2025/12/23
兵庫県 川西市議会議員(薬剤師) #長田たくや です。
みなさん「オレキシン」って聞いたことあります?
「睡眠と覚醒」に関与する物質として、なんと日本人が発見したのです!!

睡眠と覚醒を根本から調整する仕組みが明らかになったことで、
オレキシンを標的とした新しい睡眠薬「DORA」が次々と登場しています。
■ オレキシン
筑波大学の柳沢正史らが米国で オレキシン を発見しました。
物質が結合する受容体の構造から逆算して物質を探索する、いわゆる 逆薬理学 という手法により同定されたそうです。
参照:オレキシンの生理機能の解明
当初は摂食中枢に多く存在し、マウスに投与すると食欲を増したため、ギリシャ語で食欲を意味する「オレキシス」からオレキシンと名付けました。
その後、オレキシンをつくらないマウスを使って実験中に、途中でバタリと眠る個体が現れ、そこから 睡眠に関わっている ことを発見しました。

オレキシンが多いと「覚醒」へ、少ないと「睡眠」へ傾きます。
つまり!
オレキシンを抑えることができれば 不眠症の治療薬 になるのでは?
そうして開発が進みました。
■ 2つの受容体
オレキシン受容体には OXR1 と OXR2 の2種類があります。
このうち、睡眠・覚醒の調整には OXR2 の方がより深く関与しています。

これら受容体にフタをしてやれば良いのですが、2つの受容体の構造が類似しており、選択的に阻害することが非常に困難でした。
一方、動物試験ではOXR2だけを選択的に阻害したら効果が弱まることがわかり、選択性を持つ必要性も小さかったのです。
そのため、現在使われている医薬品は ”両方に作用するデュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)” と呼ばれています。
厳密には「デュアルにしかできなかった」というのが本音でしょう。
OXR1は情動や入眠に関係しているかも…と言われているようです。
■ 医薬品の登場
大脳皮質を無理やり眠らせるような従来の「ベンゾジアゼピン系」とは異なり、オレキシン系睡眠薬は「依存性が少ない」とされてます。
つまり、長期的な服用がしやすいということです。現在処方可能な医薬品を紹介します。
2014年:ベルソムラ®(スボレキサント)
世界初のDORA。不眠症に対して承認。
従来の睡眠薬と異なり、連日服用して効果が安定するタイプ。
MSD(アメリカ)が開発。

2020年:デェビゴ®(レンボレキサント)
2番目のDORA。効果に関しては、ベルソムラとの明確な差異はありません。
やっと日本企業(エーザイ)が開発。

2024年:クービピック®(ダリドレキサント)
3番目のDORA。私もまだ見たことがない薬です。
開発元はスイスのベンチャー企業で、日本のバイオベンチャー(ネクセラファーマ社)に譲渡され、
最終的に塩野義製薬が販売を担っています。

2024年:ボルズィ®(ボルノレキサント)
4番目のDORA。英語表記は Vorzzz。
Vornorexant(ボルノレキサント)+ ZZZ(眠り)というゴロ合わせが公的資料にも書かれています(笑)。
こちらは大正製薬が創薬から開発・販売まで一貫して手掛けた純国産DORAです。
他がグローバル連携なのに、ここだけ国産開発で頑張っている感があり、個人的にも応援したくなります。

それぞれに特徴があり、併用禁忌薬などの違いもあるようですが、この手の薬で大切なのは正直言って”相性”です。
どれがちょうど良いかは、服用している本人にしかわからない面があるからです。
■ 作動薬の開発
オレキシンを阻害すれば「睡眠薬」になれます。
一方、作動薬だったらどうなるでしょうか?
ナルコレプシーという病気があります。
日中の過度の眠気や、通常起きている時間帯に制御できないほどの眠気が繰り返し起こります。
原因として オレキシン不足 が指摘されており、「オレキシン作動薬」が根本治療に近いとして開発が進んでいます。

作動薬では、OXR2に限定するような”選択制”が求められています。
第3相試験もクリアしたそうですので、じきに承認されることになるでしょう。
参照:武田薬品工業(開発報告)
■ ナルコレプシーの疫学
世界平均の有病率は、0.05%程度。一方、日本人の有病率は0.16%(600人に1人)で世界で最も多いと言います。
ただし、不眠症に比べたら多くない疾患なので、睡眠薬と違い開発スピードがどうしてもゆっくりになりますね。
現在の標準治療薬は モディオダール®(モダフィニル)。
依存性があるとされ、より強い薬として リタリン®(メチルフェニデート) もありますが、
こちらも副作用や依存性の問題があります。
参照:ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン
そのため、オレキシン作動薬は治療の大きな福音となる可能性があります。
■ 悪夢
オレキシン製剤で共通しているのは、食事の影響です。
空腹時に服用しないと吸収しづらいため、夜食NGです。
また、ベルソムラを初めとして、多くの人が服用していますが、
服薬指導していてたまに聞くのが”悪夢”という副作用です。

添付文書にも記載されており、珍しいものではないのですが、これ不思議ですよね。
レム睡眠の増加など指摘されていますが、「なぜ悪夢なのか」については詳細が不明です。
私は夢のなかで夢だと気づいたとき、「ほんなら、なんでもできるやんけ!」とテンションが上がったら、その勢いで起きてしまいました。
もう1回見たいと思って二度寝した記憶ありますね(笑)
今回取り上げたのは、私自身、DORAがデエビゴまでだと思っていたため、新薬の多さに驚いたからです(笑)。
依存性や転倒・ふらつきといった課題があった従来の睡眠薬とは異なり、より自然な睡眠を誘う薬剤として市場規模も拡大しています。
そもそも睡眠障害は、障害たるものを取り除くことが大切なのは言うまでもありませんが。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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