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なぜ川越だけが埼玉で観光地になれたのか

2026/5/12

埼玉県に——全国から観光客が来る街があります。

川越市です。

年間観光客数——約700万人。

埼玉県内の他の街と比べると——この数字は突出しています。

大宮は交通の拠点。浦和は教育とサッカーの街。越谷はイオンレイクタウン——これらは「地元民が使う街」です。

でも川越は——「わざわざ来る街」になっています。

なぜ川越だけが、埼玉で観光地になれたのか。今日は構造的に分析します。

 

まず、川越の数字を確認する

川越市の観光客数:約700万人(年間)

比較すると——

鎌倉市:約2,000万人
日光市:約1,300万人
川越市:約700万人
箱根町:約2,000万人

全国的な観光地と比べても——川越の700万人は、決して見劣りしない数字です。

「埼玉に観光地なんてない」——この思い込みを、川越は数字で覆しています。

 

理由①「小江戸」という強烈なブランド

川越が観光地になれた最大の理由——「小江戸」というブランドの確立です。

「小江戸」——江戸時代の面影が残る街、という意味です。

蔵造りの街並み、時の鐘、菓子屋横丁——これらが「小江戸」というブランドに集約されています。

「小江戸川越」という言葉を聞いた瞬間——江戸時代の街並みが頭に浮かぶ。着物を着た人が歩いている。和菓子の香りがする——このイメージが、観光客を引き寄せています。

「ブランドとは、一言で街のイメージを伝えられること」——「小江戸」はこれを完璧に実現しています。

加須市に置き換えて考えると——「加須といえば?」という問いに、一言で答えられるブランドが、まだありません。

「渡良瀬遊水地の街」「うどんの街」「關東三大不動の街」——素材はある。でも「小江戸」のような、一言で伝わるブランドになっていない。

 

理由②「本物の歴史的建造物」が残っていた

「小江戸」というブランドは——作り物ではありません。

川越には——本物の歴史的建造物が残っています。

蔵造りの街並み
江戸時代に建てられた蔵造りの商家が、一番街に立ち並んでいます。1893年の川越大火の後、延焼を防ぐために蔵造りの建物が集中して建てられました。

時の鐘
江戸時代初期から時を刻んできた鐘楼——現在のものは1893年に再建されたもの。川越のシンボルとして、観光パンフレットに必ず登場します。

喜多院
徳川家光が生まれたとされる部屋が残る寺院。江戸城から移築された建物が現存する——歴史的価値が極めて高い。

「本物があるから、観光地になれた」——作り物の観光地は長続きしませんが、本物の歴史的建造物は永続的な集客力を持ちます。

 

理由③ 東京から「ちょうどいい距離」

川越の観光地化を支えたもう一つの理由——東京からの距離感です。

池袋から川越まで——東武東上線で約30分、西武新宿線で約45分。

「近すぎず、遠すぎない」——この距離感が絶妙です。

近すぎると——「日常の延長」になってしまう。「わざわざ行く感」がなくなる。

遠すぎると——「行くのが面倒」になってしまう。

「池袋から30分」という距離は——「ちょっとした小旅行」という感覚を生み出します。「今日、川越でも行く?」という気軽さと、「ちょっと遠出した」という非日常感が同時に生まれる——この絶妙な距離感が、リピーターを生んでいます。

加須市——浅草から特急で約1時間。この距離感は、川越より「遠い」という感覚があります。でも「1時間の小旅行」という切り口で発信すれば——「ちょうどいい距離」として認識される可能性があります。

 

理由④「食べ歩き文化」の確立

川越観光の醍醐味の一つ——食べ歩きです。

菓子屋横丁——駄菓子、和菓子、芋菓子——様々な食べ物が並ぶ横丁。「川越はサツマイモの産地」という歴史的背景を活かした、芋スイーツが人気です。

芋ソフトクリーム、芋けんぴ、芋コロッケ——川越に来たら必ず食べる「川越グルメ」が確立されています。

「食べ歩きしながら街を散策する」——この体験が、川越観光のスタイルとして定着しています。

「食べ歩きができる街」は——滞在時間が長くなります。滞在時間が長くなれば——消費額が増える。消費額が増えれば——地域経済が潤う。

加須市に置き換えると——北川辺米を使ったおにぎり、加須うどん、地元農産物——「加須グルメ」を食べ歩けるエリアを作ることが、観光地化への一歩になります。

 

