人口増加時代は終わり、消滅可能性都市という言葉が生まれるほどの人口減少時代が到来します。こんな時代にどうやって、“埋没していたまち” を “選ばれるまち” に変えたのか…。
「『誰に投票しても同じ』というのは、大間違い!」
こう話すのは、流山市を”選ばれるまち”に変えた井崎義治市長。
千葉県北西部に位置する流山市はマーケティング課がある自治体として知られ、この人口減少時代に人口が増加し続けている稀有なまちです。
それを仕掛けたことで注目を集める井崎市長は、「誰に投票しても同じ」という決まり文句は間違いであり、「誰に投票するかで大違いです」と警笛を鳴らします。
政治家がまちの命運を分ける。人口減少時代とは、そういう時代でもあるのかもしれません。
2005年につくばエクスプレス(TX)が開業し、TX沿線の自治体は人口が増加傾向にあります。流山市だけが人口増加しているわけではないのに、なぜ注目を集めるのか。それは、以下の図に集約されます。
10年間で人口が2万3000人増加していることに加え、流山市がメーンターゲットとするDEWKS(共働き子育て世代)の人口が急増していることがわかります。これは他のTX沿線自治体と比べて多い数字です。また、2013〜2015年3・4月の転入者のうち62%が、流山市を指名して転入しています。
「これまでの10年間は、TX沿線の区画整理が進む中で流山市を居住地として選んで頂くためのマーケティング戦略を行ってきました」と井崎市長は話します。そして実際に、埋没していたまちは、選ばれるまちに変わったのです。
井崎市長は初当選した2003年にマーケティング室を設置、翌年には全国初となるマーケティング課を設置しました。
「人口が減り、なおかつ少子高齢化が進むことは数十年前から明らかでした。そのため、駅前再開発など何かがあった時だけでなく、継続的にマーケティングに取り組む専門部隊が日本の自治体にも必要だと、つねづね考えていたのです」
こうした発想は、12年間の海外経験が影響していると話します。
「マーケティング戦略は、日本の自治体にはない概念でした。しかし私が働いていたアメリカでは、人口50万人ほどの都市であれば Development Authority(直訳すると開発局)があり、市の知名度・イメージの向上、企業誘致、住民誘致などを行っています」
「マーケティング戦略としては、SWOT分析をして『都心から一番近い森のまち』という都市ブランドイメージを設定し、ターゲットはDEWKSに絞りました。マーケティング課の第一歩は、流山市の認知度向上、プラスのイメージを形成する情報発信。この2つでした」
近年、一部の自治体はシティセールス(シティプロモーション)と称して情報発信に取り組んでいます。では、流山市の独自性はどこにあるのでしょうか。
「しかし、最も重要なのは、実態を良くすること。DEWKSに選ばれるために必要なことは、子育て環境と教育環境の充実、そして良質な住環境です。これに10年間ずっと取り組んできて、現在も『より充実させるにはどうすればいいのか』と考え続けており、終わりはありません」
具体的には、駅前送迎保育ステーションの設置や保育園の新設・増設、グリーンチェーン認定制度などが挙げられます。駅前送迎保育ステーションとは、利用者の多い2つの駅前に送迎保育ステーションを設置し、通勤途中の親がそこへ子供を預けると市内の指定保育所(園)へバスで送迎してくれるサービス。「『このサービスがあるから流山市を選びました』と話す転入者もいる」そうです。
グリーンチェーン認定制度とは、「街中に緑の連鎖(グリーンチェーン)が生まれ、街の緑が周辺の森の緑とつながりあう豊かな環境が創造されること」を目指したもの。「東大の研究チームによると、グリーンチェーン認定物件は、その他の物件と比べて約400万円 以上の差がある」と言います。
ここまで徹底的に取り組むのは、人口減少や少子高齢化への危機感があるからです。
「なりゆきで出来るまちというのは、付加価値のないまち。手を入れて良質なまちにしないとブランド化はできません。そしてブランド化ができないと、今後本格化する人口減少時代に飲み込まれてしまいます。それによって財政は悪化し、市民サービスが維持できなくなります」
このように語る井崎市長は、“マーケティング戦略の次”を見据えています。
「これまでの10年間は、TX沿線の区画整理が進む中で流山市を居住地として選んで頂くためのマーケティング戦略を行ってきました。良質な住環境を作ることでブランド化をし、人口が減りにくいまちをつくること。これが流山市の次の命題だと思います」
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