命防衛隊にちゃんとフォーカスしないと、ニュース解説をしていても見通しを誤る可能性があるわけだですね。
松本氏:そうですね。ところが「沈黙を解説する」というのは、メディアとしてはなかなか難しいわけじゃないですか。
MC今野記者:難しいですね(笑)。
松本氏:政治部で言えば、黙っている政治家にどう取材するかですから。革命防衛隊というのは、まさにそういう存在なんです。
(中略)
松本氏:元アフガニスタン大使を務められていた鈴鹿(光次)さんの話を耳に挟んだんですが、彼がイランの現状をどう見ているかというと、「革命防衛隊というのは、そんな簡単に譲歩をするような組織じゃないよ」と。ペルシャ語の専門家である鈴鹿元大使はそう指摘していて。なぜならば、今、革命防衛隊の司令官や将軍になっているような人たちというのは、いわゆる「革命第一世代」なんですね。要するに、1979年にイラン・イスラム革命が起きて、その直後の1980年から1988年までの8年間にわたって、イランはイラクと戦争をしました。
MC今野記者:いわゆるイラン・イラク戦争ですね。
松本氏:そうですね。いわゆる「イライラ戦争」と呼ばれています。その戦争を、彼らはティーンエージャーから20代の若い時期に、まさに戦争の最前線で過ごして生き残ってきた人たちなんです。それが今の革命防衛隊の司令官レベルなんですね。そうすると、彼らは今ちょうど60代の後半から70代前半くらいの年齢に達しています。例えば、革命防衛隊のアフマド・ヴァヒーディー総司令官がいますが、彼は現在67歳ですね。
MC今野記者:まさにじゃあ。
松本氏:革命が起きた47年前は、20歳だったわけですよ。そういう時期に最前線に出て、8年間も戦争を戦い抜いたわけです。そして、そういう人間たちが、数は多くないですけれども現在のイランを牛耳っているわけですね。そんな人たちが動かしているイランというのは、そんなやわな国じゃないと。
MC今野記者:若い頃に国の存亡をかけて戦った第一世代、革命の世代の人間たちですからね。
松本氏:まさにそうなんですよ。今回の戦争はまだ始まってわずか3カ月ですから。8年間戦い続けた人たちの脳みそがどういう風に考えているのか。っていうことが重要だということを、鈴鹿元大使は言われたかったんだと思います。
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