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中国、地方の元軍人や民兵による社会不安リスク

2016/10/13

児玉 克哉

児玉 克哉

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中国は軍人数で世界のトップである。正規軍である人民解放軍の人員数は、現役兵228万5千人、予備役51万人と推定されている。(『2013年ミリタリーバランス』2012年11月時点の数字) これでも1980年代からかなりの削減がされてきている。人民解放軍の規模は、1985年に10万人、1997年に50万人、2003年に20万人、2015年に30万人と、4回削減されている。中国は軍隊も、徐々に量から質への転換が行われている。

正規軍の他に準軍事組織として、人民武装警察(武警)が66万人、中国民兵が約800万人いるといわれる。中国民兵は農業や漁業などの主職業を持ち、必要な時に手当をもらって軍組織に加わるものである。尖閣諸島などに威嚇目的でやってくる「漁民」の中にはこうした民兵が含まれているといわれる。実際に漁業もやっているだけに境がわかりにくい。一般の漁民とはいえず、一定のトレーニングを受け、簡単な武器を持っている。

北京市中心部の中国国防省前で10月11日に、迷彩服姿の元軍人らとみられる約1000人が集まり、抗議デモを始めたことが各メディアで報じられている。毎日新聞(2016年10月11日付)によると、「参加者の一人は取材に『退職後の手当てが不十分なまま人員が削減されることへの不満だ』と目的を語った。習近平指導部が昨年から断行する兵力30万人削減など大規模な軍改革への不満が背景となった抗議活動の可能性が出てきた」という。地方での抗議デモではなく、北京で行われたことは注目に値する。不満が地方だけに封じ込めることができなくなっているのだ。

中国の軍隊組織は共産党指導のもとに、規律と統制がとれていると思いがちだが、実際には巨大な国の巨大な軍である。地方にいくと、コントロールがあまり効かない状態だといわれる。コントロールの効かない軍ほど怖いものはない。

かつては人民解放軍の軍人の待遇は非常に悪く、給料の遅配も多かったと言われる。相遇も徐々に改善されてきた。しかし「公務員」の枠を超えるわけではない。一般の公務員には賄賂や口利きの「稼ぎ」があり、給料以外の収入が実質的になっていた。しかし軍人にはそうした機会が極めて限られる。軍用品や食料を横流しにするくらいしかない。それらは大々的にやればすぐに足がついてしまう。軍人は一般の公務員よりはやや高めの報酬基準になっていても、賄賂収入が少ないだけに相対的な不満を抱くようになっている。そこに兵力30万人削減が行われてきたのだ。地方では元軍人のいい受け皿はなく、退職後の手当が不十分であれば、怒りは中国政府に向けられるのだ。

元軍人は、軍人としての訓練を受けた人だ。兵器の扱いも爆弾の扱いもよくわかっている。またちょっと前まで軍組織にいたので、軍内の元部下や友人などとのネットワークもある。彼らが不満分子として、地方の既得権益者らと結びつくなら、地方からの反乱の可能性は極めて高まる。現在、中国では政財界での主導権争いが起こっている。地方で王国を築いてきた人が一夜のうちに糾弾され、投獄されることもありえる。一気に没落するのだ。反主流、あるいはそうなりそうな人は、元軍人らと手を結ぶことも十分に考えられる。民族問題や地方独立運動と連携することもあり得る。

地方ではすでに貧富の差などへの不満から一般には報道されないデモや暴動が多く起こっていると伝えられる。特に経済低迷が顕著になったここ1~2年ではデモや暴動が頻繁に起こっているようだ。正確な抗議活動の数は分からない。数万とも数十万とも言われる。数がさらに増え、それらが元軍人など兵器のプロと結びつくようになれば、押さえ込みができなくなる可能性もある。

地方の軍組織の中にも不満分子が育つ可能性がある。民衆を取り締まるはずの軍が反旗を翻すこともある。これがクーデターだ。中国は広大なので、すべての地方を完全に制御するのは至難の業である。

中国の敵はアメリカや日本ではない。内部に潜み、育っているのだ。内部を統制するためにこそ、日本の脅威を喧伝する必要があるのだ。

私は中国の地方での不満分子は力を蓄えているように思っている。中国経済はさらに停滞するかもしれない。景気の浮き沈みは資本主義のメカニズムでは普通にあることだ。日本も景気の浮き沈みは相当に経験してきた。中国の問題は不満分子による反乱のリスクだ。日本は四半世紀にわたって不況を続けているが、武器使用もあるような暴動はない。ストライキさえほとんどない国だ。しかし中国は違う。不満はもっとストレートに出していく。元軍人や民兵の不安定な状態は社会秩序維持においては大きなリスクになりそうだ。

しかも、地方では未婚の男性の数が非常に多い。一人っ子政策の副産物で男女比が大きく崩れ、地方では若い男性の数が女性の数を上回り、結婚できない男性が数多くいる。経済が停滞して職業もままならなくなれば、彼らが「守らなければならない」ものは彼ら自身しかなくなる。中国の今後を占うポイントは、地方の治安の維持だ。経済成長の時代にはかき消すことができた不満の声が各地から上がってくる可能性がある。それにどのように対応するのか。中国は非常に重要な時期に差し掛かっている。

 

※本記事は「行動する研究者 児玉克哉の希望ストラテジー」の10月12日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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児玉 克哉

児玉 克哉

三重大学副学長・人文学部教授を経て現職。トルコ・サカリヤ大学客員教授、愛知大学国際問題研究所客員研究員。専門は地域社会学、市民社会論、国際社会論、マーケティング調査など。公開討論会を勧めるリンカーン・フォーラム事務局長を務め、開かれた政治文化の形成に努力している。「ヒロシマ・ナガサキプロセス」や「志産志消」などを提案し、行動する研究者として活動をしている。2012年にインドの非暴力国際平和協会より非暴力国際平和賞を受賞。連絡先:kodama2015@hi3.enjoy.ne.jp

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