18歳選挙権と怒らない若者たち ー 原田曜平インタビュー

2016/07/07

18歳選挙権・若者と政治

コラム

参議院選挙

寒川倫

いよいよ10日に投開票される参議院選挙。18歳選挙権が解禁され、全国240万人が新たな有権者となります。18歳、19歳という新たな有権者の存在は、これからの選挙にどう影響を与えていくのでしょうか。
今回は、6月に発売された『18歳選挙権世代は日本を変えるか』(ポプラ社)の著者であり博報堂ブランドデザイン・若者研究所リーダーである原田曜平さんに、選挙ドットコム編集長の増沢と大学生ライター寒川がお話を伺ってきました。若者を政治に振り向かせるにはどうすればいいのか、一緒に悩みながら読んでみてください。

炎上も第一歩? 政治の広報は相手を選びにくい!

寒川 最近の政党の若者向けPRについて、ネットで炎上するものや浅い内容に見えるものが増えているのですが、そういったPR活動についてどう思われますか。

原田 まずツイッターやネットの炎上が、どれだけマスを表しているのかっていうのは極めて怪しい時が多いので、一概に炎上が悪いという見方はするべきではないと思います。で、特に選挙の場合は、皆が投票権を持っているので、マーケティングとして考えると非常にターゲットを選びにくい。
例えば、高級外車だったらある所得以上の人だけ狙えますよね。でも選挙って基本的にマスですから、今回若者を各政党が狙ったと言っても、クラスタリングされたマーケティングっていうのはおそらく政党側は苦手ですよね。これからはターゲットを絞った選挙運動をしていかないといけないということが政党の方にも意識づけされたという意味では、第一歩になるかもしれませんよね。

寒川 今後、政党のマーケティングの方も、だんだんクラスタで分けて、こういう若者に対してこういうアプローチをかけるっていう方向に行くのでしょうか。

原田 若者の中で特定の層を狙うところまで細分化していくかは分からないですけど、世代ではかなり区切るようになったと思います。ただ、その中でうまくいっていない部分が多分叩かれちゃっている。
要は「アニメのキャラ使っとけばいいだろう」とか「漫画にしとけばいいだろう」という認識で、表面的な部分だけ取り入れてしまっている。一口に漫画といっても、世の中あまたある漫画の中で若者に読まれているものっていうのは質が良いわけです。
それなのに「漫画であればいいだろう」って発想になっちゃってるのが、若者のことを理解してない部分なんですよね。だから今後は、もう少し政党のほうも漫画なら漫画でのその中身までこだわってくるんじゃないですか。

そもそも政党に狙われてこなかった若者たちと「狙われた側の違和感」

寒川 政党のことについてお伺いしたんですけども、今回は選挙管理委員会も18歳選挙権に関して、盛んにPRしていますよね。広瀬すずさんを起用したり「TOHYO都」みたいにラップのイベントを開催したり。そういったエンターテイメントと結びつけるようなタイプのPRが多かったと思うんですが、それについてはどうお考えでしょうか。

原田 「選挙自体はそんなに楽しいもんじゃない」っていうのは世界の人が共通して言っているので、ある程度エンタメ要素を入れていくっていうのは仕方がないし、どの国でもある程度行われていることだと思います。
ただ、それも中身の問題で、どうせやるならしっかり彼らの心を動かしてほしいですね。さっきの漫画の話もそうですが、ラップやっとけば良いとか、広瀬すずさんを起用すれば良いとか、そういう風に表面的に対応しようとすると、若者たちはすごく違和感を感じると思います。

寒川 「狙われた側の違和感」というのは、すごく面白い問題だと思います。そういうマーケティングを受けた若者側の反応はどうでしょう?

原田 んー、はっきり言うと良くも悪くも大多数は政治に対して無関心だと思います。ちょっと意識の高い子なんかは、やっぱり腹立たしいと思ってるでしょうけど、そもそも政治のニュースにたどり着いていない子が多いだろうし、たどり着いても「ふーん…」くらいに思っている子がマジョリティなんじゃないかなと。
ただ、今までは本当に政治が若い人たちのことを見ていなかったので、若い子たちの関心が高まるきっかけとしては、失敗事例も含めてすごくいいことだと思います。

 

サイレントマジョリティーを振り向かせるには……継続は力なり!

