2025/8/5
こんにちは。兵庫県川西市議会議員の長田たくや(ながたく)です。
喘息は空気が汚れたから始まった病気ではなく、昔からある病気で野生動物でも起こります。古代ギリシャ文献には、ヒポクラテスが「呼吸困難・息切れ」という意味で「アズマ」と記録しました。そんな喘息には、濃いホットコーヒーが良いと言うのです。その謎についてのお話しです。
【お話しの流れ】
・コーヒーと喘息
・カフェインの作用機序
・医薬品への活用
■ 喘息にコーヒーが効くという論文
1864年、Henry Hyde Salter氏が、『On Asthma: Its Pathology and Treatment』の中で濃いコーヒー(strong coffee)が喘息発作を緩和すると記述しています。ただ、食後ではなく空腹時に飲むのが良いと書かれていました。
参照:On asthma: its pathology and treatment(Medicine in the Americas, 1610-1920)
About five o'clock I had two breakfast-cups of strong coffee. The hard breathing disappeared rapidly and completely.on an empty stomach, I still deem a most valuable remedy.
空腹時に濃いコーヒーというのは、少し胃に負担がかかりそうですが…。
■ なぜ効くのか
答えは想像できるかもしれませんが、正体は「カフェイン」です。これが気管支を広げる役割を担っています。
①人の肺機能は自律神経(交感神経と副交感神経)に支配されています。興奮する時には交感神経が活発になります。狩りなどでは走ったりするわけですから、気道を広げてより多くの空気を取り込まねばなりません。
②交感神経から「ノルアドレナリン」という神経伝達物質が出て、それが気管支に届くと「cAMP」という物質をつくり、最終的に気管支が広がります。
③ただし、cAMPが増えすぎると体がおかしくなるので、調整機能として「ホスホジエステラーゼ」という分解酵素がcAMPを分解してくれる役割を担っています。

■ カフェインの働き
カフェインはいくつかある働きのうち、ホスホジエステラーゼの機能を邪魔(阻害)する作用があります。
④カフェインがホスホジエステラーゼを阻害することによって、cAMPの濃度が高まり、気管支拡張の作用が強化されます。

その他に「アデノシン受容体を阻害する」ことも知られています。
➡ 脳ではアデノシンが眠りを誘うので、カフェインがそれを阻害することで覚醒作用が生じます。
➡ 腎臓では尿の再吸収を抑制し、尿量が増える利尿作用をもたらします。

コーヒーを飲むとトイレに行きたくなるのはこのためですね。
■ 喘息の薬に使える?
カフェイン自体は喘息の薬には使われていません。ただし、少し構造を変えた「テオフィリン」が臨床では今でも使われています。まず化学構造をご覧ください。

カフェインから「-CH3(メチル基)」を1つなくしただけ。たったこの違いだけで、えらく性質が変わるのです。
1⃣ テオフィリンは、カフェインよりもアデノシン受容体への作用が小さいため、覚醒作用や利尿作用が弱い。
2⃣ -CH3(メチル基)の数が多いと脂溶性が上がり、脳へ移行がしやすくなります。テオフィリンは、カフェインよりは脳内移行が少ないため、中枢性の効果も軽減できます。
3⃣ -CH3(メチル基)の数が多いと肝臓で分解を受けやすくなります。そのため、テオフィリンは、カフェインに比べると体内に長くとどまる ことができるのです。
■ ホスホジエステラーゼ阻害薬
喘息に使われるホスホジエステラーゼ阻害薬は、テオフィリン製剤が主役です。ただし、効果を発揮する濃度範囲が狭く、副作用も強く出るおそれがあり、使うのが難しい薬でもあります。
もう1種類、ホスホジエステラーゼ阻害作用を喘息に利用した薬剤が「イブジラスト(ケタス®)」です。構造式もなんとなく似ていますね。こちらは抗アレルギー薬としても知られており、かなりマイルドな効果の薬です。ホスホジエステラーゼ“4”に強く作用すると言われており、海外では“4”を狙った医薬品(ロフルミラスト)が販売されています。
おまけですが、「シルデナフィル(バイアグラ®)」というお薬です。これもホスホジエステラーゼ阻害薬で、狭心症を念頭に開発されていた医薬品でした。しかし、臨床試験中に勃起促進と言う”予期しない形”で報告されました。そこから、ホスホジエステラーゼ“5”を阻害することによって、陰茎海綿体の平滑筋弛緩作用が確認されたため、「ED治療薬」に転向したという経緯があります。おもしろいですね。

■ カフェイン量の違い
お茶でもいろいろあり、カフェインを摂りたいときには「玉露」が良いとされます。逆に寝る前に飲むなら「玄米茶」が適しています。

■ テオブロミン
先の成分表に、ココアはカフェイン含有量が少なく「テオブロミン」が多いとされています。テオブロミンとは、カカオに多く含まれており、ギリシア語で神の(theo)食べ物(broma)という意味を持つカカオの学名Theobromaに由来します。
だから犬にチョコレートは良くないと聞いたことありませんか?人間が食べる量で中毒域に達することはありませんが、犬にとってはテオブロミンがあまり良くないとされてます。
テオブロミンの構造は、カフェインから1つのメチル基を抜いただけです。カフェインの約84%が体内でパラキサンチンに代謝されます。

さて、84%代謝されるということで、カフェインのほとんどはパラキサンチンに体内で分解されてしまうのです。
■ 流産とカフェインの関係
代謝物であるパラキサンチン濃度を測定して比べたところ、自然流産した妊婦はパラキサンチン濃度が高いことがわかりました。ただし、これが原因とは結論付けられてはいません。
参照:母親の血清パラキサンチン(カフェインの代謝産物)と自然流産のリスク(MEJMより)
妊娠中の女性では、カフェインの半減期(半分に分解される時間)が2倍以上の6~16時間に延長し、出産後4~15週で通常レベルの2~8時間に戻るといわれています。カップ2杯分ぐらいであれば影響がないともいわれますが、避けられるなら避けたほうが良さそうです。
脱線もしましたが、カフェインという身近な物質と関連した医薬品について取り上げてみました。「へぇ~そうなんやぁ」と思ってくれたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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