「共和党は存在しない。あるのはトランプ党だ。」
この言葉は共和党に属するジョン・ベイナー前下院議長が5月末の政治集会で語った言葉です。ベイナー氏はこの言葉の意味を詳しくは語らなかったものの、この言葉は瞬く間にアメリカメディアの注目を集めることとなりました。トランプ大統領の政策はこれまでの共和党からは考えられないものが多くなっており、今回実現した北朝鮮の金正恩氏との史上初の会談はまさにその一例と言えます。
さらに6月には、全米各地で行われた共和党予備選挙(11月の本選挙の共和党候補者を決めるための選挙)において、トランプ大統領を支持する候補がトランプ大統領を批判する候補に勝つ事例も出てきており、共和党が変わりつつあります。一体、共和党では何が起きているのでしょうか。
今回問題になったのは、サウス・カロライナ州のある選挙区の下院選予備選とヴァージニア州の上院選予備選です。サウス・カロライナ州では、元州知事であり大統領候補にまで考えらえたマーク・サンフォード下院議員が、州議会議員であるケイティ―・アーリントン氏に敗れるという波乱が起こりました。
敗北したサンフォード氏は、1990年代下院議員を3期6年務め、その後サウス・カロライナ州知事を2期8年、その後下院議員を再び2期4年務めた、共和党政治家の中でも有力者です。そして、トランプ大統領に対して納税情報の開示を求め、不法移民流入を防ぐための壁の建設に反対し、アルミや鉄鋼への関税を「馬鹿げた実験」と批判するなど、トランプ批判の急先鋒でした。一方、勝利したアーリントン氏はトランプ大統領への支持を表明し、トランプ批判を展開するサンフォード氏を攻撃しました。そして、トランプ大統領も投票締め切り間際に、以下のツイートでアーリントン氏への支持を表明しました。
My political representatives didn’t want me to get involved in the Mark Sanford primary thinking that Sanford would easily win – but with a few hours left I felt that Katie was such a good candidate, and Sanford was so bad, I had to give it a shot. Congrats to Katie Arrington!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2018年6月13日
結局、アーリントン氏が勝利し、「我々はトランプの党だ!」と宣言しました。ヴァージニア州でも、トランプ大統領と同様に不法移民攻撃を展開するコーリー・ステワート氏が共和党候補に躍り出ました。
今回勝利したアーリントン氏やステワート氏は、共和党の多くの従来型政治家たちの考えから大きく乖離しています。元々、共和党政治家は「自由貿易」と「移民受け入れ」を主張してきました。そのため、移民労働力に依存する企業や貿易を多く行う企業は共和党を支持していたのです。例えば共和党ブッシュ(子)大統領はTPPの推進を訴えてきました。
しかし、2016年大統領選に勝利したトランプ氏は共和党候補でありながら真逆の政策、保護貿易と移民の制限を訴えたのです。そのため、これまでトランプ大統領と本来味方であるはずの与党共和党との間で対立が繰り広げられてきました。
こうした対立の中、共和党の中核的な支持層の多くはトランプ大統領の移民制限の姿勢を支持しています。トランプ大統領の誕生によって従来の共和党とは異なる「トランプ党」とでも言うべき層が拡大しているのです。
こうした「トランプ党」の行方は未知数です。というのも、共和党支持層の支持を集めた候補が無党派層の支持を集められるとは限らないからです。実際、アメリカのメディアのWSJとNBCテレビの調査によれば、トランプ政権が優先的に移民規制に取り組むことを支持する割合は、共和党の中核的な支持層では61%に達しますが、無党派層では26%に留まっています。このように、同じ戦略では無党派層が重要になる11月の本選では勝つことが難しいと言えます。既にヴァージニア州のステワート候補は民主党候補に敗れることが確実視されています
今後、共和党支持者と共和党議員の考えの溝が広がっていくのか。そのことが共和党議員の考えも変えてしまうのか。これからも注目が必要です。
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