「国民の信頼回復のために火の玉となって自民党の先頭に立ち、取り組んでまいります」
13日の臨時国会閉会を受けて記者会見をした岸田文雄首相は、自民党で渦巻く裏金問題への対応について「火の玉」という異例の表現を使って決意を示した。
しかし、永田町関係者からは「『火の玉』というよりも『火だるま』じゃないか」と失笑する声も漏れている。もはや岸田政権は降りかかってくる火の粉を振り払えない中、どんどん炎上しているような状態だと言えるだろう。
翌14日の報道各社の新聞朝刊には、安倍派の大臣、副大臣が交代した後の新人事と、「強制捜査」という文字が紙面を踊った。
今回の問題は、自民党の派閥が開いた政治資金パーティーの収入が過少に記載され、その分が記録に残らない、自由に使えるお金、つまり裏金となってしまっていたのではないかと見られている。
特に、安倍派においては、派閥に所属する個々の議員が、課せられたノルマを超えてパーティー券を販売した際に、ノルマ超過分が収支報告書に記載されない状態でキックバックされて裏金化し、悪質性が高いと見て検察が捜査を本格化させている。
そうした中、国会閉会直後の14日に、岸田首相が早期に安倍派の大臣、副大臣を外す人事を断行した。
もともとは、検察の捜査が一区切りついた後、捜査線上にあがった議員をまとめて更迭する、12月下旬の内閣改造説もあった。
だが、現職の大臣や副大臣が検察から事情聴取を受けるような事態は岸田政権にとって良くないと判断し、先手を打つこととなったわけだ。
しかし、この早期人事は諸刃の剣とも言える。
検察は二階派や、岸田首相が率いてきた岸田派についても政治資金パーティーの過少記載について調べており、今後、派閥に所属する議員の責任が問われる可能性もある。
これから検察の捜査が本格化する中で、事情聴取を受けるような大臣や副大臣が現れれば、改めて人事を行わなければならなくなり、岸田政権の対応が場当たり的だと見られかねない。
実際、1988年にはリクルート事件を受けて竹下登政権が内閣改造を実施したが、法務大臣に就任した長谷川峻衆院議員は、就任3日後にリクルートから政治献金を受けていたことが発覚し、在任期間はたった4日間で交代を余儀なくされた。
さらに今回の人事で自民党内の不満を呼びそうなのは林芳正氏を官房長官に就けたことだ。
官房長官は「首相の女房役」とも言われ、首相官邸と各省庁の調整役を担う、非常に重要なポジションだ。
そこに、岸田派から、しかも将来は総理総裁を目指すと公言している林芳正氏を起用するのは「身内びいき」という批判が起きかねない。
岸田首相は当初、官房長官には無派閥議員を就ける方向で調整していたという一部報道もあるが、しかし結果的にせよ、こうした人事に安倍派の不満が爆発する可能性があるだろう。
すでに岸田首相と安倍派の間には不和も生じている。
岸田首相は今回の裏金問題で名前が挙がっている萩生田光一政調会長については、来年度予算の閣議決定をした後に交代させる予定でいるが、萩生田氏は14日に先んじて辞表を提出。岸田首相から「次の政調会長を決めるまでは責任を持って仕事を進めて欲しい」と指示されるなど、ギクシャクした関係が露呈してしまっている。
このように、自民党内で不満が溜まり、議員同士で不祥事のリーク合戦などが起きようものなら、岸田政権はますます不安定になりかねない。
こうした中、岸田政権については来年度予算が成立した後、3月末から4月にかけての退陣論も浮上している。
その理由は大きく2つある。
1つは、来年度予算が成立するまでは国会などの政治スケジュールが詰まっており、岸田首相が退陣して新総裁を決める余裕が実質的にないということ。
もう1つは、来年4月に裏金問題を受けた補欠選挙が実施される可能性があり、それまでに政権を一新する必要に迫られているということだ。
すでに、来年には細田博之前衆院議長の死去に伴う、衆院島根1区補選が4月16日告示、28日投開票で行われる見込みとなっている。
もし、今回の裏金問題を受けて、政治資金規正法違反の罪に問われる議員が出てきた場合、年内に議員を辞職して、略式起訴、略式命令で罰金刑が確定する可能性が十分にある。
そうなると、議員辞職によって選挙区選出議員に欠員が出た場合、来年4月の補選に合わせて選挙が行われることになるのだ。
例えば、昨年に政治資金パーティーの収入を過少記載していたとして政治資金規正法違反の罪に問われた薗浦健太郎衆院議員は、12月21日に議員辞職し、今年の4月23日に補選が実施されている。
このように、裏金問題を受けて罪に問われる議員が続出し、議員辞職の穴を埋める選挙が来年4月に一斉に実施されることになれば、責任を問われる自民党にとって大逆風になりかねない。
そのため、それまでに岸田政権が退陣し、新内閣を発足させて逆風にあらがっていくという観測が浮上しているわけだ。
さて、今回の裏金問題を受けて岸田政権の行方はどうなるのか。
まずは検察がどこまで自民党議員を追及するかにかかっているだろう。
ただ、「火の玉」となる覚悟の岸田首相にとっては単なるやけどでは済まず、自民党の解体的な出直しを迫られることになりそうだ。
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