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フィンランドではなぜ、34歳女性が国のリーダーになれる? 世界最年少首相 誕生の背景とは

2019/12/16

選挙ドットコム編集部

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フィンランドで与党・社会民主党が前首相の後任を決める投票を行い、元運輸・通信相のサンナ・マリン氏(34)を選出し、今月10日、世界最年少の首相が誕生しました。

フィンランドで34歳の女性が首相に選ばれる背景とは?フィンランドの政治を研究している東海大学北欧学科 講師の柴山由理子さんに聞きました。

(世界最年少の首相となったサンナマリン氏。マリン氏のインスタグラムより

選挙ドットコム編集部(以下、選):「今回、サンナ・マリン氏が当選しましたが、フィンランドをよく知る柴山さんにとって、これはどのような現象ととらえますか?『やっぱり!』なのでしょうか、『驚き!』なのでしょうか」

柴山由理子さん(以下、柴):「どちらもですね。今回のことも、北欧は男女平等が当たり前という流れで語られることが多いですが、フィンランドの女性首相は3人目。うち1人はすぐに退陣したので、実質過去に1人でした。言うほど輩出しているわけではないのです」

:「意外ですね。もっと当たり前のように女性のリーダーが過去にもいたのかと…。」

柴:「今、フィンランドの政党は女性や若手を擁立するところが増えています。2016年に伝統的な小規模政党である左派同盟が女性を党首に据え、緑の党、中央党などほかの政党も女性を党首にしてイメージをよくする連鎖がありました。
その流れの中で、あ、社民党もこういう方法をとったのか、という意味で驚きはないです」

(フィンランド連立政権の党首たち。https://twitter.com/TNiskakangas/status/1203729511658995713より)

:「女性を党首にする流れはごく最近のことなのですね。今回、社民党とともに連立政権を組む4党すべてのリーダーが女性で、そのうち3人が30代と聞きました」

柴:「フィンランドではいま、伝統的な政治がうまくいっていないのは各政党共通しています。有権者の不安、不満を受けて、自分たちをどうリニューアルするか、もがいている真っ最中です。

リニューアルに成功しているのが、左派同盟ですね。『マルクス主義』などの伝統的な左派のイメージではなく、ヒューマニズムを重んじる政策を前面に打ち出し、高学歴の30~40歳代の女性の支持を得ています。『モダンレフティスト』と呼ばれます」

選:「モダンレフティスト!かっこいいですね。日本でも流行らせたい(笑)

ところで、柴山さんはなぜフィンランドをご専門に?」

柴:「高校時代にフィンランド人の留学生が来ていて仲良くなり、大学に入って最初の夏休みにフィンランドに旅行に行きました。人口2,000人くらいのド田舎に滞在したのですが、ド田舎だけどインフラはしっかりしていて、人々もオープン。

高校生も普通の感覚で英語でしゃべってくれる。社会民主主義の『普遍的にみんなに配分しよう』という雰囲気を感じました。行き届いた現代的な雰囲気に、いい意味で衝撃を受けました」

選:「フィンランドは独立から100年あまりの若い国で、変化をおそれない土壌があると聞きました」

柴:「そうですね。その後、大学でヘルシンキ大学に1年間交換留学をしたのですが、そこで出会ったデザイン会社の社長に気に入られ、学生だけど日本支店を任されることになったのです(笑) そういうことが起こりえる土壌はありますね。

5年間日本支店に勤務して、2012~2018年までの5年半はそのデザイン会社の本社に勤務していました。日本に戻り、いまは北欧学科の有名な東海大学でフィンランドの政治システムについて研究しています」

選:「高校のフィンランドからの留学生がきっかけだったのですね。いろいろな偶然の出会いから今があると思うと不思議な気がしますね」

(フィンランドの政治システムについて研究する柴山由理子さん)

選:「フィンランドの選挙システムは日本と違いますか?」

柴:「フィンランドは比例代表制です。多党制で、伝統的な三大政党の国民連合党、社会民主党、中央党があり、左派同盟などの伝統的小規模政党とキリスト教民主党などの比較的新しい政党があります。環境政党の緑の党も新しいですね。

与党は三大政党が頻繁に入れ替わります。一番支持率を取れていても、全体の2割前後なので、どう連立のグループをつくるかが毎回焦点になります。

有権者側としては、それぞれの政党の主義主張がわかりやすく、有権者が『自分の考えを代表してくれる』政党はどこか、選びやすいです。自分たちの社会を自分たちでつくる関心が高い。今年4月の議会選挙は投票率が72.1%でした」

選:「フィンランドは女性に普通被選挙権を与えた最初の国とのことですが、それは社会主義の背景があるからなのでしょうか?」

(編集部注:女性普通被選挙権獲得は、フィンランドで1906年、日本では1945年)

柴:「普通選挙権を求めていた時代、フィンランドはロシアに支配されていたので、女性が男性から選挙権を獲得したいという国内の利害の対立というよりも、独立を獲得するという国外との対立軸のほうが強かったのです。自国の議会がほしい、憲法がほしい、軍隊、通貨がほしい、その延長線上に普通選挙権獲得もあって、独立の流れとつながっていた。

それと、フィンランドは農民が多く、男女のパワーバランス差が少なかったのです。工業化モデルのほうが男性優位になります。もともと国内の男女の格差が大きくなかったということですね。

1907年の最初の選挙のときに、女性議員は誕生していて、200人中19人が女性でした。男女同権の土壌はあったものの、男性の政治家が多かったのですね。そこから今につながり、今年4月の選挙では、200人中93人、47%が女性となり過去最高に。女性候補者も過去最多でした」

選:「日本の有権者が政治や選挙をもっと身近に感じるには、どうしたら良いでしょう?」

柴:「日本だと政治家は遠い存在で、『友達になりたい』という気持ちが動かないんですよね。フィンランドでは選挙期間中、公園にそれぞれの政党の選挙小屋ができて、気軽におしゃべりしたりお茶を出していたりします。ポスターもオシャレ」

 

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柴:「それと、このところの若手、女性擁立の流れの一つの要因はSNSですね。政治家がFacebookやTwitterで発信しだした。73歳の最年長の国政議員もFacebookでニュースをシェアしてコメントするなど使いこなしています。サンナ・マリンさんはインスタが上手と定評があります(12月13日時点でフォロワー9.2万人)。

日本のようにカリスマを追いかけるというよりも、もう少しフラットな関係です。選挙の時もSNSで盛り上がります。『〇〇候補、応援してね』とか、『選挙キャンペーンにいってきたよ』とか、みんな身近な話題として気軽に発信しています」

選:「SNSは、政治で使おうとするとセンセーショナルな使い方で人気取りに使われてしまう懸念もあります」

柴:「フィンランドでも、ある意味、政治がポピュリズム化しているというのはあると思います。今回の結果はそういう要素もある。でもマリン氏には、そうした瞬間的な『流れ』『トレンド』で終わってほしくないなと思いますね。
人口減少の課題がある中で、いかにうまく社会を縮小していくかのモデルを提示してもらいたいと思っています」

選:「世界的にも人口減少時代のお手本になるような政策を進めていってほしいですね。きょうは貴重なお話をありがとうございました」

 

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2023年に年間1億PVを突破した国内最大級の政治・選挙ポータルサイト「選挙ドットコム」を運営しています。元地方議員、元選挙プランナー、大手メディアのニュースサイト制作・編集、地方選挙に関する専門紙記者など様々な経験を持つ『選挙好き』な変わった人々が、『選挙をもっとオモシロク』を合言葉に、選挙や政治家に関連するニュース、コラム、インタビューなど、様々なコンテンツを発信していきます。

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