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単に投票する人を増やすのではなく 「情報をみるリテラシーのある有権者」を増やしたい。「さいたま賢人」運営メンバー・原口和徳氏インタビュー

2019/8/24

選挙ドットコム編集部

選挙ドットコム編集部

埼玉県知事選挙(以下、埼玉県知事選)が今週末の8月25日に迫る中、過去3回の投票率が20%台に低迷している埼玉県知事選の投票率をなんとか上げようと、様々なキャンペーンや取り組みが行われています。
その中で、ただ選挙の投票率UPを目的とするのではなく、一歩踏み込んで「選挙リテラシー」を育むことに力を入れて独自の活動を行っているのが「さいたま賢人」です。

さいたま賢人サイトより

埼玉を舞台に政治と教育をつなぐ活動を行うさいたま賢人を立ち上げたメンバーのひとりである、原口和徳さんにさいたま賢人の具体的な活動の内容やその狙いについてお話を伺いました。

単に投票率を上げるための啓発活動から、一歩踏み込んだ支援の必要性を感じ「さいたま賢人」を立ち上げることに

選挙ドットコム編集部(以下、選挙ドットコム)
まずは「さいたま賢人」立ち上げの経緯について、お話しいただけますか?

さいたま賢人運営メンバー・原口和徳氏(以下、原口氏)
「さいたま賢人」としては、最初にサイトを作ったのが前回の埼玉県知事選のときなので、2015年ですね。
早稲田大学マニフェスト研究所でも活動されていて、今も一緒にさいたま賢人の運営をしている青木佑一さんなどと連携して立ち上げました。

集まった仲間は、みなそれぞれに選挙や政治についての意識啓発活動を行っていたのですが、
18歳選挙権などもスタートした状況の中で、様々な取り組みに対して「対象者がもう少し踏み込んでくれるといいなあ」という共通の思いが高まってきました。
2017年からさらに活動を広げていこう・深めていこう、ということで、改めて「けんみん会議勉強会」を立ち上げました。その中のひとつの活動として「さいたま賢人」も再スタートしたという流れです。

選挙ドットコム
選挙や政治についての意識啓発に対して「もう少し踏み込んでほしい」というのは、例えばどういったことでしょうか?

原口氏
例えば、初めて選挙というものをすることになった若者たちに向けて、これまで模擬選挙のイベントなどを行ってきましたが、投票の疑似体験をしたことで具体的な投票の仕方そのものはわかっても、それが実際の「自分たちの代表を選ぶための行動」にはうまくつながっていかないという歯がゆさがあったんです。
実際に投票しようとするとき「どうやって情報を集めたらいいのか」「何を基準に候補者を選ぶべきか」という、投票するための技術というかリテラシーを得るための取り組みを行わないと、本当には投票への意識啓発につながらないのではないかと。

選挙ドットコム
実際、18歳選挙権が始まった当初は、10代の投票率はかなり高かったのですが、イベント感覚で参加した人も多かったのか、しばらくするとブームも去って投票所に足を運ぼうとする若者は減っているようですね。

原口氏
そうですね。まぁ投票率が低いのは若者に限ったことでもないんですが。
とくに埼玉県は総務省のデータを見ても全国の知事選の最低投票率ワースト5のうち3つを占めているという残念な過去実績があります。
それを踏まえて、今回の知事選に向けては選管が映画「翔んで埼玉」とコラボするなど、がんばってキャンペーンをしてくれていて、投票率アップを目指していますのでそこはお任せしようと(笑)。
一方で私たちは質と量というとらえ方ですと、質の方を重視して、投票する人を増やして投票率を上げましょうという量の活動というよりも、投票に行く人が自分の意思でより明確に候補者を選ぶためのお手伝いをしていくという方向でアプローチしていきたいと考えています。

地方政治を題材に、主権者教育を実践する際に活用できる様々なデータや教材プログラム、その実践事例を、「政治的中立性」を確保しながら発信

選挙ドットコム
「さいたま賢人」の取り組みの目的はどのようなものでしょうか。

原口氏
ざっくりいうと2つあります。
ひとつめは直接の「選挙」に向けた取り組みで、もうひとつは選挙や政治への重要性をしっかり認識できる、質の高い主権者として政治に参加する意識を育む取り組みです。
そのために教育現場で活用できる教材を作ったりデータをまとめたり、様々なワークショップを行うほか、現場の先生たちの実践事例を共有するなど、情報を発信しています。

