さとう しゅういち ブログ
コラム:肉は“静かな危険物”である ― 加賀まりこさん「とんかつ事故」が映し出した現場のリアル
2026/7/12
コラム:肉は“静かな危険物”である ― とんかつ事故が映し出した現場のリアル高齢者の食事事故といえば、毎年のように餅が話題になる。だが、介護現場で働く者なら誰もが知っている。本当に怖いのは、餅よりも“肉”だ。 今回、俳優・加賀まりこさんがとんかつを喉に詰まらせ救急搬送されたというニュースは、その事実を社会に突きつけた。肉は、見た目が「普段の食事」であるがゆえに油断される。だが、繊維は長く、噛み切りにくく、油で滑り、喉に貼りつく。高齢者の嚥下機能が少しでも落ちている日なら、ほんの一口が命取りになる。介護施設では、肉類の提供は餅以上に神経を使う。“その人の今日の状態”を見極める観察力こそが、最大の安全装置だ。現場では、肉の繊維を断ち切る方向でカットし、厚みを薄くし、角を落とす。酵素で柔らかくし、低温調理でほぐし、煮込みで水分を足す。とんかつは5〜7ミリ、唐揚げは小指の先ほど。脂身は必ず除去し、油は拭き取る。これらは料理の工夫ではなく、誤嚥を防ぐための“命の技術”である。そして忘れてはならないのは、嚥下能力は日替わりだということ。疲れている日、口が乾いている日、薬の影響が強い日――そんな日は、普段食べられる肉でも危険になる。ミンチ系に切り替える、煮込みに変更する、あるいは肉そのものを避ける判断が必要だ。加賀まりこさんは「本当に危なかった」と語った。芸能ニュースとして消費される話題ではない。これは、高齢者の食の安全を社会全体でアップデートする契機である。餅だけではない。肉もまた、静かに、確実に、高齢者の命を奪い得る。介護の現場では、今日も職員が台所で肉を刻み、柔らかくし、水分を足し、形を整えている。その一手間が、誰かの命を守っている。食事介助とは、生活支援であると同時に、毎食が“救命の現場”でもあるのだ。
さとう しゅういち
サトウ シュウイチ/50歳/男