寒川 若者の中には、政治について聞かれても答えられず、「本当に沈黙している層」がある程度いると思うのですが、そういう子達を振り向かせるにはどういう試みが有効だと思われますか。

原田 そっちの方が圧倒的マジョリティじゃないですか、今。でも、例えば新しい商品を作るっていうのも、最初はイノベーターの人が飛びついて、その次にアーリーアダプター、その次がアーリーマジョリティー、っていう流れは商品の普及過程モデルとしてある程度言えることなんです。
で、政治に関してもまさにそう。まずそういう意識や偏差値の高い子たちが振り向いて、そういう子たちが投票に行っているのを見た層が、今回は行かないけれど行ってきた奴が何か話してたな、楽しそうだったな……ってどんどん人が増えていく。
一挙にみんながごそっと意識を変えたり動くっていうのは無理なので。政治への意識が高くない子たちを振り向かせるには、やっぱり少ないかもしれないけど一部の若者を振り向かせるところから始めていくしかないんじゃないかと思います。
まあ世の中一挙に何か変わってしまうほど楽じゃないので。徐々に徐々にやっていくものだと思いますけどね。そういう意味でも、今回が打ち上げ花火で終わらないでほしいです。

寒川 継続してPRも一回で終わらせないで何度もやっていく形が望ましいんですね。

 

社会に「若者の成功体験」という爪痕を残す

原田 やっぱりね、PRするだけで、本当に世の中が変わるってないんですよ。後押しするとか、最初に人に知らしめる効果はあるけれども、PRしておけば人が継続的に動くというものではないので、やっぱり根本的な動機付けっていうのが必要でしょうね。
例えば今回、18歳選挙権解禁しても、240万票なので、全体に占める影響は低いです。先日、鹿児島に行っていたのですが、鹿児島の新有権者って県内全体で三万人しかいないって言うんですよ。
そんなエリアもいっぱいあるわけですけど、例えば若い人がすごく支持した人が勝つとか、あるいは勝たないまでもすごく健闘したとか、アメリカにおけるサンダースのような人が急に出てきた、みたいな話があったら変わるかもしれない。
あるいは、選挙期間中ずっと若い人がテレビに出ていたり、「わあ、世の中自分たちに注目してる」って感覚だったり、というような、何らかの成功体験、言うなれば「爪痕」が残っていけばいいなと。
その爪痕が多少ね、いい余韻として残って、じゃあ次も行ってみようかな、という人が少し増えて……っていうのをずっと繰り返していく必要があるので、爪痕や見返りっていうのを何かしら残さないといけないなと思っています。

何より尊いのは「政治意識の低い子」の一票

増沢 前回の参院選ではネット選挙解禁が話題になりました。当時はネット選挙だけで候補者は受かるんじゃないかとか言われていたこともありましたが。

原田 日本のネット選挙って別にネットで投票できるわけじゃないんで、若い子たちには別に響いてなかったんじゃないかな。
政治に関心のある一部の意識の高い子たちにとっては相当大きかったと思いますけどね。政治に対する情報格差が生まれるきっかけにはなったかなあと。
ただ重要なのは、日本の人口構成上、少子化によって圧倒的に若い有権者が少なくなって、声が届きにくくなってる。だから意識の高い子にはどんどん意識高くなっていただきたいと思いますけど、そこから、誤解をおそれずに言えば「政治意識が低い子」に一票投じさせるってことのほうが、意味があることだと思っています。

 

社会に怒らない日本の若者たち

寒川 私の通っている大学の教授が「最近の学生は社会に対しての怒りがない」とおっしゃっていたのを思い出します。

原田 確かのその通りなんですが、僕は怒りが少ないっていうのは素晴らしいことだと思うんですよ。これはもう若者を叱るんじゃなくて日本を褒めた方がいい。
海外の先進国の若者は、社会に対する怒りが激しいけど、それだけ若者が守られていないということです。アメリカなんて別にいい大学出たって新卒一括採用ないですから。就職先ないですよね。
やっぱり相対的に日本の若者は恵まれてます。だから怒りが少ないっていうのは若者自身が誇りにしていいですし、弱者である少数派である自分たちに優しい国であるということは感謝しないといけないと思います。上の世代が若者だった時よりは確実に厳しくなっているけど、世界の若者に比べたら圧倒的に恵まれている。まだそこが担保されているんですよ。これが今の日本の現状です。