選挙ドットコム
ではひとつめの選挙に向けた取り組みから教えてください。

原口氏
必ずしも今回の選挙に限った話ではありませんが、最近「わかりいい言葉」や「響きやすい数字」が選挙で使われるようになったと思うんですね。たとえば「待機児童ゼロ」とか「教育の無償化」など、多くの政治家が口にします。
でも、その言葉や数字が本当に意図するところって、みんな同じに受け取っているかというと実はそうではないんじゃないかと。
「待機児童ゼロ」にしても、例えばどの時点での待機児童ゼロを指しているのか、それは学童保育のことなのか、保育所のことを指すのか、というように。
きっぱり言い切っているようでいて、実はあいまいなことが多いんです。
みんなにわかりいい表現や具体的な数字を政党や候補者側が使うようになったとき、有権者の側もその情報をしっかり読み取れるようにならなきゃいけないと。

例えば、埼玉県の現状を指して「埼玉県の犯罪件数は大きく減って
きている」「そのうえ、警察官一人当たりの対応している県民数は全
国で一番多い」という意見・評価があります。
統計上も、犯罪の発生件数は年ごとに右肩下がりに減少しているのは
事実ですし、総県民人口に対する警察官の割合が一番少ないのも本当です。
ただその一方で、別のデータからは違うことも見えてきます。
絶対的な件数だけで見てみると、埼玉は全国で4番目に犯罪件数が多
いし、全国で2番目に低い検挙率はどうなのか、とかの情報も見ていくと、
単純に埼玉の治安に関する評価はポジティブなものだけにはならない
可能性もあるんですね。

良い面、悪い面両方の情報を見て、自分なりの評価や評価を基にした
必要だと思う取組み・政策を考えていくことが大切だと考えています。

また、医療の問題についても同じことが言えます。
お医者さんの数は、絶対数でみると全国で8番目に多いのは事実。でも県民10万人あたりの医師の数でみていくと、全国で一番少ないです。
これで埼玉の医療は十分といっていいのか、候補者や政党が語るわかりやすい数字や言葉を鵜呑みにしないで、あえて語らないデータについても見ていく「目」がないといけないんじゃないかと。

さいたま賢人サイトより

さいたま賢人のHPには、候補者が挙げたデータ以外のデータも併記する形で発信し、有権者の比較検討の材料として提供しています。

選挙ドットコム
それが候補者であれ、報道や啓発団体であれ、いろいろ出してきているデータや言葉を、それ以外の出ていないデータや情報をチェックしながらしっかり読み解き方を伝えていきたいということでしょうか。

原口氏
そうです。そうしたところを伝えていくのがさいたま賢人の狙いの一つです。
こういう活動はほかの人たちがやっていない、ある意味新しい取り組みかな、と思っています。
これは選挙だけでなく、もっと大きく言えば情報リテラシーへの意識啓発でもあると思うんですが
目の前にある情報や言葉に対して、自分なりの価値判断をして評価していくところのお手伝いをしていきたいなあと感じています。
選管の「翔んで埼玉」コラボのように、みなさんが政治や具体的な事情を取り上げるようになってきたからこそ、さらに一歩踏み込んで候補者の言葉、政策をきちんと評価できるような情報を提示したいし、その情報の読み解き方・方法などを伝えていきたいと考えています。

選挙ドットコム
もうひとつの教育現場でも使える情報発信についても教えてください。

原口氏
今回の知事選で言うと、選挙が終わった後になるんですが、2学期に学校などで今回の埼玉知事選を題材にした、主権者教育の授業をしていただけるように支援していきたいと考えています。

選挙ドットコム
選挙や政治についての授業を学校で行うとなると、いろいろハードルもあると思いますが……。

原口氏

ええ、それはありますね。
過去、私たちと関係のある先生が実際に経験したことですが、
選挙の前に実際の選挙の情報を使って模擬選挙をやろうと
したら、ストップがかかったことがあります。
その先生のプランが⼗分に練りあがっていなかった可能性もあると
は思いますが「その⽬的でその準備でやるならやめたほうがいい。政
治的な公平性・中⽴性を考えると実現は難しい」と指摘を受け、イベ
ントが取りやめになったことがありました。

