2026/8/3

「金利ある世界」が日本に戻ってきた。政策金利は約30年ぶりに1%となり、長期金利(新発10年物国債の流通利回り)も2%台後半の水準で推移する。安全資産として、個人向け国債に関心が高まっている一方、多額の国債残高を抱える政府の利払い費増加が懸念されている。金利上昇は国債や家計にどう影響を与えるのか、みずほ総合研究所の服部直樹チーフ日本経済エコノミストに聞いた。
■(上昇する長期金利)今年度末に3%程度か
――そもそも、長期金利と国債はどう関連しているのか。
長期金利とは、発行から10年後に償還される「10年物国債」の利回りのことだ。国債には1年以下の短期国債から、2年や5年の中期国債、10年を超える超長期国債まであるが、長期金利の代表的な指標として用いられるのが10年物国債だ。
長期金利は住宅ローンや定期預金の金利に影響を与え、「経済の基礎体温」とも呼ばれる。一般的に、長期金利が上がると国債の価格が下がり、長期金利が下がると国債の価格が上がる、逆の関係がある。市場で金利が上がると、新しく発行される国債は高い利子が付くため、既に発行された古い国債は魅力が薄れて価格が下がるためだ。
■物価高など要因
――長期金利が7月に一時2・9%と約30数年ぶりの水準まで上昇した。
長期金利が上昇している背景には、まず物価が上昇していることが挙げられる。物価高対策などの政策的な要因を除くと、日本の物価上昇率は2%を超えている。インフレの加速を抑えるため、日銀が政策金利を徐々に引き上げていることに伴い長期金利が上がっているのだ。
加えて、中東情勢の影響で原油価格が高止まりする中、食品やプラスチック製品への価格転嫁が進み、さらに物価が上がっていくことが予想されているため、長期金利の上昇は続くだろう。2026年度末にかけて、3%程度の水準になる可能性が高いと見ている。
――このほかの要因は。
国債の需給バランスの変化だ。これまでは日銀が金融緩和の目的で、大量の国債を購入していたが、足元では保有額を減らし始めている。大口の買い手が減ったことで、高い金利で発行しないと国債を買ってもらえない状況となっている。
また、将来の財政への懸念も金利上昇の一因になる。すでに多額の国債を発行している日本だが、今後も発行が続くと見られており、それが金利上昇への圧力となっている。
■(預金、国債)利回り高
■(住宅ローン)負担増に
――金利が上がってくると、どのような変化が起きるか。
家計への影響は「プラス」と「マイナス」に分かれる。プラス面は、定期預金や個人向け国債など、安全性の高い資産の利回りが上がることだ。そのため、多くの金融資産を持っている世帯などにとっては、金利収入が増える恩恵がある。
一方、住宅ローンの固定金利が上がることはマイナスだ。これから家を買おうとしている若い世代や子育て世帯にとっては、利払い負担が増えてしまうデメリットがある。
■(人気の「個人向け」)安全性が高い金融商品/資産運用の新たな選択肢
――「個人向け国債」の販売が好調とのニュースが最近増えてきた。
個人向け国債とは、国が発行している国債を、個人が買いやすいようにカスタマイズした金融商品【イラスト参照】だ。「変動10年」「固定5年」「固定3年」の3種類があり、世の中の金利に合わせて利回りが上がるのが「変動」で、今の金利水準が維持されるのが「固定」の商品となる。
現在人気を集めている理由は「金利の高さ」だ。足元では変動10年で1・8%、固定5年は1・95%、固定3年は1・56%と、少なくともここ10年、20年なかった水準になっており、資産の運用先として選ぶ人が増えている。
今後、長期金利が3%程度まで上がる可能性があることから、個人向け国債の人気は続くだろう。
――定期預金や、一般的な国債との違いは。
大きなメリットは、銀行の普通預金(0・4%)などと比べても、かなり高い金利が付くことだ。また、一般的な国債は、途中で売却すると市場価格によって損(元本割れ)をしてしまうことがあるが、個人向け国債は額面の金額で中途換金が可能であり、途中で売却しても基本的には損をしないという安心感がある。
ただしデメリットとして、購入後1年間は換金できないというルールがある。そのため、すぐに使う予定のないお金を預ける先として、定期預金と比較しながら検討することになる。
――個人向け国債に注目が集まっていることについての評価は。
国債を持つ主体が多様化するのは望ましいと考えている。これまでは、日銀が国債の半分ほどを保有していたが、個人や銀行、海外投資家など多様な主体が分散して持つようになることで、政府は「市場から見られている」という意識を持つ。こうした環境は政府への一定のけん制機能を果たすことにつながり、より市場を重視した財政運営が求められるようになるだろう。
■(利払い費増、財政の重し)野放図な支出拡大回避を
――長期金利が上がると、国債利払い費が膨張し、国家予算を圧迫してしまうのか。
金利が上がれば、国債を発行する政府の利払い費が増えるのは間違いないが、すぐに予算が圧迫されるような急激な変化が起きるわけではない。現在、政府が発行している国債は平均して9年半ほどの残存期間があるため、既存の国債が満期を迎え、高い金利の国債へ借り換えられるタイミングで、緩やかに利払い費の増加として表れてくることが予想される。ただ、足元で国の税収は増えているものの、その増加分を利払い費に使わなければならない点には注意が必要だ。税収が増えたからといって何でも財政支出できるわけではない。利払い費の増加は国の財政にとって一定の重しになる。
――「金利ある世界」が戻ってきた今、どのような財政政策が求められるか。
バランスの取れた財政運営をしていくことに尽きる。最も重要なのは「経済成長と財政のバランス」をいかに保つかだ。長期金利が上がる中でも、しっかりと経済成長していけば、利払い費の増加に対応できる。そういう意味では、単なるバラマキ的な財政はなるべく避けつつ、日本の供給力や競争力を高めるような、将来の経済成長につながる分野へしっかりと投資していくことが求められる。
――7月には「責任ある積極財政」を掲げる高市内閣の金融・財政政策に対する不安に市場が反応し、「骨太ショック」と呼ばれる金利上昇を招いた。
野放図に財政を拡大していくと市場に受け止められるのは当然良くない。政府は市場と対話し、健全な財政運営を図る中で、経済成長を志向していくというメッセージを発信していく必要があるだろう。
はっとり・なおき 神戸大学経済学部卒。2009年、みずほ総合研究所へ入社後、日本・米国のマクロ経済分析、金利上昇による日本経済への影響分析などを担当。12年、ニューヨーク事務所へ赴任。18年に帰国後、25年より現職。著書に『展望 金利のある世界』(金融財政事情研究会、共著)。なお、「みずほ総合研究所」はみずほ銀行内のシンクタンク。
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