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古典ではぜんぜん違う意味だった「選挙」の語、知っていますか?-文豪たちの見た選挙 第一回 菅原道真-

2015/11/20

安倉儀たたた

安倉儀たたた

今回からシリーズ「文豪たちの見た選挙」がはじまります。過去に行われた様々な選挙を見てきた文学者たちの記事を追い掛けるこの企画。第一回は古典文学篇ということで菅原道真公の足跡を追い掛けます。

さて、今回からは連載として「文豪たちの見た選挙」というテーマで、いろいろな文学作品に登場する「選挙」を追い掛けてみようと思います。というのもこの私、このあたりのことには少々心覚えがありましてね。政治家になった文学者もいることですし、ちょっとした歴史の勉強にもなるでしょう。それにもう終わってしまった選挙でもリアルタイムに経験した声を聞いてみるのも楽しいでしょうしね。

選挙の語志

nikkokuというわけで、今回は「選挙」という言葉について調べてみましょう。僕らが普通に使っている「選挙」という言葉はいつから使われているのでしょうか。
こういう時、まずは小学館の『新編日本国語大辞典』を引いてみます。それによると、「選挙」には二つの意味が立項されております。まずはよく聞き慣れたこちらの意味。

B 一定の組織・集団が代表者や役員を選出すること。特に、投票による公務員の選出についていう。普通選挙・制限選挙、直接選挙・間接選挙、平等選挙・不平等選挙などがあるが、近代国家では普通・直接・秘密・平等の四つが選挙の大原則とされている。

この「投票による公務員の選出」がおなじみの選挙(※編集部注──政治家が公務員かは解釈に幅がある)。この「選挙ドットコム」で使われている「選挙」のことです。この言葉は近代に入ってから――もちろん普通選挙法の頒布以前から――この意味で使われてきた事がしられています。

同じく『新編日本国語大辞典』用例を見てみると、シモン・ヒッセリング著、津田真道訳『泰西国法論』に「代民議事、制法の権を分領する国に於ては、推挙に応ず可き人並に選挙を為す人を定むる事詳明なる可し」とあるのが初出とされています(こちらは次回)。「制法の権を分領する国」では「選挙を為す人」を定める方法がはっきりと定められているというわけです。

国立公文書館より

国立公文書館より

もちろん、「選挙」が古くからずっとこの意味で使われてきたわけではありません。『日本国語大辞典』には次のような意味も立項されています。

A 多人数の中から選び出して推薦すること。また、国家で人材を登用すること。

元々はこの「国家で人材を登用する」という意味でした。誰かが「選ばれる」のではなく、国が「選ぶ」ワケです。新しくは明治三四年(1901)の『仏国風俗問答』に「女王車とは洗濯女の中より容貌端正、品行方正なるものを選挙して、当日の女王と為すことにて」と用例が掲げられていますが。この言葉を探っていくと、もっと古く、中国の文献に確認できます。ぱっと調べてみるところ、『漢書』に20例、『旧唐書』に17例他、歴史書に多く使われていますが今回は割愛。

道真公の選挙は公平でした。

ウィキペディアより太宰府天満宮

ウィキペディアより太宰府天満宮

それで日本ではどう使われているか、というと、「六国史」に数例、『類聚三代格』や『政事要略』といった法令(先例)集にも用例が見えますが、古典の文学作品となるとなんと一例しか見つかりませんでした。

太宰府にまつられる学問の神様、菅原道真の詩集である『管家文藻』巻二・八七の「博士難。古調」という詩です(本文は『古典文学大系』によりました)。

儒学者の家に生まれた道真が勉学に励み、父親から頼りになる兄弟がいないと心配されながらも、ついに博士になって学生達を指導するようになる。でもそれは、わずか四日目にして学生たちから誹謗のうわさを聞いてしまった。私はテストをしても、その合否は明らかだったにも関わらず、才能がなくて真っ先に捨てられた者たちは、巧言をいって実力に見合っていない、不当だと文句をいう……という話に続く部分。

教授我無失
選擧我有平
誠哉慈父令
誡我於未萌

教授、我れ失ふところなし
選擧、我れ平なることあり
誠なるかな、慈父の令へ
我を未だ萌さざるに誡めたまひぬ

この「教授」は教えること、「選挙」は文字通り人を選ぶことですから、学生達に対する考査をさします。道真の生きた9世紀には「考課制」という制度が機能しており、テストで人の登用を決めていました。これに落ちた学生達はさぞ大変だったんでしょう。それでも道真は自分の教授は間違ったところはなく、私の選挙(採点というか合否)には失敗した部分はなかったと訴えるわけです。

先生の苦悩というわけですね……。

こうした考課制は結局十世紀中には姿を完全に消してしまい、それから長いこと文学作品に現れることはありませんでした。こういうとかなり語弊があるのですが「選挙」は近代にいたるまで「忘れられた言葉」だったのです。

さて、ではこの選挙、どのようにして近代に復権していくのでしょうか。次回をお楽しみに。

 

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安倉儀たたた

安倉儀たたた

1984年生まれのぐうたら生きてる趣味人です。KAI-YOU.netでは「新世紀の音楽たちへ」を連載中。選挙恐怖症を乗り越えるべく、読者と一緒に〈遠巻きからの選挙入門〉をしていく所存です。

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