2022/9/1
地方都市に住む40代後半の女性が、ひそかに隣の県の県庁所在地にある産婦人科医を訪れた。中学3年生の娘の妊娠中絶手術のためだった。成績優秀で生徒会の役員もやっていた娘がふさぎこんでいることに気づいた母親が、妊娠に気づき、夫にも黙って、娘に中絶手術を受けさせたのだった。
26歳の看護師として働いている女性も二度、妊娠中絶手術を受けた。
医学生の恋人と同棲していて、避妊に気を付けていたが妊娠した。彼女が経済的な負担を背負っていたので一度目は産めなかった。
二度目の妊娠の時、彼女は産みたいと彼に言った。既に、彼は医師の資格を得て勤務医になっていたからだ。両親に話し、結婚もしたかった。
しかし、彼には勤務先の病院長の娘との縁談話が進んでいた。彼は出ていき、彼女は再び妊娠中絶手術を受けた。
プロ・ライフ(pro-life)とプロ・チョイス(pro-choice)の考え方が妊娠中絶に関してある。
あなたはどちらの考え方だろうか。中3の娘に休校させて出産させ、子どもを自分たちの子として育てる選択肢もあるし、自分を捨てた男の子どもでもかわいくて一人で育てる生き方もあるだろう。他人がとやかく言えない悩ましい問題だ。人工妊娠中絶だって、望んでやりたいわけではなく、一生心に傷を負う。
プロ・ライフは胎児の生命を尊重する立場で、人工妊娠中絶を殺人とみなす。だからアメリカではNPOなどに養子に出すよう主張する。
プロ・チョイスは「胎児の生命」と「母体の選択肢」を比較した場合に、「母体の選択肢」を優先する立場だ。
今年(2022年)6月24日、アメリカでは連邦最高裁がプロ・ライフ派が大喜びする判決を出した。
1973年に、女性の中絶権を合憲とした「ロー対ウェイド」判決をくつがえしたのだ。
ミシシッピー州のクリニックが、ロー対ウェイド法に照らして、妊娠15週以降の中絶を禁止するミシシッピー州法は違憲だと訴えたのに対し、最高裁は違憲ではないと判断したのだ。
その後の8月2日、カンザス州で人工妊娠中絶権の是非を問う住民投票が行われ、プロ・チョイス派が勝利した。カンザス州は保守的と言われていたが、60%以上の有権者が、州憲法で女性の中絶権を認めるべきと判断したのだ。
アメリカでは大統領選でも中間選挙でも、中絶問題は大争点になる。11月8日に予定されている中間選挙では、カンザスの住民投票結果が、民主党への追い風になるのだろうか。
我が国では、戦後の人口抑制策として中絶を合法化した特異な状況がある。女性の健康に配慮し、女性の権利としての中絶合法化をめざした諸外国とは少し違う。そのせいもあってか、吸引や薬などによる安全な手術は少数だし、72時間以内が有効緊急避妊薬も手軽には手に入らないし、女性のみに課せられた懲罰的法規の刑法堕胎罪も未だに残っている。
長引く不況やコロナの影響で、多くの女性たちの就労状況は不安定かつ低収入で、子どもが欲しくても産めないという状況が続いている。望まない妊娠を防ぐこと、望んだ時に産めること、どちらも簡単ではない。女性にとってもパートナーにとっても大きな課題だ。
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