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渡辺 純平 ブログ

【令和の米騒動】 コメの先物取引の重要性について考える

2025/5/23

お米が高い。家計が苦しい。
これは、いま多くの人が感じている現実です。

少し前までは5kgで2,000円以下だったお米が、今や4,000円越えに。飲食店も値上げを余儀なくされています。

これは一時的な話ではなく、お米の「価格そのもの」が構造的に上がりはじめていると考えるのがよさそうです。

私はこれまで、石炭や天然ガス、電力といったコモディティ(商品)の先物取引の現場で、「市場」、「価格」、「制度」と真剣に向き合ってきました。
そして今、この経験をもとに、「日本の米価の不安定さ」に対してどんな備えが必要か、どんな解決策が現実的かを、考えていきたいと思います。


なぜ、こんなに急に上がっているのか?──背景には「供給の減少」と「需要の変化」

▷ 供給が減っている

猛暑と干ばつによる減収
 近年、猛暑や水不足による収穫量の減少が続いています。特に2023年は東北地方などで記録的な高温が続き、品質低下や作柄不良が広がりました。

生産者の高齢化と離農
 担い手の減少によって作付面積も減少傾向。農家数はこの10年で約30%減。作る人がいなければ、当然供給は減ります。

肥料・燃料コストの高騰
 コスト増により採算が取れなくなり、生産量を絞る農家が増えています。これは見えにくい「静かな供給減」です。

減反政策の歴史的影響
 減反政策の歴史的影響減反政策の歴史的影響1970年代から続いた減反政策(生産調整)により、日本の米生産は長く「抑制される方向」にありました。
 結果として、米作りのノウハウが地域から薄れた生産意欲のある農家も拡大しにくかった「増産できない構造」が温存されたという土壌ができてしまったのです。

減反政策は2018年に廃止されましたが、その後も価格に関しては制度・仕組みが十分に整っていなかったため、農家は価格変動リスクを負うだけになってしまいました。


▷ 一方で、需要はじわじわ増えている

インバウンドと外食の回復
 コロナ禍が明け、訪日外国人が急増。飲食・観光業の需要回復が、業務用米の需要を一気に押し上げました。

健康志向による米回帰
 パンやパスタから米に戻る動きが少しずつ広がっています。特に中高年層を中心に「やっぱり米が安心」という声も。

海外輸出の拡大
 和食ブームに乗って、日本産米の輸出量はこの10年で倍増以上。輸出量は全体から見ればまだ小さいですが、国内市場に与える影響は確実に増しています


でも、日本には“備える仕組み”がない

これだけ需要と供給が揺れ動いているのに、価格の変動に備える手段がほとんどない。
いま私たちが直面しているのは、価格に無防備な社会の“ほころび”です。


卸売の取引が“ブラックボックス”では、価格は見えてこない

現在、日本のお米の価格形成においてもう一つ大きな課題があります。
それが、卸取引の不透明さです。

農家と消費者の間に位置する卸業者の取引は、契約条件・価格・数量などが非公開で、極めてブラックボックス化しています。
市場全体として「いま、いくらで、どの程度売れているのか」が分からない──
この不透明さが、価格の乱高下や誤った需給判断につながりやすくなっているのです。
これでは、農家も、流通も、そして消費者も価格に対して正しい判断ができません。


私が現場で学んだ「備える手段」

私はこれまで、エネルギーや資源の分野でコモディティ先物取引の現場に長く携わってきました。石炭や天然ガス、電力などの価格が激しく動くなか、企業や市場が生き延びてきたのは、価格の変動に備える「仕組み」があるからです。

その一つが、先物市場です。

実は、今では先物取引が活発な他のコモディティも、歴史的には同じ経緯を辿っています。例えば、2016年の完全自由化後の電力取引も上記で挙げたような「不透明」な状況がありました。


先物市場は、価格と向き合う“ツール”

米の先物取引とは、卸価格における将来の価格をあらかじめ決めておく契約です。
先物市場には、3つの基本的な役割があります。

価格の発見機能:需給や市場心理が価格に反映され、客観的な“相場感”が形成される
プライスシグナル:将来の需給見通しが価格に織り込まれることで、生産や調達の判断材料になる
ヘッジ機能:あらかじめ価格を決めることで、変動リスクを回避・分散できる
※理論的な背景には市場経済の基本原則がありますが、ここでは詳細は割愛します。

それは農家にとっての「保険」、企業にとっての「経営安定化」、そして消費者にとっての「安定供給」にもつながります。
残念ながら、日本においては「先物取引」への理解が極めて低く、ネガティブなイメージも付きまといます。
しかし、先物取引はけっして投機だけの場ではなく、現物の価格変動のリスクと真剣に向き合うための、健全なインフラ、ツールです。


海外では当たり前、日本は「丸腰」

アメリカ、カナダ、オーストラリア。
主要な穀物輸出国では、先物市場があってこそ農業と市場が連動しています。価格変動は「読んで」「備える」ものという前提が当たり前に共有されています。

一方、日本では2021年に米先物市場が廃止。
未だに「価格は行政が守るもの」「先物は危ない」という空気が根強く残っています。


「価格は変わらない」という思い込み

日本ではこの30年ほど、物価があまり動かない時代が続いてきました。デフレが長く続き、「値段は安定していて当たり前」という感覚が根づいています。お米も例外ではなく、長年、国の制度で安定した価格が保たれてきました。

でも、これからも同じとは限りません。

気候も、経済も、世界の情勢も変わっています。これまで通りにいかない時代に入った今こそ、「価格が動くことを前提に、どう備えるか」を考えることが必要なのではないでしょうか。


まとめ─

私はこれまで、エネルギーや資源といったコモディティの世界で、日々動く価格と真剣に向き合ってきました。
その経験を通じて強く感じるのは、価格の変動そのものを止めることはできなくても、その波を受け止める“仕組み”を整えることはできるということです。

お米もまた、これから本格的に価格が動く時代に入ります。
それに対して、日本の社会や農業が無防備なままでいいのか
そう問う気持ちで、私は今、先物市場という仕組みをもう一度見直すべきだと考えています。


おわりに:見えない価格に翻弄されるのではなく、「見える価格」で備える社会へ


これからも、猛暑や災害、国際情勢の影響で、米の価格が不安定になる場面は増えるでしょう。
それでも、価格から目をそらさずに、見える形で向き合っていく社会を、私たちは選ぶことができます。

政府による供給支援は不可欠です。
しかし、それだけでは限界があります。民間や市場の力を活かした「価格変動への備え」も必要です。

その一つが、コメの先物市場です。

大阪堂島商品取引所ではすでに民間主導で取引が行われていますが、活用はまだ限定的。
制度整備や普及が進めば、農家も流通も、リスクを見える形で管理できるようになります。

お米を、暮らしを、守るために──
米先物市場の再構築は、その第一歩になるはずです。

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著者

渡辺 純平

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肩書 会社員(エネルギー系スタートアップ)
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