2月に発生したアメリカのフロリダ州の高校で17人が死亡した銃乱射事件は全米に衝撃を与えました。銃の所持自体が一般的に禁じられている日本においては、アメリカにおける銃の在り方と選挙、政治への影響は想像がつきにくいかもしれません。今回のこの記事では、銃乱射事件の重大性と選挙への影響について解説したいと思います。
そもそもアメリカでは合衆国憲法の修正第2条において、「武器を保持、携帯する人民の権利は侵害されない」と定めてられています。アメリカ合衆国憲法は世界で最も古い憲法として知られ、リベラル派の一部はその内容が時代遅れであると批判しています。このように、アメリカでは銃規制をめぐる問題は常に憲法の問題が絡んでくるのです。
また、銃規制強化に反対するロビー団体「全米ライフル協会(NRA)」はトランプ大統領を輩出し現在議会多数派を占める共和党を選挙において支援してきました。例えば、NRAは2016年大統領選挙においてトランプ大統領に33億円投じて支援したほか、今回事件が起きたフロリダ州のスコット知事も銃規制に消極的であるとして高く評価してきました。
その結果、銃規制をめぐる問題は、議会において銃規制に積極的な民主党 V S消極的な共和党という図式で論じられているのです。特に近年は、民主党と共和党との対立が激化した結果、党派的な論点は妥協が難しくなっているのです。
ある研究によれば、アメリカでは1966年から2012年にかけて90件の銃乱射事件が起き、これは世界の銃乱射事件の31%を占めています。しかし、民主党と共和党との対立が激化した結果として、銃乱射事件が起きても銃規制の強化はなかなか進んでこなかったのです。実際、事件後速やかにフロリダ州下院で銃規制の法案を提出する動きがありましたが、反対多数で法案の提出もかないませんでした。
しかし、今回の事件ではそのような歴史が変わりつつあります。
事件の直後には、SNSを中心に「#NeverAgain(もう二度と起きてはならない)」と呼ばれる若者の運動が全米に広がりました。これは、ハリウッドのセクハラ疑惑に始まる「#MeToo」と同様のものと言えるでしょう。その結果、生徒たちは銃規制強化を求める活動家の草の根ネットワークを作ることに成功し、各地の学校で授業をボイコットする動きが一斉に見られるようになりました。
(ジョージ・クルーニー氏も言及)
We want to express extreme gratitude for the amazing donation that George Clooney and his family have made to the #MarchForOurLives. We are overwhelmed with the support, and we can’t wait to march. #NeverAgain pic.twitter.com/h5xGZLNuZk
— #NeverAgain (@NeverAgainMSD) 2018年2月20日
(ナンシー・ペロシ元下院議長の発言)
The eloquence & leadership of the students saying #enough to gun violence is truly incredible. #NeverAgain
— Nancy Pelosi (@NancyPelosi) 2018年3月15日
さらに、生徒たちが銃規制強化を求める集会に向けて募金を呼び掛けると4日間で2億円あまりもの募金が集まりました。全米の有名人が相次いで寄付を表明したことも話題になりました。
こうした高校生を中心とした運動は実際の政治にも影響を及ぼしつつあります。今年の秋には選挙を控え、銃規制を求める運動が高まっている今、銃規制に反対することは選挙においてリスクを伴うと考えられているからです。
実際、銃規制に消極的でありNRAの支援を受けてきたスコット州知事は、高校生の運動を称賛した上で、銃購入の最低年齢を18歳から21歳に引き上げるほか、連射を可能にする改造装置の販売禁止などを求める行動計画案を州議会に提示し、同様の法案が議会の審議を経て成立しました。トランプ大統領も連邦議会に対して最低年齢引き上げを含む立法を行うことを議会に求めるなど、対応を変化させつつあります。
従来、銃規制の強化は強力なロビー団体や与野党の対立もあり、半ばあきらめムードが漂っていました。しかし、今回、SNSと集会などを組み合わせた政治運動として銃規制強化を求める運動が大きなものとなり、選挙で勝つことを重視する議員を動かすことに成功しているのです。この動きがフロリダ州以外の州にも波及するか、それだけ持続的なものになるかについてはまだ注目が必要ですが、大きなうねりの中にあると言ってよいでしょう。
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