2月3日に投開票が行われた岩手県の陸前高田市長選では戸羽太氏が6,504票、紺野由夫氏が6,499票という結果に終わり、わずか5票差で戸羽氏が当選しました。この結果を受け、紺野氏の支持者たちが、無効票を含む投票用紙の再集計や投票した選挙人たちの居住実態の確認を請求する異議申し立てを行いました。今回はこのような僅差の場合の異議申し立てと異議申し立ての結果、集計ミスが判明して一度に多数の票が動いてしまった事例を紹介します。
全ての票が開票し、結果が出た場合、これがひっくりかえることは普通はないと考える人は多いと思います。ただ、拙記事『「ヒゲ」でも有効票。葛飾区で当選・落選が入れ替わった「1票差の逆転劇」はなぜ起きた?』で紹介したように、僅差で当落が決まった場合、何を書いているか分からないとして無効と判定された票を「よく読めば自分の氏名が記載された票」であるとしたり、無効と判定された票を「自分の氏名を書こうとして誤記したとして有効な票」であるとしたり、逆に他候補の得票が無効票の条件に当てはまるので無効であるとしたりして、落選した候補者が選挙結果に異議を申し出ることがあります。そして、これらの申し出はまれに認められて当落の逆転が起こることがあります。前述した記事にも掲載しましたが、ごく最近では2017年の葛飾区議会選において、最下位当選者と次点候補が1票差であったことから、次点候補が不服を訴えたところ、最下位当選者の2票が無効票となり、逆転が起きた事例があります。また、これも前述した記事で紹介しましたが、過去には400票弱もの差があったのに、有効票とされた票を精査すると候補者の親類の名前が記載されていた票が多数あったため、それらの票が無効票となり、大逆転となった事例もあります。
もし、選挙結果に不服があって、異議を申し立てたい場合、どこに申し立てればよいのでしょうか。これは選挙によって異なってきます。例えば、国政選挙の結果に不服がある場合は、高等裁判所に対して、選挙管理委員会を被告として提訴を行います。日本の裁判は三審制と言われていますが、選挙に関する訴訟の場合はいきなり高等裁判所から行うことになっており、例外的に二審制となっています。
また地方選挙の場合では、都道府県の選挙と市区町村の選挙では少し異なっています。都道府県の場合はその都道府県の選挙管理委員会に対して、異議を申し立てます。そして、その結果に不満がある場合は高等裁判所に訴え出ることになります。市区町村の場合はまず、その市区町村の選挙管理委員会に異議を申し立てます。そして、その結果に不満がある場合は都道府県の選挙管理委員会に、さらにその結果に不満がある場合は高等裁判所に、という流れになっています。
申し立てを受けた裁判所や選挙管理委員会はその申し立て内容を審査し、様々な決定をします。例えば、開票された票を精査して、もう一度、票の集計をすることもあります。もちろん、その申し立てが正当でないあるいは選挙結果に影響を与えないと判断すれば、却下することもあります。
1969年の東京都議会議員選挙 江東区選挙区では異議申し立ての結果、一気に500票を失った候補が出るという信じられないことが起きています。この選挙では、小倉康男氏が14,616票を獲得し、最下位で当選しましたが、次点で落選した深野いく子氏の得票数は14,612票と最下位当選の小倉氏と4票差でした。このため小倉氏の得票の中に無効票があるとして、深野氏は東京都選挙管理委員会に異議を申し立てました。しかし、都選挙管理委員会は江東区の関係者等に事情聴取をした結果、小倉氏の得票のなかにまぎらわしい票が2票あると考えられたものの、選挙結果に影響を及ぼさないとして、深野氏の異議を却下しました。この却下の決定を不服として、深野氏は高等裁判所に提訴を行いました。そして、高等裁判所は有効票の検証を行いましたが、ここで思わぬことが発覚したのです。
票を集計する際にはその候補の得票とされた票を一定数の束にして集計を行います。このときはまず50票ごとに小さな束を作り、この小さな束を10束分まとめて、その候補者の氏名を付けた表紙を付けて、表紙に選挙長や立会人が印を押して、この大きな束を500票として集計するという形式をとっていました。そして、この小倉氏の名前が書かれた表紙のついた500票の束を調べていたところ、その中の1つの500票の束の中身が小倉氏の票ではなく、当選した別の候補者の票であったことが分かったのです。この前代未聞の集計ミスの結果、小倉氏は一気に500票を失い、次点であった深野氏が逆転当選をしたのです。
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