2024/9/16
こんにちは。兵庫県川西市議会議員の長田たくや(ながたく)です。
今日は医療におけるスティグマ(stigma)の話をします。
スティグマとはギリシャ語に由来し、特定の属性に否定的価値を付与すること、またはその結果として社会的に不当な不利益を受けることを指します。日本語では「差別」「偏見」「負の烙印」などと訳されます。※熊とは関係ありません。
■ 糖尿病のスティグマ?
医療でのスティグマとは、患者に対する差別や偏見を指します。これを払拭する手段の一つとして病名変更が行われてきました。
直近では2023年9月22日、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は合同で会見を行い、糖尿病を「ダイアベティス」と呼称する提案をしました。みなさんはどう感じますか?
参照:ダイアベティス」か「高血糖症」か 糖尿病の言い換えを考える
汚いイメージの”尿”を変えたいそうです。う~ん、ほな泌尿器科全体があかんくないか?1型糖尿病(遺伝など)と2型(生活習慣が起因)を分ける意味で、1型をダイアベティスにするのはアリかなと思いますが。
医療人の中では、糖尿病を「DM」と略すのが一般的です。英名は「Diabetes Mellitus(ダイアビーティス メリタス)」です。このスティグマが通れば、「この患者はダイアベやねん。」「ダイアベの薬飲んでるわ」とか、そんな会話になるのかね。
その他、医療でのスティグマ解消のため名称が変更された例を紹介します。
1.ダウン症(蒙古症→ダウン症):1980年代
経緯:1866年、ジョン・ラングドン・ダウンが書いた研究論文では、顔貌から"mongolian”と表現し“Mongolism(蒙古症)”という呼称が普及。1960年代にモンゴル政府をはじめ国際的な批判を受け、発見者の名から「ダウン症」に変更。
ダウン氏の論文:Observations on an ethnic classification of idiots
補足:通常2本の21番染色体が3本となる遺伝学的状態。「トリソミー21」とも。ダウン氏がイギリス人だったので、論文のタイトルからしてアジア人への偏見が普通の時代だったと想像できます。ちなみに青いお尻の「蒙古斑」もMongolianに多いとされ、その名前が付いたそうですね。
2. ハンセン病(らい病→ハンセン病):1990年代
経緯:らい病という言葉には重いスティグマがあり、発見者であるノルウェーの医師アルマウエルス・ハンセンの名へ変更。
補足:「癩(らい)」とは、皮膚にあらわれる重めの症状を指す言葉であり、これ自体に侮蔑の意味はなく、人間社会が差別的な価値観を付与してしまった例なのです。1960年代ごろより呼び方を変える提言がなされていましたが、官民ともに正式名称となったのは、1996年「らい予防法」の廃止ともに決まりました。
3. 統合失調症(早発性痴呆、精神分裂病→統合失調症)2000年代
経緯: 「精神分裂病」が患者に対してネガティブなイメージや差別を生むとして、2002年に「統合失調症」に変更。
補足:英語ではSchizophrenia(シゾフレニア)と書き、医療業界では「シゾ」と略します。よく責任能力の欠如などで不問とされるケースが報道され、よりネガティブなイメージを生み出すことになるでしょう。
結局、ネット上では”統失”と略され、隠語として”糖質”とか”トーシツ”とか書かれます。結局、このような事案が発生した時点で、どんな言葉に置き換えても、いずれネガティブな言葉の対象になってしまうのだと思われます。
4. 知的障害(精神薄弱→知的障害)1990年代
経緯:「精神薄弱」は、ドイツ語Schwachsinn、英語Feeble-Mindednessの直訳。障害者として分類すらされず、俗には「知恵遅れ」とも。1998年、公式に「知的障害」となる。
補足:ネット上では”池沼”や”智将”とか暗喩。どれだけ名称を変えても、不条理が存在すると揶揄される対象となります。アンタッチャブルな存在ほど、それを触れるための工夫がうまれ、あらたに定着すると考えられます。
5. 認知症(痴呆症→認知症)2000年代
経緯:痴呆症の偏見をなくすため、2004年に「認知症」へ変更。英語では”dementia(ディメンシア)”と呼びます。
補足:実は「痴呆」自体が実はスティグマを減らすために作られた言葉でした。
1909年、東京帝国大学教授の呉 秀三氏は、それまで精神疾患の名称に使用されスティグマを強める「癲」や「狂」の字を避け、ドイツ語Demenzの訳語として「痴呆」を採用。現在の統合失調症は「早発性痴呆」、65歳以降に生じる認知症を「老耄(ろうもう)性痴呆」、神経梅毒を「麻痺性痴呆」と命名したのです。
参照:相模原市認知症医療センターブログより
番外.脂質異常症(高脂血症→脂質異常症)2000年代
経緯:スティグマ解消ではなく、病態の正確化です。HDLコレステロールは高い方が良いので、2007年に動脈硬化学会が高脂血症から「脂質異常症」への変更提案。
番外.生活習慣病(成人病→生活習慣病)1990年代
経緯:年齢よりも生活習慣が深く関わるため、「生活習慣病」へと変更。こちらにも色々指摘があって、今後名称が変わるかも…(非感染性疾患とか)。
以上、医療業界におけるスティグマ解消例をあげていきました。名称変更だけがスティグマを解消する方法ではなく、正しい情報を提供する事、理解することが本筋だとは思いますが、第一印象・イメージというのも大切なことは理解できます。
■ 障害という言葉の意味
最近では、障害の「害」が良くないのか、「障碍」や「障がい」などという文字が使われたり、「チャレンジド」なども提唱されているそうです。チャレンジド支援法とか、チャレンジド雇用枠とか…どうなるの^^:。
障害という言葉にも程度がありますよね。例えば脳障害や神経障害があり、どうにも動けないようになってしまった人が、「チャレンジド」なんて違和感しかないのです。
当時の状況で、どれだけ印象を変えようと名前を変えても、時代が変われば扱いは同じものに帰結してくるように思えます。
鎌倉時代では「老狂」と呼ばれ、江戸時代には和らげる表現として「老耄(ろうもう)」が生まれたそうです。認知症なども、その言葉自体がまた負のイメージを蓄積していくのは、一定は仕方ない部分もあると思います。
人間の忌避という本能的な動きは、誤情報・情報不足がそれを加速し、増長させるものと思われます。また、その情報は、正誤問わずに意図して消されたり、捻じ曲げられたりします。そのため、人間は同じ過ちを繰り返すんじゃないかと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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