昨年の衆院選は、30代以上のほとんどの世代で参院選(2016年)よりも投票率が上昇したなかで、10代有権者の投票率が低下したことが目立つ結果となりました。
18歳、19歳の投票率が右肩下がりの傾向へ。若者政治参加はこれからが正念場 >>
10代有権者の中でも、19歳有権者の投票率が大きく低下し、18歳有権者と19歳有権者の投票率の差が拡大しています。衆院選での19歳有権者の多くは、2016年の参院選で18歳有権者として高い投票率を記録した人たちです。彼らはなぜ衆院選で投票をしなかったのでしょうか。
投票権を行使するためには選挙人名簿に登録される必要がありますが、選挙人名簿への登録は住民票の所在地を基準として行われています。そのため、住民票を移していない人は現在住んでいる場所で投票することができずに、投票するために帰省をする必要が生じます。そのことの煩わしさから若者の投票離れが生じているという主張が「住民票問題」として提起されています。
低投票率の原因!?大学生の6割以上は住民票を移動していない >>
選挙啓発に取り組む「明るい選挙推進協会」が2015年に全国の若者を対象に行った意識調査において、「実家を離れて暮らす大学、大学院、予備校生」のうち、63.3%が「住民票を移していない」と回答したことも話題になりました。
では、この「住民票問題」で、2回目の投票に行かなかったことの説明はできるのでしょうか。
図表1では、自県への進学率と、参院選(18歳)と衆院選(19歳)の投票率の差を並べています。もし「住民票問題」が、19歳有権者が投票に行かなくなる主な原因であった場合、自県への進学率が低いほど、2つの国政選挙間での投票率の差が大きくなるはずです。
データで確認してみましょう。自県への進学率が11.38%と全国で最も低い和歌山県では、2つの国政選挙の間での投票率の差は-18.64%、全国では21番目と真ん中あたりであったことがわかります。反対に、全国で最も自県への進学率が高い愛知県(71.95%)では、2つの国政選挙の間での投票率差は-17.26%、マイナスの幅が大きい方から数えて全国で28番目となっています。
散布図からも読み取れるように、自県進学率と2つの国政選挙の間での投票率の差についての関係は弱く、相関係数も0.17でした。このように、自県進学率と2つの国政選挙の間でのコーホート的な投票率の差の比較からは、両者の間にはあまり関係がなかったことが確認できます。
確かに、大学への進学率は全国で53%程度とされています。(出所:データえっせい「都道府県別の大学進学率(2017年春)」)
そこで、就職で他県へ移動する人なども踏まえた分析をするために、住民基本台帳人口移動報告(2017年)の15~19歳の転出数と、2つの国政選挙の間での投票率の差を比較してみましょう。
転出数上位4位までの県における2つの国政選挙の間での投票率差の幅が、いずれも40位台の小ささとなっているように、こちらもはっきりとした関係性は確認できません。相関係数も0.34と明確なつながりがあることを示唆している状況でもありませんでした。
実は、ここまでの議論には大きな課題もあります。7月10日におこなわれた参院選の時の18歳有権者の内、高校に在学している人は4月~7月上旬生まれの人、つまり学年の1/4程度しかいません。当時の18歳有権者のほとんどは、すでに進学にせよ、就職にせよ転居してしまっていたのです。具体的な分析をするまでもなく、そもそも「住民票問題」だけでは参院選の際の18歳有権者に対する衆院選での19歳有権者の投票率の低下を説明することが難しい状況にあったことがわかります。
加えて、若者の投票への参加を考える上では、「18歳有権者」についても課題があります。同じ若者の有権者であっても、「『高校生』と『高校生を卒業した人』の間では、『高校生』の方が投票に向けた教育の機会を設けたり、直接投票の呼びかけをすることができるから、投票率が高くなる」との主張もあります。
実施時期を考えると、18歳有権者の内、高校に在学している生徒の割合は、衆院選の時は参院選時の倍になっているものと推測されます。しかしながら、衆院選の18歳投票率の方が参院選の18歳投票率よりも高くなった都道府県は26と、全年代(23自治体で投票率が上昇)をわずかに上回っているだけです。これでは、「直接、投票参加の働きかけをできる人が増えるから投票率を高くすることができる」とは言い切れない状況です。
今後も、投票参加を通して若者の意見も政治に反映していくためには、学校で直接呼びかけることができるから高校生の投票参加は大丈夫、と安心してしまわずに、投票に参加していくための継続した取り組みが行われているかどうかを見守っていく必要がありそうです。
参院選の18歳投票率と衆院選の19歳投票率を比較すると、衆院選では約18%投票率が下がっています。「参院選で『はじめての選挙』を迎え、投票した18歳有権者の内、およそ4割の人が「2回目の国政選挙」である衆院選では投票しなかったことになる」と言い換えると、若者の政治参加に向けた深刻さも強調されます。残念ながら、投票率低下の理由は「住民票問題」のように、ある意味わかりやすい、制度的な理由ではありませんでした。
しかしながら、参院選においてすでに高校を卒業していた多くの18歳有権者が他の年代に対しても高い投票率を示したことからは、「高校を卒業している」等の理由で、直接投票に向けた働きかけが出来なかったとしても、「投票する意義」を作っていくことができれば、投票に向かってもらえることが示唆されていると捉えることもできます。
若者の政治参加を考えていく上では、これからも選挙のたびに、「若者が投票に行くべき理由」を問いかけていくことが大切になりそうです。
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