東京都知事選をきっかけに「都議会のドン」と呼ばれる人物に注目が集まっています。小池百合子新知事が選挙の際に批判したのがきっかけで各メディアに取り上げられ、都議会議員でありながら「国会議員以上の権力を持つ」とも指摘されています。ドンとはいったいどんな人物なのか。本当に国会議員より偉いのでしょうか――。
小池氏は都知事選が始まる直前の7月10日、自民党東京都連に推薦依頼を取り下げる文書を提出。その直後、自らのツイッターに「『都議会のドン』やひと握りの幹部による都政運営を改め、都民のための『東京大改革』を進めます」と書きこみ、批判しました。
「都議会のドン」とは千代田区選出の都議会議員であり、自民党東京都連の幹事長を務める内田茂氏のこと。一般の人には馴染みのない人物ですが、永田町では知らない人のいない政治家です。
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内田氏は1939年生まれで、1975年から1989年まで千代田区議、1989年からは東京都議を務めています。2005年から10年以上にわたって自民党東京都連の幹事長を務めており、2009年に落選した際にもその座を譲らなかったことで永田町では話題となりました。
幹事長といえばあくまでも組織のナンバー2。その上には国会議員である石原伸晃会長がいます。しかし、多忙な国会議員が務める会長職はいわばお飾りの「名誉職」。実力派の都道府県議会議員が務める幹事長が実質的な地方組織のトップなのです。
そのことを示すのが、大手新聞が時々行う「都道府県連アンケート」のやり方です。自民党総裁選などが迫ると大手新聞は「票」を持つ地方組織の意向をアンケートで調べ、紙面に載せます。その際に記者は決まって都道府県連の会長ではなく、幹事長に電話します。
永田町にいる政治部記者が担当するので、会長である国会議員に聞いた方が楽に決まっています。国会裏の議員会館に行けば簡単に会えますし、会長を務めるほどの国会議員なら、必ず社内に携帯電話番号を知っている記者がいるからです。
しかし、わざわざ顔を見たこともない、携帯番号を知らないからつかまえることも難しい幹事長に聞くのは、幹事長の方が地方組織の実情に詳しいから。そして多くの地域では形式上の投票はあるものの、幹事長の意向でその組織の「意思」が決定するからです。
地方組織において幹事長が力を持っていることのほかに、地方議員が「ドン」となる理由が2つあります。
1つは「選挙」。国会議員の選挙区は広く、例えば東京の場合、参院選なら選挙区は東京都全体。伊豆大島などの島しょ部から多摩の山奥まですべてが選挙区で、有権者は1000万人を超えます。
衆院選でも東京都1区なら千代田区、港区、新宿区の3つの特別区にわたり、有権者は50万人超。そのすべてを国会議員(及びその候補者)の事務所だけでカバーすることなど不可能で、いざ選挙となると各区の都議会議員や区議会議員が総動員で支えるのです。
選挙前にビラをまいたり、選挙初日にポスターを貼ったり、選挙中に立会演説会を開いたり。これらの多くは地方議員が分担し、秘書や支援者に協力してもらって「実行部隊」となります。「地方議員がいなければ選挙にならない」といっても過言ではありません。
もう1つは「陳情対応」。国会議員の元には日々、様々な頼みごとが舞い込みます。地元の交差点に信号機を設置してほしいとか、公営住宅に入居させてほしいとか、交通違反をもみ消してほしいとか。合法違法、可能不可能を含めて様々な「陳情」が支援者より寄せられます。
その大半は国の仕事ではなく、都道府県や市町村が権限を持つ事柄。国会議員が直接担当するわけにはいかないので、必要に応じて地方議員に頼みます。そしてうまくいってもいかなくても、あたかもすべて自分がやったかのように支援者に恩を売るのです。
こうしたことから、国会議員は地方議員に頭が上がりません。それが当選回数を重ね、都庁の職員に顔がきき、都内の業者と広く付き合いのある地方議員ならなおさらです。長く幹事長の座にいれば、次第に「ドン」の実力と風格を身にまとっていくのです。
今回、内田氏に注目が集まったのを機に、猪瀬直樹元都知事らは様々な問題点を指摘しています。週刊誌も「“都議会のドン”が役員の会社 五輪施設を逆転受注」といった疑惑を報じ始めました。
小池新知事の側近である若狭勝衆院議員は元東京地検特捜部の副部長。ドンにまつわる疑惑の何が真実で、何がデタラメな風説や都市伝説なのか。都民の期待を背にしっかりと解明し、都政の透明化を実現してほしいと思います。
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