9月30日に投開票された沖縄県知事選挙では、辺野古新基地建設に反対の立場を貫いた故・翁長雄志前知事の路線を継承する玉城デニー氏が自民党・公明党などが推薦した佐喜真淳氏らを破って初当選を果たしました。
選挙期間中はインターネットを中心に候補者に関する様々な真偽不明な情報が飛び交う状況も見受けられました。
選挙前からそのような状況を予想し、NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)は複数のメディアと協力して「FactCheck沖縄県知事選2018」と題した大規模なプロジェクトを実施し、10月27日に東京都内のスマートニュース社の本社で報告会を開催しました。その模様をレポートします。
冒頭の楊井人文FIJ事務局長の基調講演では、欧米や韓国などのメディアでファクトチェックが盛んに行われていることを紹介した上で、今回の沖縄県知事選挙での取り組みについて説明がなされました。
AIによるTwitter情報の収集と外部参加者からの情報提供によって集められたファクトチェックの対象となる「疑義情報」をFIJから各メディアに提供し、記事化したものを要約してFIJのサイトに掲載してリンクする、というプロジェクトの流れを解説。
いくつかの疑義情報のうち、遠山清彦衆議院議員の以下のツイートを例にあげ、
玉城デニー氏の誇大宣伝がわかりました。彼は、一括交付金制度の中身を決めた平成24年3月13日から19日に4回開催された与野党PT交渉委員会議にいませんでした。明日、交渉委員会議メンバー9人の国会議員名を公表します。その中に私がいるので、デニーさんの不在は、明らか。デニーさん、ゆくさーです。 pic.twitter.com/dWuz1DEV6p
— 遠山清彦 (@kiyohiko_toyama) September 15, 2018
ここで遠山議員が「ゆくさー(沖縄方言で「うそつき」)」としている根拠となっている玉城氏のFacebook投稿について検証し他ところ、玉城氏が当時実際に政府に対して直談判を行っていることが確認され、「「…一括交付金(通称)の創設」を、政府与党(当時民主党)に玉城が直談判して実現にこぎつけた」という書き込みに誤りはないものの「実現にこぎつけた」という部分は、一定の寄与はあったであろうが、人により評価の分かれる点もあり検証はできないと判断し、「ほぼ事実」であると認定。結果的に遠山議員の「ゆくさー」発言は行き過ぎであることを選挙中に示すことができ、遠山議員自身も後に「強い表現だった」と釈明するに至りました。
続いて行われた沖縄県内の新聞社で今回のファクトチェックプロジェクトに参加した、琉球新報の滝本匠東京支社報道部長の講演では、県知事選挙にあたっての取り組みが紹介されました。
「何もないところに普天間飛行場ができた」「基地があるから沖縄は潤っている」といった根拠のない情報を基に沖縄の問題が語られる状況が以前から続いていたが、それがインターネット上の一部に留まらず県内の若者に影響を与え始めていることへの危機感があったことや、決まり切ったフォーマットに則った選挙報道をより面白くしたい、という動機からファクトチェックの特集を始めた経緯を語りました。
ファクトチェックの記事化にあたっては普段の原稿と基本は同様ながら、選挙期間中に掲載するので識者の評論などは掲載せず、チェックについても2〜3段階多くするなど細心の注意を払っていたことが報告されました。
一方で、ツイッター上での真偽不明な情報は9割が玉城デニー氏に対する攻撃だったため、デマを指摘することが結果的に玉城氏寄りの報道になってしまうことなど公平性の確保に苦労した点も紹介され、ファクトチェックの記事中では候補者の名前は伏せて掲載するなどの工夫をしたものの、かえって記事がわかりにくくなってしまったことなどが課題としてあげられました。
また、はっきりと真偽を述べることができないことについてはファクトチェックの記事の中には掲載することはせず、「真偽不明情報が大量拡散」と別立ての記事を設けたことも紹介がありました。
講演に続いて、立岩陽一郎FIJ副理事長を司会に、楊井、滝本両氏に加え、瀬谷健介BuzzFeed Japan記者が登壇してパネルディスカッションが行われました。
議論の中で、ファクトチェックの記事について各メディアではどのような反応があったのかについて質問が上がり、瀬谷氏はBuzzFeed Japanでは予想以上のアクセスがあったものの、検証記事以上にデマやフェイクが拡散していたことを残念に思うことが、滝本氏からは特集を続けてゆくうちに「また新報砲が出た」といったような肯定的な反応がSNS上からあった一方で、普段インターネットに触れない高齢者層がインターネット上の言説に触れる機会となったと回答。選挙にあたっての公平性確保の観点をどのように考えるのかについての質問には、楊井氏からファクトチェックの国際団体が公平性を第一原則に掲げていることを紹介しつつ、それはファクトチェックする基準をどの問題についても同一にすることに留まっており、記事の量は問題ではないと発言があったものの、滝本氏からは新聞社内の保守的かつ前例踏襲の雰囲気の中で必ずしも自由に選挙報道ができたとは言えない現状が語られました。
候補者を選ぶための政策議論をする大前提として、語られる事実が正しいものなのかどうなのかの判断に時間と手間がかかり、さらにそれを有権者に伝えてゆくファクトチェック。インターネット時代以降、誰もが情報の発信者になることができる現代においてこの動きが重要な役割を果たしており、今後の選挙でもその必要性がますます高まってゆくことになるでしょう。
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