中島 ゆうたろう ブログ

江東区千石データセンター、最短6月7日に建築確認申請 ―法の空白への駆け込みが始まる

2026/5/10

東京都江東区千石3丁目で進む大規模データセンター建設計画が、住民・行政・業界団体を巻き込む論争に発展している。東京新聞や集英社オンラインでも報道され、住民約1,500人が居住するマンション群の隣接地に、高さ約50mの巨大施設が建つ計画だ。

論点は多岐にわたるが、最も住民の懸念が集中しているのが非常用発電機と重油備蓄である。本稿では、この問題が「単なる住民反対運動」ではなく、現行法制度の空白を突く構造的問題であることを整理する。

「非常用発電機」と呼ぶには大きすぎる規模

千石データセンターの非常用発電機の仕様は、事業者公表資料によれば次のとおりだ。

  • ガスタービン発電機 12台、合計35MW(1台あたり約2.92MW)
  • 燃料:A重油 120万リットル(10万L×12タンクを敷地北側地下に埋設)
  • 煙突12本、最高高さ51.4m
  • 隣接マンションとの最短距離 3.5m

このスケールがどの程度のものか、比較で示す。

燃料120万リットルは、業界団体である日本データセンター協会(JDCC)のガイドラインが定義する「標準的なガソリンスタンド(50kL)」の約24軒分にあたる。同じガイドラインが「中規模クラス」とする500kLの2.4倍だ。

発電機1台2.92MWという規模は、病院や学校、オフィスビルに設置されている典型的な非常用発電機(数十kW〜数百kW級)の数十倍。それが12台並ぶ合計35MWは、典型的な非常用発電機の数百倍から千倍以上のオーダーになる。これはもはや「非常用」という言葉が想起させる規模ではなく、小規模発電所に近い。

加えてIT容量25MWは、約12,500世帯分の電力消費に相当する。江東区の全世帯数は約29.9万世帯(令和8年5月)なので、区内の約24世帯に1世帯分の電力を、たった1施設で消費する計算だ。

なぜ大気汚染防止法の規制対象外なのか

ここで多くの人が驚く事実がある。これだけの規模の発電設備が、大気汚染防止法の排出基準(NOx・SOx・ばいじん濃度規制)から事実上除外されている

根拠は、大気汚染防止法施行規則の附則(昭和62年11月6日 総理府令第53号)にある一文だ。要約すれば「ガスタービンやディーゼル機関のうち、専ら非常時に用いられるものについては、ばい煙の排出基準を当分の間、適用しない」というもの。

起点は1987年。本記事執筆の2026年5月時点で、39年が経過しているが「当分の間」のままである。

なぜこの除外規定が長く放置されても問題化してこなかったのか。それは、1987年当時に立法者が想定していた「非常用発電機」が、病院・学校・ホテル・百貨店・高層マンションといった建築基準法・消防法上の防災用途を念頭に置いていたからだ。それらは出力数十〜数百kW級で、停電時の数十分稼働や年数回の試運転にとどまる。年間排出量はほぼ無視できる。

ところが千石データセンターは違う。事業継続のために存在し、月1回計画的に試運転され、停電時には最大48時間連続稼働する設計だ。1987年の立法者がこの規模・用途・稼働頻度を「非常用」として想定していたとは考えにくい。

平成2年の建設省通達では、停電事故防止のために普段から準備される予備電源も「非常用」に含むとされており、データセンターの発電機もこの解釈の傘下に入ってしまう。「非常用」という名前を借りた、別カテゴリーの施設が、39年前の例外規定の穴をすり抜けている格好だ。

東京都環境確保条例の上乗せ基準も、同じ穴をそのまま継承している。事業者は法令違反をしているわけではない。制度そのものが、こうした施設を想定していないのである。

国も都も間に合わない構造

中長期的には、本来これは国が大気汚染防止法を改正するか、東京都が条例の上乗せ基準を整備して対応すべき問題だ。実際、東京都は2026年3月に「まちと調和したデータセンターに向けたガイドライン」を、業界団体JDCCも同年5月にガイドラインを公表しており、問題意識は業界・行政・住民の間で共有されつつある

しかし、国の政省令改正には数年、都の条例改正にも1年以上かかるのが通常だ。広範な関係者を巻き込む規制改正は、丁寧な議論を経る必要があるためで、これ自体は怠慢ではない。

問題は、千石データセンターがこの「議論が成熟する前のタイミング」に駆け込もうとしている点にある。事業者の公表スケジュールでは、2026年6月7日に建築確認申請、7月着工が予定されている。確認済証が交付されてしまえば、後から新たな規制を本計画に適用することは事実上不可能だ。

つまり、目の前の千石計画について実効性ある対応ができるのは、機動的に独自要綱を整備しうる基礎自治体・江東区しかない、というのが構造的な事実だ。報告仕様の標準化、第三者検証、稼働後モニタリングを盛り込んだ独自制度を、6月の確認申請前に整備できるかどうかが問われている。

「規制の穴」が公害を生む歴史を繰り返さないために

四日市ぜんそく、川崎公害、水俣病――日本の公害史は「規制の穴」と「住民の懸念に向き合わない構造」の放置から生まれてきた。建設当時は合法だった施設が、後から振り返ると公害だった、というパターンの繰り返しである。

千石データセンターには、そのパターンの構成要素が揃ってしまっている。発電所規模でばい煙排出基準の対象外、住宅地から3.5m、周辺に保育園・インターナショナルスクール・公園・高齢者施設、自己評価以外に検証手段がない構造、稼働後モニタリングの不在。

これは江東区民に限らず、全国でデータセンター建設が住宅地で進む中、いずれ各地で問われる論点でもある。1987年に書かれた「当分の間」を、39年経った今、誰がどう埋めるのか――その最初のテストケースが、千石で進行している。

▼詳細はブログにまとめています▼
江東区千石データセンター ―39年放置された「当分の間」が、新しい公害を生む前に

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選挙 江東区議会議員選挙 (2023/04/23) [当選] 3,125.076
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