
今年11月に行われるアメリカ中間選挙に向けた火花が既に全米で散っています。
民主党、共和党の候補者を決める予備選や、あるいは補欠選挙で盛り上がるのはごく当たり前の話ですが、アメリカでは選挙のたびに選挙区割りとそれに対する裁判が盛んになります。
選挙区割りとは「どこにどのような選挙区を作るのか」を決めるプロセスのことを言います。政治家にとってみれば、選挙区割りが決まることではじめて「自分が立候補する地域はここだ」と決まることになります。
もちろん、選挙区割りによって選挙結果は大きく左右されます。例えば、ある党の議員が大勝する選挙区がある場合、その票を上手く他の選挙区に回すことができれば、その党は同じ各投票数のままで、他の選挙区でも勝てる可能性が高まります。このように、選挙区割りは極めて重要なプロセスなのです。
日本では選挙区割りで最も揉めているのは参議院選挙で鳥取県と島根県、徳島県と高知県を1つの選挙区とする「合区」をめぐる問題でしょう。しかし、日本では選挙区割りそのものについてそこまで揉めることはありません。日本の場合は「衆院選挙区画定審議会(区割り審)」という独立機関が区割りを決定し、国会でその当否が審議されますが、その決定そのものに自民党もしくは立憲民主党やかつての民主党が異を唱えることはありません。
アメリカの場合は日本の県に当たる「州」の議会が連邦議会の区割りを決めます。しかも、その決定は民主党・共和党に有利に行われることが多々あります。このため、連邦議会によって決められた区割りが論争の的となり、裁判にさえ発展するのです。
最も党派的な選挙区割りの例として、ノース・カロライナ州の例があります。アメリカでは白人は概ね共和党支持、黒人は概ね共和党支持と人種によって投票の傾向がありますが、共和党は意図的に黒人ばかりの選挙区を作ることで、白人が黒人よりも多い選挙区を多数作り出したのです。
つまり、一部の選挙区で民主党に圧勝させることで、他の選挙区では共和党が勝てるようにし、結果として議席の総数では共和党が勝つように仕向けたのです。
共和党は、「人種差別の歴史を踏まえ黒人に政治的な配慮を求める『投票権法』を考慮した」 などと主張しましたが、余りに露骨な区割りであったため、裁判所には聞き入れられませんでした。結局、連邦最高裁はこの選挙区割りを違憲であると断じました。
しかしながら、その後今年の1月には連邦最高裁が選挙区割りのやり直しを差し止める判決を出しました。この判決によって中間選挙は、露骨な選挙区割りで行われることとなりました。その理由については、裁判所は詳しく説明はしていません。
ノース・カロライナ州の例はある意味極端な例です。しかし、今年に入ってからも選挙区割りの裁判は続いています。最近判決が出たのが、ペンシルヴァニア州の選挙区割りをめぐる事例です。
ペンシルヴァニア州では、そもそも共和党に有利な選挙区割りがなされてきました。例えば、2016年の選挙では共和党は53%の得票率ながら、獲得した議席は18議席中13議席となっています。共和党にとっては党派的な選挙区割りが最も成功した例と言えるでしょう。
この選挙区割りに対して、民主党系が多数を占める州の最高裁は違憲であると断じ、共和党が多数を占める議会と民主党の知事に選挙区割りをやり直すことを求め、合意に至らなかった場合は裁判所が選挙区割りを行うことを決定しました。そして、2月15日までに合意に至らなかったため、州最高裁は選挙区の専門家に委ね、新しく選挙区割りを作り直させました。
この裁判所の決定については、それが民主党に有利な選挙区割りであったために、トランプ大統領もtwitterで強い反発を示しました。 そして、今度はその選挙区割りが裁判の対象となったのです。 結局、連邦最高裁は州最高裁の判断を追認する判決を出し、中間選挙は民主党に有利な選挙区で行われることとなったのです。
しかし、話はこれでは終わりません。共和党のペンシルヴァニア州下院議員は、ペンシルヴァニア最高裁の決定が越権行為であるとして、3月20日に弾劾決議を提出したのです。 選挙区割りをめぐる争いは、議会対裁判所という対立にまで発展しているのです。
この決議がどうなるかはまだわかりません。しかし、一見中立的な選挙区割りでさえ、その結果は片方の党派を利することになることから、選挙区割りのプロセスは極めて難しいものであると言えるでしょう。また、アメリカでは議会はもちろんのこと、司法にも党派性が持ち込まれます。そのことが選挙区割りを終わりのない争いへとしてしまうのです。現在選挙区割りをめぐる裁判はワシントン州、メリーランド州でも行われています。アメリカでは選挙区割りをめぐる争いは選挙まで続くことになるでしょう。
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