後日、その先生が「選挙が終わった後だったら、同じように選挙の情報を使ってやれたと思う」とアドバイスをいただいたんですね。
であれば、私たちの方で選挙後に行う授業に必要な情報、たとえば同じ質問の軸で各候補者の政策をまとめた資料やデータなどを教材用に準備して公開しようと。

また、自分たちが子供たち向けのワークショップなどを行ってみて実感したことですが、子供たちは出てくる公約が読み解けなかったりするんですね。
出てくる用語の意味がわからないとか。
たとえば、現職の埼玉県知事の上田さんなどは「ウーマノミクス (Womenomics)」という言葉を多用されるんですが、「それって何?」とか、高齢化社会に対する医療についての施策についての用語とか、ぱっと子供が聞いて理解しにくい言葉をわかりやすく解説するスライドも準備しています。

さらに情報については文字だけでなく「長い文章を読むのが苦手」という子にも関心を持ってもらえるように短い動画を作って、授業の中で使いやすくする工夫なども行って発信しています。

過去の失敗を踏まえて、学校の授業で使う教材としての情報を発信する際には、中立性や公平性を強く意識するとともに、社会経験のない子供にもわかるように使う用語などをかみ砕いて説明することや、ゲームやクイズ仕立てにして楽しみながら学べるように心がけています。

ゲームやクイズなどを通して、自分の住む地域の未来像を描き
その実現の手段としての政治・選挙の重要性を実感してもらう

選挙ドットコム
これまでお話しいただいた取り組み以外には、どんなことをなさっていますか?
また、今回のさいたま県知事選でさいたま賢人が行った活動についても選挙後の授業用教材づくりの公表以外にもあれば、教えてください。

原口氏
ぼくたちは、「けんみん会議」という形で普段の活動を行っています。
地域を限らずに授業で実践できる政治・政策課題を扱えるような視点づくりのプロジェクトとして、埼玉に対しては「さいたま賢人」というものがあるという位置づけです。
通常は、だいたい隔月くらいのペースで先生方が実践した授業の報告会を行ったり、授業に使える教材の制作・発信を行っています。

さいたま賢人として、今回の埼玉県知事選に向けて行った活動を3期に分けて説明しますね。

まず選挙に至るまでの取り組みとして、熊本発祥の「SIMulation(シム)」という自治体経営のシミュレーションを使ったワークショップを行いました。
これは、昔からある「シムシティ」の自治体版のようなイメージです。今回は2040年を最終目標に設定してみたんです。
2020年を最初のフェーズとして、そこから、2030、2040年で自治体の経営の選択をしていくんです。
ベースのデータはなんとなーく埼玉をイメージして設計したんですが「過疎が進む北西部の病院をどうしようか」のような複数の課題について、限りがある予算のなかで、参加者がそれぞれ自治体の長になってどうやって未来の自治体を作っていきますか、というものです。
参加者の選択によっては、最終的な姿もかなり変わります。
一貫性のある未来を作っていけたら最後にボーナスがもらえる仕組みです。

さいたま賢人サイトより

このゲームは、ほとんどが自治体の職員さんや一部の議員さんがプレイしていたものなんですが、せっかくなので高校生や大学生などの若者や普段ボランティア活動を行っている人、市議会議員などの地方議員などが同じ立場で一緒にやってみたらどうだろうと参加者を募りました。
若者だけでなく、大人にも勉強してもらう機会を作ろうと。
若者への意識啓発はもちろんですが、大人にも刺激を与えたいというのが裏テーマでもあります。

みんなで同じ目線で競い合って、その結果、誰が一番上手に自治体を経営できたかを見て、その手法はどのようなものかをみんなで振り返るわけです。
もちろんその結果も、今回のシナリオは埼玉県の実情に即して作っていることを説明し、単に借金を減らすなどお金の面でだけ判断するのではなく、必要な借り入れはしながら、住民サービスを充足することも大事だよね、などと話し合いました。
SIMulationのほかには「百人の村」を題材にしたワークシートなども利用して、まちづくりの大切さを考えていきました。

