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選挙を旅する(大阪府池田市)中編 アポ無し選挙事務所訪問後、稀代の実業家ゆかりの地を散策する

2015/12/3

高橋 茂

高橋 茂

前編「編集部に一通のメールが届いた」はこちら

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池田市長選挙 現職 vs 前職の構図

宝塚線で池田市へ

梅田から阪急宝塚線で石橋駅に降りた私は、さっそく現市長の小南おさみ選挙事務所に訪問することにした。公式サイトで最寄りの駅が石橋駅になっていたからである。

阪急宝塚線で池田へ

阪急宝塚線で池田へ

石橋駅(大阪府)商店街入口

石橋駅(大阪府)商店街入口

石橋駅の改札口から出た私は、目の前の商店街を練り歩く集団に当たった。小南候補だった。

偶然練り歩き(桃太郎)に出くわすことはなかなか無い

偶然練り歩き(桃太郎)に出くわすことはなかなか無い

私は、一番デカくて人の良さそうな感じのスタッフに
「これから事務所に行きたいんですけど、こちらですよね」
と聞いたところ、

「いや、違うんですわ。あれは個人事務所で、選挙事務所は別のところなんです」
とのことだったので、住所を教えてもらい、今度は隣の池田駅に向かった。

阪急池田駅

阪急池田駅

池田駅前は小さなショップが立ち並び、東京でいえば小田急線沿いの駅のような雰囲気だ(あくまでも個人の感想)。
教えてもらった住所を確認したところ、なんと対抗馬である倉田かおる候補の事務所のすぐ近くのようだった。
まずは近いところから。倉田かおる候補の事務所にアポなしで飛び込んでみた。

倉田かおる選挙事務所

倉田かおる選挙事務所

倉田かおる氏は、1975年に池田市議会議員になってから40年間、ずっと政治家として活動してきており、池田市長も16年間(4期)務めている。現職の小南氏よりもはるかに政治家としてはベテランだ。府知事選挙出馬のために市長を辞職してからの4年間を除いても、人生の半分以上は政治家として活動してきた人物だ。さらに倉田氏の息子は、今年の4月に行われた池田市議会議員選挙で、初出馬しトップ当選している。本人の力もあったろうが、ここはやはり父親の力が大きかったと考えるべきだろう。

池田市議会議員選挙(2015年 選挙ドットコム)

偶然通りかかった確認団体らしき車

偶然通りかかった倉田候補の選挙カー

そんな倉田氏の事務所は、意外と入口付近が狭かった。おそろいの黄色のジャンパーを着た十数人のオジさんたちが慌ただしくしていて、熱気はあった。お盆に飲み物を乗せて歩き回っている年配の女性(かなりの美人)が、そこで見かけた唯一の女性だった。

入口にいた男性に「取材に来たので、何か資料をもらえないか」と聞いたところ、「ちょっと待ってください。事務局長に聞いてきます」と奥に引っ込んだまま5分ほど待たされた。実は資料が欲しいのではなく(ウェブサイトを見れば政策はわかるので)、そこそこの事情が分かる人と話したくて挨拶をするのだが、このときはチラシを1枚渡されただけだった。建物は大きいので、奥で電話作戦をやっているのかもしれないし、政党支援を受けていないため、まだ陣営がまとまっていないのかもしれない。素直な印象としては「これで勝てるのだろうか」というものだった。

続いて、現職の小南選挙事務所に向かった。距離にして道を挟んで50mほど。本当に「目と鼻の先」だ。

両選対事務所は目と鼻の先

両選対事務所は目と鼻の先

こちらは、建物がきれいだということもあって雰囲気はオシャレだった。入口に受付があり、若い女性が二人立っていて、まずは名前を書かされた。取材であることを伝えると、選対本部長が出てきてくれて、話を聞くことができた。入口すぐのところにテーブルが数台置いてあり、来訪者が来てもそこで話ができるようになっていた。小南候補は自民・公明・民主の推薦を受けているので、これは政党支援だからこそのスタイルなのかもしれない。

小南おさみ事務所

小南おさみ事務所

開口一番、「今回は厳しい選挙ではないでしょうか」と聞いたところ、「その通りです」。と本部長は重そうに話し出した。「私もかなり選挙をやってきたけど、こんなん初めてですわ」と。とてもやり難そうな雰囲気が伝わってきた。もともと、小南氏は倉田氏が知事選に出馬するときに後継指名した人物だ。それが今回の選挙では「あれは一期だけの約束だった」とも言っているらしい。「ニュースになっていた小南さんの事件は影響出ていますか?」(事件に関しては前編参照)と聞くと、その話は根も葉もないもので、指摘されることはあるが問題ではないとのことだった。倉田氏は一度は市政から離れたが、もう40年も政治家として選挙をやってきたので、選挙の仕方は熟知している。だから陣営としては難しい選挙だと考えている印象だった。

