鹿児島県志布志市のふるさと納税のPR動画が話題を呼んでいる。もっと明確にいえば、PR動画が批判を浴びている。志布志市は、ウナギの生産が盛んな町である。「大隅産うなぎ」は全国に誇るブランドなっており、布志市と隣の大崎町を合わせると全国一の養殖の生産量という。志布志市のふるさと納税の返礼品としてウナギがある。そのPR動画は、うなぎをスクール水着の美少女に擬人化し、プールで育てていくというストーリーになっていた。セクシャルな雰囲気があることがまず問題視され、少女を監禁状態にしている雰囲気も問題視された。
すでに多く記事がこのPR動画については書かれている。
「志布志市のふるさと納税PR動画が、美少女飼育ポルノに見えるのは誤解なのか」千田有紀 ヤフーニュース個人
「志布志市のふるさと納税PR動画が削除に 養殖ウナギをスク水女性に擬人化、ネットでは批判の声も」ねとらぼ 9月26日
インパクトはあるが、大いに問題だ。これが自治体制作のふるさと納税のPR動画ということだからさらに驚きだ。
私は現在のふるさと納税のあり方に大きな疑問を感じている。高額な返礼品競争が過熱していて、まともな「納税」の感じではなくなっている。「寄付金」の5~7割が返礼品に使われるという状況は異常だ。一部の生産者が潤うことになるが、この形であれば、実際の競争力は徐々に落ちていく。厳しい競争に勝ち抜くブランド品ではなく、ふるさと納税の枠に入るとあぶく銭による商売になる。制度が変われば一気に衰退する仕組みだ。
総務省のふるさと納税のホームページにはふるさと納税の3つの意義が書かれている。
第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。
それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。
それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。
それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。
私はこの意義や狙いには大賛成だ。問題は現実がふるさと納税の理念から大きく離れつつあるということだ。ふるさと納税は、自分がお世話になった自治体、特に故郷に対して、地域づくりの支援をする仕組みだ。町の発展の応援団になるというのが本来のふるさと納税の目的だ。しかし、現在のふるさと納税は、単に返礼品の競争となっており、そのアピールもますます「プロ化」している。今回のPR動画も志布志市のまちづくりや発展をイメージするようなものではなく、インパクトを狙ってのもの。それが一般的な「度」を越してしまって問題視されるまでになったのである。ふるさと納税をして志布志市のうなぎを貰おうとする人のほとんどは、志布志市の発展やまちづくりの応援団になるという意識は薄くなっているだろう。「ブランドうなぎが欲しい」というのがまず第一になっている思われる。
返礼品の豪華さやインパクトの強いアピール力の競争になっており、本来の意味を忘れつつあるのだ。「寄付金」扱いとなっているが、もともとは住んでいる自治体に払うべき税金であった。それだけ税収が減った自治体もある。またふるさと納税を受けた自治体もコストがかかるようになり、本当にわずかしか純粋な税収とはならない状態だ。地域を強くするといううたい文句は空文化し、このふるさと納税は地域を弱体化させつつある。
志布志市のふるさと納税のPR動画の問題はふるさと納税の問題点が象徴的に表れたものと言える。豪華さ争い、性的なアピールや奇抜さも含めたインパクト競争を自治体が税金をカモに行っている。この制度設計そのものが間違っている。初心に帰って、もう一度、ふるさと納税のあり方を見直す時期に来ていると思う。
※本記事は「行動する研究者 児玉克哉の希望ストラテジー」の9月27日の記事の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。
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