
ドイツのメルケル首相が来秋の連邦議会(下院)選挙に首相候補として出馬する意向を固めました。メルケル氏は2005年に首相に就いてから、3期12年目を迎えることになります。G8の首脳の中では連続した在任期間が最も長く、いかに強力な首相であるかが分かります。
そんなメルケル氏の実績や今後の選挙を前に抱えている「課題」を見ていきましょう。
2008年のリーマン・ショックに始まる金融危機は、アメリカのブッシュ共和党政権、イギリスのブラウン労働党政権、日本の麻生自民党政権など、数々の政権を苦しめてきました。金融危機は生活を直撃するので、その結果、政治への不満を高め、時の政権は不安定になり、大統領や首相の支持率も下がるのが一般的でした。
他の国々では大統領や首相が交代するに至っていますが、メルケル首相は金融危機を乗り越えることに成功しています。
他にも、2010年のギリシャの財政赤字隠しから始まる金融危機では、緊縮財政や国際社会による監視を徹底することによって財政的な信頼を高め、ヨーロッパ諸国から批判を浴びつつもドイツへの影響を軽減しました。それと同時に、輸出を伸ばし失業率を低く抑えることで、国内の人気を高めることに成功したのです。
一般的に考えて、逆風である金融危機を追い風に変えてきたメルケル氏。3期12年の長期政権を維持できている理由が垣間見えます。
メルケル首相は在任中に連立政党や政策を数多く変えています。
日本では「連立政権」と言えば、自民党と公明党のペアが長年続いている連立政権ですが、メルケル首相は連立政権のパートナーを華麗に組み替えてきました。
メルケル氏はドイツキリスト教民主同盟(CDU)に所属していますが、就任当初はCDUと並ぶ二大政党で政策的に異なるドイツ社会民主党(SPD)と連立を組みました。しかし、政権でリーダーシップを発揮することで支持率を伸ばし2009年の議会選挙で勝利したメルケル首相は、連立政党をCDUに近い自由民主党(FDP)に変更。
さらには、2013年選挙でFDPが惨敗したため、再びSPDと連立を組み、今に至ります。このように、自身の政策位置にこだわらず、時と場合によって連立相手を選び政権を維持する能力にたけているのです。
また、このような柔軟性は政策にも表れます。その顕著な例が原発です。
2011年に東日本大震災で福島第一原子力発電所が事故を起こすと、ドイツ国内でも脱原発の機運が高まりました。その結果、脱原発を主張する緑の党が地方選挙で躍進し、CDUが相次いで敗北してしまいます。結局同年の5月には従来原発を推進していたメルケル首相は脱原発に方針転換しました。その後は、議論が続くものの脱原発の姿勢を維持しています。メルケル首相は世論を読む能力にも長けているといってよいでしょう。
「政策を柔軟に変えられる」というと、大衆迎合や風見鶏などという批判が浴びせられるかもしれません。しかし、「これが大事だ!」や「ここは譲れない」という政策は拘り続けています。メルケル首相が立場を変えなかったのが、難民問題への対応でした。
武力紛争の続くシリアやアフガニスタンからの難民は、景気が底堅く、失業率も低く、社会福祉も充実したドイツへの移住を求めていました。ドイツ側も、労働者人口の増加や専門知識を持つ人材への期待から、エリートを中心とした難民の受け入れに2015年はじめは楽観的でした。また、ナチス時代への反省からドイツは難民受け入れに寛容な姿勢をとり続けていました。
同年8月になると、事態は変わってきます。7月までの難民流入は34万人を超え、その時点で前年の流入を上回りました。また、収容施設の不足で、トラブルが頻発するようになりました。世論の反発も顕在化するようになります。さらに、唯一連立を組み続けてきたキリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首も、州知事を務めるバイエルン州に難民が殺到したことで、メルケル首相と対立していきます。
しかし、ドイツ政府は9月に難民を80万人受け入れることを表明しました。メルケル首相は世論よりも理念を重視したと言っていいでしょう。
その結果、同年の難民流入は100万人に達し、2016年3月の地方選挙では、メルケル首相のCDUは反難民を掲げる政党に敗れてしまいます。その後も、難民とのトラブルが絶えずクローズアップされ、ついには8月の世論調査でメルケル首相の支持率は過去5年間で最低となる45%に落ち込み、9月の地方選ではメルケル首相の地元州であるメクレンブルク・フォアポンメルン州でも反難民政党に敗れてしまいました。このように、時に政策を変えることで勝ち残ってきたメルケル首相は、難民問題では政策を変えなかったために今まさに、ピンチを迎えているのです。
移民問題で支持率が低迷していたメルケル首相ですが、前途はそこまで暗くもありません。というのも、与党内や野党に有力な対抗馬がいないと言われているからです。
最近の調査でも、メルケル首相続投の支持率は55%に達しています。今のところ、難民問題はメルケル首相の地位を脅かすにまでは至っていないといっていいでしょう。しかし、難民問題によるメルケル氏の人気低下は、連立政権内部の結束を緩め、対立が顕在化しつつあります。もし対立が顕在化すれば支持率低下へと直結し、メルケル首相の続投も危うくなるかもしれません。
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