両事務所を訪問してみて、今回の勝負は現職の小南氏が勝つイメージが浮かんできた。接戦だとも思えなかった。政党相乗りは好ましいわけではないが、小南陣営はスタッフの年齢層が広く、私が話したスタッフはみんな表情が明るくハキハキと話していた。小さいことだが、こういうのは意外と選対全体の雰囲気を表していて、それは有権者に伝わるのである。倉田事務所は、60代以上の年配のおっちゃんたちが入口付近にたむろしているのに、人が入ってきても誰も気がつかず、気がついても対応しようとしない。たまたま私が見たところだけかもしれないが、これでは勝てるイメージが湧いてこない。政党支援を受けない手作りの選挙であればあるほど、スタッフの雰囲気作りは大切だ。

しかし、私が少しの時間で感じたことなので、まだ確信は持てない。市民のナマの声はどうなっているのだろうか。

山元たけし候補の選挙カー

偶然通りかかった山元たけし候補の選挙カー

稀代の実業家小林一三(こばやしいちぞう)

両陣営の事務所が近かったために、あっという間に取材は終わってしまったので、市内を歩いて雰囲気を感じてみることにした。その間に共産党候補の事務所があれば、入ってみようかと思った。共産党候補の山元たけし氏はブログだけで、公式サイトを持っていない。共産党の大阪府委員会のサイトを見ても池田市長選挙の情報は一つも無い。自民、公明、民主の大阪府連サイトも候補者の情報が無いので、そもそも政党は大きな選挙しか情報は出さないのだろう。しかし、小南氏も倉田氏も公式サイトを持っている中で、個人のブログ、それも政策もプロフィールもなく、いったい何歳なのかもわからないような候補に有権者は託したいと思うだろうか。私は共産党にはシンパシーを感じることは多いが、せめて首長選挙や都道府県議会選挙では、公式サイトぐらい作ってくれと思うのである。

駅から5分ほど歩くと「小林一三記念館」という看板が見えた。私は名前ぐらいしか知らなかったのだが(本当に何も知らず恥ずかしい)、小林一三氏の業績を並べるだけでも
・阪急東宝グループ創業
・阪急電鉄、阪急百貨店、東宝、宝塚新温泉、宝塚歌劇団、新宿コマ劇場など
・経営難に陥っていた東京電力(東京電燈)再建、昭和電工設立
・商工大臣、国務大臣、繊細復興院総裁
・日本初のビジネスホテル「新橋第一ホテル」開業
・阪急ブレーブス(大阪阪急野球協会)設立
・田園都市線沿い開発(無報酬)
などなど
海外視察などでヒントを得ると、それをもとに起業して成功させる。しかし、すべてが順風満帆というわけではなく、政治に振り回されたりもしたが、1957年に天寿を全うするまで日本の発展に貢献し続けた。

小林一三記念館

小林一三記念館

「畢生(ひっせい)の起業家」と呼ばれ、「人の宝は金ではなく事業である」を貫いた小林一三氏には、いくつかの語録があるが、偶然見かけた「信用を得るための三つの条件」は印象的だった。
1.正直であるか
2.礼儀を知っているか
3.物事を迅速、性格に処理する能力があるか
人に信用されるようでなければ、どんなに仕事をやろうと思ってもうまくいかずに人は離れていく。シンプルでありながら的を得ている。たったこの三つのことなのに、自分を振り返ってみて、全然できていないことに気がついて愕然とした。成功の秘訣というのは、多く挙げようとすればいくらでも出てくるが、その本質はシンプルでわかりやすいものなのかもしれない。

小林一三肖像画 はたして現在の政治家は小林一三のような志と実行力を持っているのか

小林一三肖像画 はたして現在の政治家は小林一三のような志と実行力を持っているのか

政治家に「志」はあるか

後編に登場する安藤百福氏(チキンラーメンやカップヌードルを開発した)は、起業家に加えて世界に誇る発明家だが、これらの偉人たちの魂は、池田市に今でも受け継がれているのではないだろうか。そうだとすると、その長を選ぶための一番の指標は「志」ということになるのではないか。池田市の未来をどのように考えているのか。私利私欲ではなく、党利党略でもなく、地元のために身を捨てて働く覚悟を持った人物が有権者から選ばれるのではないだろうか。

そのようなきれい事を述べたところで、選挙は「志」だけで決まるわけではない。「地盤・看板・カバン」が全てでは無いにしても、やはり組織力は必要となる。首長に関しては現職が有利なのも常識だ。小南氏の現職としての安定さと政党の組織力か、倉田氏の経験か。イメージは湧いたものの、多少判断に迷うところもあった私は、池田駅前の「満寿美横丁」にある小さくて古いお好み焼き屋に入って、自分の予想を決めることになる。

いよいよ後編へ

ビリケンさん

ビリケンさん

落語ミュージアム

落語ミュージアム

 

呉服座

呉服座

池田市には、この他にも多くの見学場所がある。

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高橋 茂

高橋 茂

2000年、電子楽器のエンジニアから政治とインターネットの世界へ。政治家のネット活用をサポートするVoiceJapan社を経営する傍ら、講演、執筆も行う。武蔵大学非常勤講師。選挙ドットコム顧問

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