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「デモと文化資本/越えがたいし、越えなくていい」(寒川倫のエッセイ)

2015/9/4

選挙ドットコム編集部

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8月30日を越えて

8月30日、国会前では、今までで最大規模の抗議行動が行われた。
昼過ぎに始まったそのデモは、主催者発表12万人、警察発表で3万人超という参加者数を記録したという。

私はその日、神奈川の端でのバイトが夕方まで入っていたので、終わってから2時間ほどかけて国会前へ足を運んだ。ほとんど撤収モードになって人が減った国会前をぷらぷら歩き、その日の熱狂に思いを馳せていた。要するにあまり本腰を入れた参加ができなかったのである。本当に残念だった。

というわけで、今回はデモそのものについてではなく、デモに対するネットの反応と文化資本について考えてみたいと思う。

車道が埋まるという感動

lQlzVodiデモの後Twitterを眺めていたら、国会前の空撮写真がRTされて流れてきた。そしてそれに伴って、前述の主催者発表の人数に関し、「◯◯のライブのほうが混んでいるし12万人もいない」「デモが行われている領域は、人を詰め込んでも3万人しか入れない」といった批判的な意見が多く見られた。一部の参加者によるハンストに関しても、やはりおちょくったり否定したりするツイートが多数見受けられた(あくまで私の観測範囲内の話であり体感であるが)。

いやいやいや? と思う。

そもそもデモの参加者数は、主催者発表と警察発表に相当の差異が出るのが当たり前だ。だから12万人と3万人という数字に開きがあること自体を批判しているなら、それは少し違う。

そして、何より、あの国会前が埋まった空撮写真について一番感慨深いのは、いつも護送車で封鎖されている車道が解放されて人で埋まっていたことである。

国会の目の前ど真ん中は、まっすぐな一本の道路だ。普段の国会前デモではほとんど解放されることがない。今回も当初は封鎖されていたと聞いたが、あまりの人数の多さに警察も解放せざるを得なくなったのであろう、あの空撮の通り、車道も人で埋まる結果になったのだ。

現場に来たことがある人には、あの写真はデモの成功を象徴しているように見えただろう。そして「今日のデモは人が多かったんだな」と一瞬で理解できる。

文化資本の差

どうしても埋まらない「人間の文化資本の差」というものは、確実に存在している。
私がいくらデモに出ることには意味があると主張しても、それを承服しない人はもちろんいるし、デモ自体に絶対に興味を示さない人もいるだろう。私の言葉が通じない領域、上から目線でも何でもなく本当に言葉の使い方も見ているものも違って純粋に“通用しない”場所があるのだ。良いとか悪いとかではなく、どうしようもないものとして。

インターネットを見ていると、それがまざまざと感じられた。デモ側とそれをおちょくる側の「断絶」である。

例えば、「戦争に行きたくなくて震える」というスローガンがある。恋愛をテーマにした歌で有名な女性歌手の歌の歌詞をもじったものだ。「なんか自民党感じ悪いよね」というコールもある。これはラップ風のシュプレヒコールである。

あなたはこれらの言葉についてどう感じただろうか?

これを素直に受け止めて、わかりやすくて良いキャッチコピーだと思う人もいるし、バカっぽいとか軽率だという印象を抱く人もいる。

この違いは、実はどうしようもない文化資本の差異なのだ。

デモを叩く手法としてよく見られるのが、「何だこの馬鹿みたいなフレーズは」「そんなことしてる暇があるなら大学生は勉強しろ」という、SEALDsや彼らに触発された若者を見下す言論である。そういう人からすれば、ラップ風にコールを行うことも大学生や浪人生が現場で前へ出て行くことも許せない、というか、当人からすると、「自分であれば絶対にしない」のだ。

「キャッチーで軽い」ことはSASPLもといSEALDsがデモの世界に作り上げた新しい世界だと思うが、その一方で「政治的な言論は重く論理的であるべき」という考え方の人がいる。世の中の物事は多面的で、どう捉えるかは個々の文化資本で左右されているのである。

違うことは悪ではない

私は、文化資本を越えて分かりあってほしいなどとは絶対に思わない。私自身、明るくておしゃれなSEALDsとは水が合わない「根暗」な文化資本の人間だ。キャッチーなフレーズも恥ずかしいので好きではない。文化資本の差を乗り越えることは、例え「向こう岸」の人がこちらを受け入れようとしていたとしても、無理なのだ。それでも私はデモを動かすSEALDsの人々は評価されるべきだと思い、彼らのデモに出る。多様な立場があっていいし、そうあるべきだろう。

だからこそ、批判というものは慎重にやらねばならない。自分が何を考えて何を批判するのか、明確に言葉にしていく作業が必要とされる。根拠もなく感覚的に文化資本の差を叩いたり、現場に出ないで現場を語ることは、健全ではないと思う。

差を埋めるより、自分と違う対象とどう付き合うかを考えていきたいのだ。

 

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2023年に年間1億PVを突破した国内最大級の政治・選挙ポータルサイト「選挙ドットコム」を運営しています。元地方議員、元選挙プランナー、大手メディアのニュースサイト制作・編集、地方選挙に関する専門紙記者など様々な経験を持つ『選挙好き』な変わった人々が、『選挙をもっとオモシロク』を合言葉に、選挙や政治家に関連するニュース、コラム、インタビューなど、様々なコンテンツを発信していきます。

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