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住民の「AI生活」を支えるのは自治体の責務——足元からの提言(最終回)

2026/7/7

連載「AIと民主主義」の最終回です。

第1回では、世界のAIが「資本の重力」に引かれ、巨大企業のものになっていく姿を見ました。
第2回では、AIが「国家戦略資源」となり、その価値観は民主的に問われるべきだと書きました。
第3回では、日本は「ひらかれた、効率的なAI」の旗手を目指すべきだと提言しました。

世界の話、国の話と、大きなところをめぐってきました。
最終回は、その全部を、もっと足元——一人ひとりの暮らし、そして板橋区に、降ろします。

生成AIのインパクトは、産業革命に並ぶ

まず、大前提を確認させてください。

生成AIがもたらすインパクトは、人類史のなかでも相当に大きなものになる。
少なくとも、産業革命クラスの影響が、世界全体に及ぶだろうと私は見ています。

そして「高性能AI」は、最終的には、一人ひとりの生活に降りてきます。
かつて高価だった自動車が、いまではどの家庭にもあるのと同じような状況が、AIにも訪れる。
そういう時代が、もうすぐそこまで来ています。

「AI格差」は、もう目前——いや、もう始まっているかもしれない

そのとき、何が起きるか。

AIを使いこなせるかどうかで、収入に差がつく時代は、もう目前です。
いえ、正直に言えば、もうなっているのかもしれません。

これまでの三回で見てきたのは、国家間・企業間の「AI格差」でした。
けれど、これから深刻になるのは、それだけではありません。
一人ひとりの個人の間にも、「AI格差」が生まれる のです。

  • 高性能AIを使うだけの収入がない人
  • 教育の不足により、AIを使いこなせない人

こうした人たちが被る不利益を、できる限り減らす。
そのために、「公的AI」の整備が必要になる——私はそう考えています。
自治体がバスを運営し、誰もが移動する権利を保障するのと、同じ理屈です。

まず自治体に必要なのは、「認識」と「気概」

では、この「公的AI」を、どう用意するのか。

まず自治体に必要なのは、こうした格差が現実に起こりうるという 認識 と、それに先んじて動く 気概 です。
先見性を持たなければならない。
そして、そのための制度設計と予算確保を、行政と議会が行わなければなりません。

板橋区も、行政のデジタル化(DX)は進めています。
AIやRPAで職員の事務作業を減らし、コンビニでの証明書交付や、オンライン申請を増やす。
「年間で何千時間もの業務削減」といった数値目標も掲げています。

これ自体は、良いことです。
けれど、いまのところ計画の中心は「効率化」です。
「区民のAI格差を、自治体としてどう埋めるか」という視点は、まだ前面に出ていません。

「公的AI」は、独自モデルを持てという意味ではない

誤解のないように言っておきます。

「公的AI」の整備とは、必ずしも「自治体が独自のAIモデルを用意しろ」という意味ではありません。
既製のAIを使うのでも構いません。

ただし、自治体が公的にAIの普及・推進を行うのであれば、その 信頼性をどう担保するか を、必ず考えなければならない。
以下、これからのAI時代に、自治体および自治体議会が担うべき責務について、三つ提言します。

提言① 「ある日、使えなくなる」前提で選ぶ

第1回のFable事件を、思い出してください。
政府の一声で、世界中のFable活用が一夜にして止まりました。

同じことが、板橋区の使うAIにも起こり得ます。
一社・一国のAIに完全に依存していたら、ある日突然、区民サービスが止まってしまう…ということも起こるかもしれません。

だから、 特定の一社に囲い込まれないこと(ベンダーロックインを避けること)
別のAIに乗り換えられる設計にしておくこと。
そしてできれば、第3回で述べた「ひらかれた国産の効率AI」のような、自分たちの手で管理できる選択肢も持っておくこと。
——「いつか使えなくなるかもしれない」と備えておくのが、調達の知恵です。

提言② 自治体が、AIに責任を持てる体制をつくる

「公的AI」と呼べるものにするためには、その背景となる情報を整備し、AIがそれを踏まえて答えられるようにする作業が要ります。
専門的には「ハーネスエンジニアリング」や「グラウンディング」と呼ばれる仕事です。

自治体は、こうした技術への理解を深め、「AIを管理できるだけの体制」を自前で整えていかなければなりません。
やがて、AIが区民の申請を仕分けし、「あなたは対象です」「対象外です」と判断する日が来ます。
そのとき、 「なぜそう判断したのか」を区民に説明できないAIを、行政が使ってはいけない

「AIがそう言ったので」では、行政の決定の理由になりません。
どんな価値観・どんな情報にもとづいて設計され、なぜその結論に至ったのか。
それを自治体自身が説明できること——AIが下した判断に、自治体が説明責任を負えるかどうかが、ここでの焦点になります。

提言③ 区民と議会が、チェックできるようにする

そして、いちばん大事なのが、これです。

「自治体AI」が、どのような仕組みで動いているのか。
それを、区民と議会が いつでも確かめ、問い直せる ようにしておくこと。

ハーネス(AIの土台となる仕組み)、システムドキュメント、AIへの指示文(プロンプト)、参照させているデータベース、外部連携の仕組み(MCPサーバなど)——こうしたものを、公開し、記録し、定期的に見直す場をつくる。
AIを「お任せ」のブラックボックスにしないための、民主的な監視の仕組みです。

そしてそのためには、区議会の側も、それをチェックできるだけの実力をつけなければなりません。
専門用語を並べられて「わかりません」で終わっていては、チェック機能は果たせないからです。

区議として、私がやること

では、これを絵に描いた餅で終わらせないために、私は何をするか。

まず、議会の一般質問で、「区民の間に広がりうるAI格差」と、この三つの基準を区に問います。
そして、区のDX計画に「公的AI」としての視点——ベンダーロックイン回避・説明責任・区民と議会によるチェック——を盛り込むよう求めます。
そして、広く区民がAIに親しみ、AIを使いこなしていけるような、広い意味での「AI教育」の場を求めていきたいと思います。

大きな国家戦略は、すぐには動かせないかもしれません。
「変えるための行動」は、自治体からやらなくてはなりません。
第3回で書いたとおり、 国家戦略は、足元から始められる のです。

おわりに——四回の旅を終えて

この連載は、「AIは、本当は人類みんなのものだったはずだ」という問いから始まりました。

その理念が資本に引かれ、国家に握られ、いまは巨大企業の手のなかにあります。
そして次に来るのは、「AIを使いこなせる人」と「使いこなせない人」の間に生まれる、新しい格差です。
それを座視せず、「みんなのもの」に近づけておく仕事は、政治の——そして、足元の自治体の——責任だと、私は考えています。

住民の「AI生活」を、誰が支えるのか。
その答えの一部を担うのは、自治体であり、私たち区議会だと思うのです。

世界のAIの話も、めぐりめぐって、最後は板橋区の窓口に、そしてあなたの暮らしに、つながっています。
卑小な一区議にできることは、限られています。
それでも、足元からできることを、私はやり続けます。

四回にわたり、お付き合いいただき、ありがとうございました。
——AIと民主主義について、あなたはどうお考えですか。
ぜひ、ご意見・ご感想をお聞かせください。

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