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新基地建設「賛成」!?参院沖縄選挙区の候補者から考える、基地問題の「当事者」とは誰なのか|沖縄現地レポート

2019/7/17

宮原ジェフリー

宮原ジェフリー

参院選終盤、沖縄県選挙区は会社経営者の安里繁信氏(自民・新)と、憲法学者で野党統一候補の高良鉄美氏(無所属・新)の事実上の一騎打ちとなっています。
しかし、今回の選挙ではマスメディアで「主要候補」とされているこの2人の他に、磯山秀夫氏(NHKから国民を守る会・新)と玉利朝輝氏(無所属・新)が立候補しています。

写真:4候補のポスターがそろった掲示板の写真

沖縄の民意は3度「反対」を示した

昨年9月の沖縄県知事選挙では、新基地建設反対を主張した玉城デニー氏が当選。しかし玉城知事当選直後の昨年12月、政府は埋め立て予定地への土砂投入を強行しました。政府は県民の民意に応えられないまま、今年2月に県民投票が実施されると、基地建設のための埋め立てに反対、とする票が7割を超えて「辺野古新基地建設には反対」とする民意が改めて示されました。
さらに玉城氏が議席を持っていた、新基地建設予定地の名護市辺野古を含む衆議院沖縄3区の補欠選挙でも、同じく新基地建設に反対する屋良朝博氏が当選。3度「基地反対」の民意が示されました。

写真:高良候補

右も左も「新基地賛成」とは言えない雰囲気の中……

そんな中はじまった今回の参議院議員選挙では、自民党公認の安里繁信候補も「県民投票で民意が示された以上、口が裂けても『賛成』とは言えない」としているものの、「埋め立て判断に瑕疵はないとする司法判断がなされている以上、いつまでも政府と対立していてはいけない」として、賛否の明言を避けたままこの選挙をたたかっています。

写真:演説する安里候補

そんな構図の中、公示日に突如として名乗りを上げたのが、名護市辺野古区在住にして、辺野古商工会の理事、玉利朝輝氏です。玉利氏の選挙ポスターには「辺野古『賛成!』」というキャッチコピーが大きく書かれており、強烈なインパクトを残しています。
沖縄県内の過半が「反対」としていて、自民党をはじめとした保守派でさえも「賛成」と言えず、「容認」とも口に出しづらい状況の中、玉利候補はなぜこの選挙に立候補したのでしょうか。現地・辺野古で話を伺ってきました。

玉利候補インタビュー

玉利氏は、埋め立て現場の搬入ゲート前に設置されている座り込みのテントの近くで、毎朝演説をしている、という情報を聞き、梅雨が明けて汗が滴る猛暑の辺野古で待ち構えていたものの、候補者が現れる様子がなかったので電話で尋ねてみると、「今日は抗議活動してないので私もやりません」
なんと、建設反対の座り込み運動へのカウンターとして、玉利候補は賛成の立場で演説をしていたのです。ゲートから歩いて10分ほどの場所にある事務所でお話を聞きました。

写真:選挙期間中も地域の清掃に取り組む玉利候補

<玉利候補単独インタビュー>

宮原ジェフリー(以下、宮原)今回の選挙で一番訴えたいことはなんですか?
玉利朝輝候補(以下、玉利候補)辺野古区民として、一日も早く新基地を建設してほしい。その思いです。

宮原:県知事選挙や県民投票で多くの人が新基地建設には反対している、という結果が出ています。なぜ基地が欲しいのでしょうか。
玉利候補:第一に、世界一危険と言われている普天間基地を撤去させる最短ルートが辺野古に代替施設を完成させることです。過去60年間、キャンプシュワブの存在が近くにあり、基地に慣れ親しんだ辺野古区民がその責任を持とうじゃないか、という気持ちでいるのです。

宮原:県全体が新基地建設反対、というムードの中、「賛成」の立場を明確にするのはとても勇気がいることだったのではないでしょうか。
玉利候補:「反対」という候補者がいるのであれば、「賛成」という立場もしっかり示すことが有権者にも必要なことだと思って正々堂々と訴えることにしました。
今のところ、強い抗議を受けることもなく選挙運動を続けられています(笑)

宮原:新基地ができると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
玉利候補:沖縄県は戦後70年間基地とともにありました。その意味で、沖縄県全体が辺野古みたいなもの、県民全員が国を守る責任を果たしてきたのです。ですので、今後もその責任を果たすことの見返りとして、普天間の跡地開発を100%国の予算で行うことを求める当たり前の権利があると思っています。それだけでなく、医療施設やカジノ、鉄道などを誘致して人口を増やしてゆく。さらに基地は軍民共用の飛行場にして、辺野古の、ひいては沖縄県の財産になると私は確信しています。それの実現のためであれば国会議員としてトランプ大統領と直接交渉する覚悟もあります。
そうして沖縄県が経済的に自立するきっかけを作ってゆきたいと思っています。