理由⑤ メディア露出の蓄積

川越が全国的な観光地になれた理由——メディアへの継続的な露出も大きな要因です。

テレビの旅番組、雑誌の特集、インスタグラムの映えスポット——川越は継続的にメディアに取り上げられてきました。

特に——「着物で川越散策」というコンテンツが、インスタグラム時代に爆発的に広がりました。

着物レンタルショップが川越に集中——「川越で着物を着て写真を撮る」という体験が、若い女性を中心に人気になりました。

「インスタ映えする街」——このイメージが、SNS時代の川越観光を加速させました。

「メディアに取り上げられる→認知が広がる→観光客が来る→さらにメディアに取り上げられる」——このサイクルが、川越の観光地化を加速させてきました。

加須市のアニメ聖地化——これはSNS時代の「川越の着物戦略」に相当するものになれる可能性があります。

 

理由⑥ 行政・民間・市民の「三位一体」

川越の観光地化——行政だけでも、民間だけでも実現できませんでした。

行政の役割
街並みの保存条例を制定。歴史的建造物の保護に取り組んだ。観光インフラを整備した。

民間の役割
蔵造りの建物を活用した店舗開業。着物レンタルショップの集積。川越グルメの開発——民間事業者が「川越らしいビジネス」を次々と生み出しました。

市民の役割
「川越の街並みを守りたい」という市民の意識が、歴史的建造物の保存運動につながりました。市民が観光客をおもてなしする文化が根付いています。

この三位一体が——川越を「作られた観光地」ではなく「本物の観光地」にしました。

加須市が観光地化を目指すなら——行政、民間、市民の三位一体が不可欠です。

 

川越が「観光地になれた」タイミング

もう一つ重要な視点——川越が観光地化したタイミングです。

1980年代後半——川越市が「歴史的街並み保存」に本格的に取り組み始めました。

1999年——国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定。このお墨付きが、全国的な認知を高めました。

2000年代——観光客が急増。着物レンタルが普及し、若い世代にも人気に。

「タイミングよく、正しい投資をした」——これが川越の観光地化の本質です。

今から「川越のような街並み」を作ることはできません。でも——渡良瀬遊水地という自然資産、總願寺という歴史資産——加須市には「今から磨ける素材」があります。

 

加須市は「川越になれるか」

正直に言います。

加須市は「川越」にはなれません。 でも——「加須市にしかない観光地」にはなれます。

川越には蔵造りの街並みがある。加須市には渡良瀬遊水地がある。川越には時の鐘がある。加須市には總願寺・玉敷神社がある。川越には芋スイーツがある。加須市には加須うどんがある——。

「川越の真似をする」ではなく——「加須市にしかないもので勝負する」。

渡良瀬遊水地が見えるテラスレストラン。うどん巡りや北川辺米の食べ歩きスポット。總願寺を巡るアニメ聖地ルート——これらが揃ったとき、加須市は「加須市にしかない観光地」になれます。

 

おわりに

なぜ川越だけが埼玉で観光地になれたのか——。

「小江戸」という強烈なブランド。本物の歴史的建造物。東京からちょうどいい距離。食べ歩き文化の確立。メディア露出の蓄積。行政・民間・市民の三位一体——これらが複合的に重なった結果です。

川越の成功は——「偶然」ではありません。正しい戦略を、正しいタイミングで実行した結果です。

加須市も——今が「正しいタイミング」かもしれません。

カスミが撤退して、商業空洞化が進む今——「商業で勝負する」から「観光・文化で勝負する」への転換が求められています。

「川越になれなくていい。加須市にしかない観光地になればいい」——その第一歩を、今踏み出しましょう。

 

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おおさわ あつし

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肩書 一般社団法人日本外国人材振興機構 代表理事/JFRアカデミー(ネパール)校長
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