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朴大統領の支持率低下~袋小路に入り込んだ朴政権

2016/9/5

児玉 克哉

児玉 克哉

朴大統領の支持率低下~袋小路に入り込んだ朴政権

「ハンギョレ」(日本版8月27日)が世論調査専門会社の韓国ギャラップが公開した世論調査の結果を報道している。韓国ギャラップの「資料によると、23~25日、全国の成人男女1001人を対象にした電話アンケート調査(信頼水準95%、標本誤差プラスマイナス3.1%ポイント)では朴大統領の職務遂行を肯定的に評価した回答者は全体の30%で、先週より3%ポイント下落」している。

朴大統領の任期は2018年2月までで残りは1年半になった。朴大統領が就任してからしばらくの間は、親中反日路線を明確にして、国民からの支持率もかなり高いものがあった。2014年のセウォル号転覆事故くらいから朴大統領支持率は下降傾向にあるが、最近は経済の低迷、THAADをめぐる中国との関係悪化、北朝鮮からの挑発などがあり、さらに低迷傾向にある。国民のムードを変えうるリオ・オリンピックでも期待通りのメダル獲得とはならなかった。韓国は夏季オリンピックでは最近は好成績を続けてきていて、日本のメダル数を引き離していたが、リオでは日本のメダル数を下回った。経済低迷など複合的要因から韓国に不満が充満しつつあるのは確かだ。

韓国は地政学上、非常に微妙な場所に位置している。中国、北朝鮮、日本、ロシアに取り囲まれている状態だ。これにアメリカが加わる。国の勢いがあるときにはこれはプラスに働き、こうした国々すべてと関係を持てるというメリットを得る。しかし、状況が悪循環してくると、どの国についても批判される非常に難しい選択を迫られることになる。朝鮮戦争はまさにこの典型的なもので、中国、ロシア、アメリカが覇権をめぐって激しく対立し、結局、朝鮮半島は分断され、さらに複雑な国際関係になった。

少し話は外れるが、トルコも地政学的に似たところがある。イスラム圏、ヨーロッパ、ロシア、アメリカのいずれとも関係を持つことができることはいい時にはプラスだが、状況が緊迫するとどちらを向いていいいのかわからなくなる。

現在、韓国を取り巻く環境は厳しいものがある。国際関係的に孤立化が進んでいる。朴大統領就任直後は、太陽政策的アプローチで南北関係の改善が期待されたが、最近では北朝鮮の威嚇は激化しつつある。核弾頭やミサイル開発などがどんどんと進んでいる。通常兵器であれば韓国の優位は不動だ。技術的にも南北格差は広がり、「北の遠吠え」の感覚でいたのが、核弾頭技術やミサイル技術がここまで改善されてくると本格的な脅威に変わりつつある。「ソウルを火の海にする」というプロパガンダを笑って済ませるわけにはいかなくなった。親中路線にも陰りがみえる。朴大統領の親中路線は経済的面が優先されたもので、もともと対北朝鮮対策としてはかなり無理があるものだった。アメリカは北朝鮮と対立しており、その背後の中国とも潜在的には対立関係である。韓国は安全保障の視点から明確な「味方」がわからなくなってしまった。THAAD配備の混乱がこの状況を象徴的に表している。中国が猛反対し、中国との関係が危うくなる一方で、アメリカも親中路線をとってきた韓国を完全にサポートするわけではない。日本とは反日政策から関係は悪化したままだ。ロシアは北朝鮮との関係もあり、韓国とは距離がある。「日本を除くすべての国とうまくやっている」と思っていたのが「日本を含むすべての国とうまくやってけない」可能性が浮上してきた。これを任期残りの1年半で修正するのは至難の技だ。

経済的にもかなり厳しくなっている。韓国経済はこの10年に目覚しい発展を遂げた。発展途上国から先進国への華麗なまでの変身を遂げ、サムスンは徐々に勢いを落とす日本企業を尻目に世界のトップ企業の一つに発展した。この急激な変化が日本軽視、反日感覚につながったのだろう。しかし、韓国経済は外国資本に支えられた部分が大きく、状況が悪化すると外国資本の流出などから一気にさらに悪化していく構造だ。中国との貿易は韓国経済において非常に重要になり、それが極端なまでの親中路線の選択にもなった。しかしその中国経済も停滞しつつあり、対中国の貿易額も縮小しつつある。韓国経済は思われている以上に深刻な危機に見舞われている。韓国が嫌々ながらも日本に通貨スワップ再開の申し入れをしている。かなり追い詰められている。

こうした状況を国民は徐々に感じ取っている。朴大統領路線への不信感が広がりつつあるとみることができる。任期が少なくなり、朴政権はレームダック状況に陥りつつある。あと1年半はレームダック状況を解消するには短すぎるが、レームダック状況が続くとすると非常に長く、国への悪影響は大きい。

朴政権は非常に頑強な姿勢の中国政府と打開策を考えるよりも、比較的にやりやすい日本との関係を改善しながら打開策を練る方向に転換しつつあるように思われる。ただこれは短期的には国民の支持率を下げかねない。朴政権の反日政策は国民感情にまで浸透してきており、すぐに変化させるのは難しい。朴大統領に残された選択肢はあまりない。朴大統領の3年半の間の主だった業績をあげることは難しい。親中路線で中国との関係強化が最大の業績であったはずが、中国関係が崩れるとそれを業績にあげることさえできなくなった。袋小路に入りつつあるといっていいだろう。安倍首相と行った元慰安婦問題の「合意」も、韓国内での反発もあり、今のところ関係改善の切り札とはなっていない。朴大統領の今後の業績は平昌オリンピックの開催となるかもしれない。その成功さえ、今の状況からは確約されたものではない。このような状況下、朴大統領は安倍首相とさらなる思い切った案を出せるか。今となっては日本はポスト朴政権を念頭においた政策になるかもしれない。

※本記事は9月3日の転載となります。オリジナル記事をご覧になりたい方はこちらからご確認ください。

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児玉 克哉

児玉 克哉

三重大学副学長・人文学部教授を経て現職。トルコ・サカリヤ大学客員教授、愛知大学国際問題研究所客員研究員。専門は地域社会学、市民社会論、国際社会論、マーケティング調査など。公開討論会を勧めるリンカーン・フォーラム事務局長を務め、開かれた政治文化の形成に努力している。「ヒロシマ・ナガサキプロセス」や「志産志消」などを提案し、行動する研究者として活動をしている。2012年にインドの非暴力国際平和協会より非暴力国際平和賞を受賞。連絡先:kodama2015@hi3.enjoy.ne.jp

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