寒川 政治意識の差についてはどう思いますか。

原田 割合で言ったらたぶん99.9999対0.0001ぐらいなんで、圧倒的に意識が高くない若者がマジョリティーだと思いますね。せめて1パーセントまで意識が高い若者を増やすっていうのが大事なことだと思います。
あと、やっぱり上の世代に比べると、年金を払ってもきちんともらえないって、もう訳が分からないじゃないですか。借金の額だって毎秒毎秒ものすごく増えていて、それだって怒るべきだし。
本当にもっと怒った方がいいことっていっぱいありますよ。日本の子はある種すごく洗練されているんでしょうけど、怒った方がいいことはいっぱいあると思う。

寒川 怒りが少ないっていうのが良いことである一方で、危機感を持つべきところはいっぱいあるということですね。

原田 そう思います。相対的に恵まれているから、個別に怒るレベルではなんとなくぼやっとしちゃってるんで。全体的にはすごく洗練されて穏やかな若者でいてもいいけど、やっぱりおかしいところはおかしいと主張していくような若い人たちになってほしいなとは思います。

240万人の「良識ある有権者」が目覚めるとき

寒川 最後に、この18歳選挙権に関して、若者とそれ以上の世代それぞれに向けて一言ずつお願いします。

原田 本当に今の子たちって謙虚です。僕らの頃は本当にもっと生意気なやつが多かったから。今の子たちはいろんな子がいますけど、割合で言うと政治的関心は下がってる一方で、人間的良識は増えているというか、あまり人を蹴落としたりしないし、卑しくないですよね。
だから若い人たちに向けては、すごく良識のある子たちが増えているので、その「良識ある有権者」がもっと票を投じることになれば、間違いなく世の中は良くなると思うんです。やっぱり、もうズブズブなわけですよね、これまでの選挙って。支持基盤が強くて、投票以前に結果が決まってしまっている選挙区なんて、地方にはいっぱいあるわけですよ。でも今の子たちは政治意識が高くないぶん、政治をフラットに見れるようになっているはずです。
政治っていうと難しく感じてしまいますが、もっと自分にとって身近なテーマに関心を持てば、自ずといつかは政治に行き着くと思うし。それで投じた一票っていうのはきっと上の世代のものより清いと思う。
良識ある自分たちに誇りを持ってほしいし、その誇りで世の中良くなるってことにもっと自信を持ってもらいたい。政治の勉強は投票を重ねながらしていけばいいから。
最初から詳しくなるって責任感を感じすぎないで、まあ大した理由じゃなくても入れて、学んでいけばいいと思うんですよ。あまり重荷を感じず、でも自分の世代には誇りを感じてほしいっていうのが若い人に言いたいこと。

それから、高齢者の方たちに言いたいのは、すごく高齢者の方々も生きづらい時代になってきて、余裕がない方が多いですよね。俺たちはつらいんだっていうお気持ちの方が多いんだろうし、若い人たちのことだけ考えていられない人が増えているのも分かるけど、ご自分のお孫さんだとかひ孫さんだとかが死ぬまでは、日本が素晴らしい国だって言えるように、そういう目線で投票をしてほしい。

中年層に関して言えば、かなり政治意識は彼らより上の世代に比べて下がってますよね。今回のことで、今までよりは政治意識を高めるだろうし、大人も今までいい加減な気持ちで政治や選挙と接してきたのなら、自分たちも政治について考えるきっかけにしたら良い。自分より若い世代がしっかりしてきちゃって知識も増えてきたらやっぱり恥ずかしいと思うべきだし、そういうきっかけにしてほしいなと思います。

 

>>  18歳選挙権世代は日本を変えるか(ポプラ社)

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寒川倫

1995年生まれの大学3年生。イラク戦争の頃にデモに初参加し、現在も一人でデモに出ている。「正しい倫理子」名義でねとらぼなどで執筆中。

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