このワークショップは統一地方選や参院選の前にもやっていて、今年は2月、5月、6月の3回実施しています。

選挙ドットコム
みんなが対等に同じ立場で競うところがおもしろそうですね。

原口氏
こうしたワークショップを学校でやるといろんな制約があるというので、じゃあ市民団体でやればいいじゃないか、と実現しました。
ワークショップの最後に、埼玉の現実を基にしたシナリオのSIMulationで自治についてのシミュレーションを経験したんだから、現実でもまちづくりについて提言できることがたくさんあるよね、という共通認識を持っていただいて終わりました。

そして第二期は、SIMulationに参加した方を対象に、今度は質問作りのワークショップを開催しました。
まずは導入として、埼玉県の情報をクイズ形式で確認します。
世界との比較など、目新しい情報も盛り込んで、議員も含めて誰が一番、埼玉について知っているかを競いました。
これを踏まえて、みんなで街をテーマに気になる記事を集めます。
情報源は、新聞、動画、インターネット、なんでもいいんですけど、それを共有すると、お互いに「気になるポイント」「関心事」が違うことも確認できました。
そのうえで、実際に公開討論会で行う質問をつくって、ぶつけてみようということで、HPにも掲載していますが「10の質問」を、ワークショップ内でまとめました。

実際に、自分たちが感じたまちの問題や課題をもとに作った質問することで「本当に自分の声が政治のプロに届くんだ」「結果によっては、自分の質問がきっかけでまちがかわっていくかもしれない」ということを実感してもらいました。

第三期は、先ほどお話しした知事選後の学校での取り組み支援です。

選挙ドットコム
SIMulationのワークショップなどに参加した方はどうやって集めたのですか?

原口氏
それがなかなかうまくいかないんですよ。うまくいく方法を知りたいくらいです(笑)。
過去に自分たちがかかわった方々に「やるから来てよ」って声をかけたりしました。

選挙ドットコム
シムから始まって、質問を作ったり、公開討論会で質問するという内容を伺ったとき、やっぱり参加されるのはもとから関心のある人なのかな、と思いました。

原口氏
そういう方は多いですね。
ただ一方で、まちづくりに今までたずさわったことのない子供の参加もありました。
メンバーの教員の教え子などが参加してくれたりしたんですが、それはとてもうれしかったですし、大きな収穫ですね。

投票するための技術を身に着け、自分のまちの選挙・投票に臨む若者が
もっともっと増えてほしい

選挙ドットコム
学校での授業はもちろんですが、若者もゲームなどを通じて、楽しみながら政治や選挙についての知識を増やしたり、投票リテラシーを磨いてほしいですね。
さいたま賢人のメインの発信対象者である若者には、どんなことを期待していますか。
そのための、今後の展望などを教えてください。

原口氏
さいたま賢人を立ち上げる際に、僕らが課題として共有したのは、18歳選挙権への意識啓発活動のほとんどは、国政選挙を対象にしたものばかりという点です。
それももちろん大切ですが、もっと自分が住んでいる地域の地方自治についても視野を広げて、「自分の住むこのまちを将来どうしていきたいか」という、もっと身近なところから選挙や政治について考えてほしいと思っています。
まずは、自分の将来の生き方、暮らし方、住むまち、住む国がどうなるのが理想かを考えることが大切。

その上で、候補者や政党から投げかけられたデータや言葉以外にも、自分で情報を集めたり調べたうえで考え、判断できる技術(投票リテラシー)を身に着けてほしい。
今はまだ形にしていませんが、新聞などの情報を読んだとき「これはファクト(事実)を伝えているのか、それともオピニオン(意見)を発信しているのか」を考える提案もしていきたいと思っています。

諸外国の政治に関するプログラムなども研究して、日本でも使えそうなものを現状に合わせて教材に落とし込み、発信することも試行錯誤しながらやっていきたいと考えています。
未来を作る子供たちが、自分の国や地域を主権者としてしっかり作っていくためのお手伝いを、今後も全力で行っていきたいです。

選挙ドットコム
ありがとうございました。

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『選挙をもっとオモシロク』を合言葉に、選挙や政治家に関連するニュース、コラム、インタビューなど、様々なコンテンツを発信していきます。

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