写真:玉利候補

宮原:第二次世界大戦では凄惨な地上戦を経験した沖縄として、戦争に加担する基地の存在は許せない、という声も少なくないのではないでしょうか。
玉利候補:沖縄の地上戦を経験した方々がまだ身近にいる沖縄県民にとって、戦争はとんでもない、という思いは当然にありますし、平和を希求する気持ちは広島・長崎と同じくらい沖縄の人々は強いです。
その気持ちを抱えながら、沖縄は基地とともに暮らしてきました。辺野古の民意で新基地の建設を受け入れて、普天間の安全を守る。辺野古は海上基地なので飛行機が故障しても海に落ちるので安全性は保たれるものと考えています。
その代わりに十分な補償を強く求めて、経済的な発展を遂げることは、この先、沖縄以外の日本全体で人口が減ってゆく社会を迎えるにあたり、ゆくゆくは沖縄が日本を救う状況を作れるはずです。

反対運動の人々は玉利氏の立候補をどう見ているのか

玉利候補いわく、ゲート前の座り込み運動には辺野古の住民は1人しかおらず、はっきり言って「迷惑だ」とのことでした。では、反対運動を展開している人たちには、辺野古区民で「賛成」の立場で立候補している玉利氏はどう映っているのでしょうか。座り込み現場にいた、7年前に東京から沖縄に移住してきたという男性に話を聞きました。

「玉利さんは、新基地について軍民共用化を目指すと言っていますが、現在計画されている基地の滑走路の長さは1,800mしかないので、ジャンボジェットなどの固定翼機の離発着はできません。また、北側の地盤が軟弱なので埋め立てに最短でも13年かかるので、新基地建設を条件にするのなら、それまで普天間飛行場は閉鎖されません。」
玉利氏の話を振ると、少々堅い表情を見せながら、感情を抑えて事実認識の違いを指摘にとどめていたのが印象的でした。「移住してきた者」として「地元で育った人」に対して、配慮している様子がうかがい知れたのです。

基地問題の<<当事者>>とは誰なのか

新基地移設の一番の「当事者」と言える辺野古住民の多くは、新基地建設に賛成の立場をとっている。一方、沖縄県民全体で考えると、県民投票では「反対」が多数を占めた。日本全体で考えると、「辺野古が唯一」という政策を推し進めている政党が国会で多数を占めています。
納税や日本全体の安全保障のことを考えれば、この国に暮らす一人ひとりが当事者ですし、広く環境のことを考えれば人間のみならず動植物やまだ生まれていない将来この地球を生きる存在までも当事者に含めることができるでしょう。しかし、経済的にも環境的にもその影響を直接的に受ける辺野古区民を無視して議論を進めるのも理不尽ではないでしょうか。そんな中、今回玉利氏が「辺野古『賛成!』」を掲げて議論を巻き起こしたことそのものが強い衝撃を県内に走らせています。ただし、玉利候補の「賛成」という意見も、無条件で新基地建設を受け入れるというものではなく、大きな負担を受け入れる分、大きな補償を求めるものでした。さらに、「賛成」の前提としている新基地の軍民共用化も必ずしも簡単に実現できることではなさそうなこともわかります。
もちろん、このような分断を招いたのは、長く沖縄に負担を押し付け続けてきた本土の側の失政に一義的な責任があるわけですが、選挙をきっかけに、「オール沖縄」「自公」といった枠組みや感情論だけでなく、具体的な状況を整理した上での議論を日本全体で展開してゆくことに期待したいと思います。

磯山候補とベーシックインカム

もう一人、沖縄選挙区から立候補している磯山秀夫候補は新基地建設に反対の立場を示しています。磯山氏は関東地方に住んでおり、立候補届出の際に初めて沖縄に行き、その翌週、NHKから国民を守る党代表の立花孝志氏とともに遊説に出かけた2回しか沖縄に足を踏み入れたことがない、とのこと。
ご本人が興味のあるベーシックインカムの導入を受け入れてもらえそうだったことと、NHKから国民を守る党がまだ候補者を決めていなかったのが沖縄だったから沖縄選挙区を選んだとのことですが、昨年の沖縄県知事選挙でベーシックインカムの導入を訴えた渡口初美さんのことは知らなかった、とのことでした。

写真:磯山候補(本人Twitterより)

「なぜ『事実上の一騎打ち』とされているのか」を考えると見えてくるもの

「事実上の一騎打ち」な上に、各社の情勢調査が終始一方的で、県知事選と比較して盛り上がりに欠けている印象だった沖縄県選挙区ですが、辺野古の問題一つをとってみても、それぞれの候補者のバックグラウンドなどを観察して、なぜそのような言い回しを選んでいるのか、といったところにまで思いを巡らせると、様々な論点が見えてきます。
ぜひ、それぞれの選挙区で、自分の気になる政策トピックについて「泡沫候補」とされてメディアにあまり取り上げられていない候補者も含めてチェックしてみることをお勧めします。

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宮原ジェフリー

宮原ジェフリー

選挙ライター、キュレーター(現代美術)。 1983年東京都出身。中学生時代から衆参の選挙の度に全選挙区の当落予想を続ける。ポスターデザイン、インディーズ候補、政見放送、選挙公報、街頭演説など選挙に関わること一切が関心領域。著書に『沖縄〈泡沫候補〉バトルロイヤル』(ボーダーインク)がある。

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