2025/3/13
こんにちは。兵庫県川西市議会議員の長田たくや(ながたく)です。
今日はアメリカにて蔓延しているドラッグ「フェンタニル」についてお話しします。
最近では、日本にも入ってきているという話も耳にします(リンク)。
そもそもフェンタニルは、医療用”麻薬”として、がん患者さんの痛み止めに使用されています。混乱や偏見を防ぐためにも基本的な解説をしてきたいと思います。
■ はじまりはケシの花
まず「麻薬」について説明します。
ケシ(Opium poppy:オピウム・ポピー)から取れる成分は”アヘンアルカロイド”と呼ばれます。園芸用のポピーとは異なる品種ですので、通常は入手できません。アヘンという言葉は、opiumのアラビア語”アフユーンafyūn”から、中国経由で”アヘン”という音になったそうです。
ケシ坊主(写真)に傷をつけると白い液が出てきます。この液中には、窒素を含む塩基性(アルカリ性)の物質「アルカロイド」が含まれています。このアヘンアルカロイドから抽出した化学成分こそ、ご存じの「モルヒネ」です。それをパワーアップさせたのが、あの「ヘロイン」です。
化学構造式をみたらよくわかりますね。ちなみに、私の母校である京都薬科大学の校章はケシ坊主がモチーフです。

モルヒネはopiumから得られた成分なので、オピオイド(opioid)と呼ばれています。
痛みを鎮めたり、麻痺させる作用から医薬品として用いられています。これがいわゆる「(医療用)麻薬」=「オピオイド系鎮痛薬」です。
■ モルヒネ
鎮痛薬は、大きく2つに分類できます。
・オピオイド系(モルヒネなど)
・非オピオイド系(NSAIDs、ロキソニン®など)
オピオイド系と非オピオイド系の薬剤には大きな違いがあります。
オピオイド系鎮痛薬の特徴は次のとおりです。
・中枢(脳・脊髄)に作用
・天井効果※がない➡これが大切
※ロキソニン®などの非オピオイド系鎮痛薬では、服用量を増やしても必ず効果が頭打ちをします。これを”天井効果”と呼びます。
一方、オピオイド系は、用量を増せば増すほど効果が増強していきます。つまり天井効果がありません。強い痛みを制御するには、なくてはならないツールです。
一方、デメリットもあります。
・依存性がある(中枢に作用するため)
・最悪は呼吸機能の停止
次の図のように、用量依存的に危険度(リスク)が上がっていくのです。

図の中央あたりの「1:鎮痛」に注目してください。
グラフ左から用量を順に上げていくことで、鎮痛効果が発現することを示しています。しかし、便秘、嘔気・嘔吐を通過していますね。つまり、痛みを取るためには、副作用として”便秘”と”嘔気・嘔吐”を避けることができないのです。
なお”嘔気・嘔吐”については、2週間程度乗り切れば体が慣れてきます。一方、”便秘”とは長い付き合いになるのです。
■ フェンタニルの正体
フェンタニルは1960年、ベルギーのヤンセン研究所で開発されました。
モルヒネとは構造が異なり、アルカロイドではない合成されたオピオイドです。

ポール・ヤンセン博士は有機化学者で、1958年にハロペリドールという抗精神薬を生み出したことで有名です。ヤンセン氏は、中枢神経に作用する構造として「フェニルピペリジン」や「ピペリジン誘導体」に着目しており、ハロペリドールの開発の2年後に、フェンタニルを合成しました(構造もよく似ていますね)。
【日本は遅れて導入】
1960年からフェンタニルの注射剤が作られ、1980年代に「がん性疼痛のパッチ剤(貼り薬)」が発売されました。
一方、日本で初めてフェンタニルが登場したのは2000年代になってからです。貼付剤「デュロテップ®パッチ」がアメリカから20年遅れで発売されました。その後、注射剤や舌下錠が発売されています。
■ オピオイド受容体
モルヒネやフェンタニルは、脳内の「オピオイド受容体」に作用します。

フェンタニルは、モルヒネの100〜200倍の鎮痛効果があると言われます(実臨床では30倍程度で使用)。
オピオイド受容体を刺激すると、以下の3つの経路で痛みを抑制します。
・痛みが伝わる神経を抑える
・脳が痛いと感じることを抑える
・脳から神経末端に、「痛くないよ!」という圧をかける
これが「脳内麻薬」と呼ばれる理由です。
エンドルフィンやエンケファリンといった脳内物質も、同じ受容体に作用します。また、オピオイド受容体を刺激すると、ドーパミンの分泌が促進され多幸感が生じるとも言われています。

■ なぜフェンタニルが危険なのか?
【がん患者等、痛みが強い場合】
脳内でドーパミン分泌が低下している状態にあります。
医療用オピオイドを投与することで、正常な状態に近づけることができます。これが心理的な痛みの軽減になっているとされています。心がつらい時、不安がある時には体が痛みを感じやすくなります。これは、脳内のドーパミン分泌が低下しているからだと言われています。

【痛みがない人の場合】
ドーパミン分泌が正常な方が、フェンタニルを使用するとどうなるでしょうか。
オピオイドへの刺激によってドーパミンが過剰に分泌され、多幸感・恍惚感が”異常”に高まるのです。ドーパミンは、単純に”幸せ”の物質というよりも、”幸せを求める物質”とも言われています。これが「依存症」のきっかけになります。
・身体的依存(離脱症状)
・精神的依存(快感への渇望)
依存が進むと、「麻薬状態」が通常の状態と脳が誤認します。つまり通常のドーパミン分泌量では不足してしまうのです。
その際、麻薬を無理やりに一気にやめてしまうと、麻薬によって抑えこまれていた”ノルアドレナリン”が爆発するように活性化してしまい、不眠、発汗、動悸、不安などを引き起こします。これが「離脱症状」のメカニズムです。

■ 飲み薬がない理由
フェンタニルは脂溶性で吸収が良いものの、肝臓で速やかに分解されるため、飲み薬では効果が減弱します(生体利用率10〜30%程度)。そのため、注射以外に次のような投与方法となっています。
貼付剤:皮膚から吸収
舌下錠:舌下の静脈を通して吸収
どちらも肝臓を通過することなく、全身に薬剤を巡らせることができるためです。
映画とかで、粉にしたものを鼻から吸うシーンがありますよね。あれは経口投与による肝臓の通過を回避するのが目的なのです。
■ 日本にも影が迫る
1898年、バイエル社(独)が『モルヒネに替わる依存のない万能薬』として売り出したのが「ヘロイン」です。結局は世界的に中毒者を生み、日本でも1950年代に4万人超の中毒者が出ました。麻薬取締法の施行で事なきを得たのです。
同じ轍を踏むかのように、フェンタニルが現在アメリカで最大級の社会問題となっており、死亡者も急増しています。ケント・ギルバート氏とお話しした際も、「フェンタニルの蔓延が、今のアメリカで最も深刻な問題となっている」と語っておられました(ニュースリンク)。
日本でもすでに”ドラッグ”としてのフェンタニルの影が近づいています。ですが、医療用のフェンタニル自体は使用されている方も多く、有用な薬剤でもあります。そのため、偏見や誤解を抱かないようにしましょう。
正しい知識をもとに、自分自身や大切な人たちを守る。
そのためにこの記事を書きました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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