アメリカのトランプ大統領が打ち出す政策は世界から注目を集めています。アメリカはこれまで関税などの障壁を低くして貿易を活発化させる自由貿易を推進してきましたが、トランプ政権はTPP交渉脱退、鉄鋼・アルミ製品への追加関税の導入、中国への制裁関税の表明など全く異なる政策を実施、表明しています。ほかにも、史上初となる米朝首脳会談の実施や、イラン核合意を脱退するなど、これまでのアメリカ外交からすれば考えられない政策を打ち出しています。
アメリカ大統領は議会とは異なる選挙で、国民から選出されていることもあり、独自に政策を打ち出すことができるようにも見えます。このように大統領の陰に隠れがちなアメリカの「議会(上院・下院)」ですが、もちろん重要な存在であることは言うまでもありません。今年11月6日に行われる中間選挙(上院・下院の選挙)に向けた動きが活発化している中、アメリカ政治における議会の重要性を改めて考えたいと思います。
日本では衆議院総選挙が重要な位置を占めています。その最大の理由は、衆議院総選挙で過半数を占めた党派が内閣総理大臣を指名するからであり、政権与党と総理大臣をともに決める意味合いを持つからです。このため、衆議院の多数派と政権とはある程度政策が共有されていることが期待できます。安倍政権のもとでは党派的な争点として安全保障関連法案やカジノ法案がありましたが、いずれも衆議院多数派を占める与党・自民党から一定の支持を得ていたので、法案が成立すること自体は驚きではありませんでした。
一方で、アメリカでは大統領と議会とは異なる選挙で選出されます。トランプ政権が打ち出す政策ばかりが注目を集めていますが、そもそも法律を立案、成立させるのは議会の役割です。トランプ大統領が特定の政策を望んでも、議会が法案を成立させなければ政策は実現しません。TPPの交渉脱退などいくつかトランプ政権の政策を紹介しましたが、これらはいずれも議会との協力を必要としない例外的なものです。そのため、多くの政策は依然として議会の協力が重要です。
現在は、トランプ大統領の所属する共和党が上院・下院の両方で多数派を占めています。トランプ政権からすれば比較的立法による政策実現をしやすい状況と言えるでしょう。しかし、それでも「反既成政治」を前面に掲げているトランプ大統領の政策は、上院・下院の共和党からも抵抗を受けており、トランプ大統領の政策が全てスムーズに進んでいるわけではありません。そのため、今年11月6日の中間選挙(上院・下院の選挙)によって、どんな顔ぶれが議会を構成するようになるのかは、トランプ政権からすればとても重要なのです。
トランプ政権は、オバマ政権が推進した医療保険制度改革を撤廃することを目指しましたが、過半数を占めているとはいえ共和党の議席が十分ではなく、共和党内でも対立が激しかったことから撤廃は実現できていません。そこで、最近ではトランプ大統領は共和党内でも自身の考えに近い特定の候補者を積極的に支持しています。
一方で、もし民主党が上院と下院で過半数を獲得すれば、日本で言う「ねじれ国会(衆議院と参議院の多数派が異なる状態。2007年の参院選で自民党が大敗した結果、衆議院では自民党・参議院では民主党が第一党となった)」のような事態になってしまいます。トランプ政権は民主党の意向を無視した政策をほとんど実現できなくなるでしょう。
このように議会の構成次第では、トランプ政権はより多くの政策を実現できるようになる一方で、逆にほとんど政策を実現できなくなることも考えられます。そのため、中間選挙は極めて大きな意味を持つのです。
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