本土復帰50年──。その節目に行われる沖縄県知事選挙は、始まる前から熱かった。
沖縄県知事選挙の告示日は8月25日、投開票は9月11日だ。しかし、事実上の選挙戦は告示日前から始まっていた。沖縄の選挙は「派手さ」が特徴である。
この選挙に立候補しているのは、いずれも無所属の3人だ(届出順・文中敬称略)。
下地ミキオ(61歳) 前衆議院議員
サキマ淳(58歳) 前宜野湾市長/自民党、公明党推薦
玉城デニー(62歳) 沖縄県知事/立民、共産、れいわ、社民、社大、新しい風・にぬふぁぶし推薦
最初に派手な仕掛けをしたのは、前衆議院議員の下地ミキオだった。
7月13日、下地はYouTubeライブで沖縄県知事選挙への出馬表明をした。撮影場所はアメリカのホワイトハウス前。沖縄県知事選挙なのにアメリカ。いや、沖縄県知事選挙だからアメリカなのだと下地は語った。
沖縄県の国土面積は日本の0.6%である。人口は日本の1%。しかし、日本全体にある米軍専用施設の約70%が沖縄に集中している。負担は明らかに重い。そして、沖縄が抱える基地問題の解決にはアメリカとの交渉が欠かせない。下地は衆議院議員6期21年の経験、アメリカとのパイプを強調して立候補を表明した。
「多くの人脈を持っています。そして、ここの皆さんと、どのような協議をすれば物事が前に進むのかを今まで経験してきました。私の今までの経験を、このホワイトハウスで、ワシントンで協議をする力を、私は沖縄問題の解決のためにすべて出しきりたい。すべてをかけて沖縄のすべての課題を解決していく。その役割を下地ミキオにやらせていただきたい」
沖縄の選挙では、毎回、基地問題が大きな「争点」の一つとなる。とくに大きな負担となっているのが宜野湾市中心部にある“世界一危険”な普天間飛行場の返還だ。そして名護市辺野古で進む新基地建設(政府の呼称は『代替施設』)の問題もある。日米両政府は26年前に普天間基地返還で合意しているが、今もこの問題は解決していない。
2014年の沖縄県知事選挙で勝利したのは翁長雄志だった。2018年の沖縄県知事選挙で勝利したのは玉城デニーだった。いずれもオール沖縄に推された「辺野古反対」の候補だ。しかし、その民意は日本政府に尊重されず、今も辺野古で工事は進んでいる。
2019年2月24日には、辺野古埋め立てに関する県民投票も行われた。県民投票の正式名称は「普天間飛行場の代替施設として国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立てに対する賛否についての県民による投票」。県内全41市町村で行われた県民投票の投票率は52.48%で、「賛成」11万4933票(得票率18.99%)、「反対」43万4273票(得票率71.74)%、「どちらでもない」5万2682票という結果が出た。
この結果をみても明らかなように、多くの沖縄県民は「辺野古埋め立て反対」の民意を示している。しかし、それでも国による辺野古の工事は止まらなかった。沖縄の民意は安全保障の名の下に、日本政府から“黙殺”され続けた。そのため沖縄県民からは、基地問題に対する「あきらめ」にも似た言葉が聞こえてくる。
「もちろん辺野古(の新基地建設)には反対よ。だけど、今の暮らしも大事。今を生きなくちゃ、子どもや孫に引き継げない」(サキマ淳を支持する70代の女性)
「基地問題で県民が対立するのはもう終わりにしてほしい。それよりも沖縄の経済をなんとかしてほしい」(下地ミキオを支持する40代の男性)
「辺野古新基地建設には絶対に反対。国は沖縄の民意を無視し、沖縄を差別し続けている。工事を進めてあきらめさせようとしている。負けるわけにはいかない」(玉城デニーを支持する70代の男性)
沖縄で出会った人たちに話を聞いていくと、皆、はっきりと自分の考えを教えてくれる。
「自分の意見を表明することは、政治を動かすこと」
そんな民主主義の大原則を沖縄県民は知っている。しかし、国政の場において、沖縄の声はなかなか中央に届いてこなかった。それは本土で暮らす人々の沖縄への無関心からくるものなのかもしれない。
「無意識の加害」
そんな言葉が浮かんでくる。
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