金井 たかし ブログ

証拠に基づく政策立案  EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)

2021/8/15

証拠に基づく政策立案 EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)

自治体行政の見える化・透明化(クリア化)のために必要なこと

地方議会においてEBPM(証拠に基づく政策立案[決定])の考え方が必要

地方議会は二元代表制(首長と議会議員をともに住民が直接選挙で選ぶという制度)の一翼を担うものであり、自治体行政に対する監視機能を果たしていかなければならないものです。そのためには、議会において、行政による政策に関してデータやエビデンス(証拠)に基づいた建設的な議論を行うことが求められています。

その際には、証拠に基づく政策立案[決定]=EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)の考え方が極めて重要であるとされています。しかし、現在、自治体行政に対する監視機能を果たすものとして、行政と対峙すべき地方議会において、EBPM(証拠に基づく政策立案[決定])の考え方に基づく議論をしているかというと、それとは程遠い状況があると言われています。

地方議会においてEBPM(証拠に基づく政策立案[決定])を進めていくべきですが、そもそも、このEBPMの意義・定義につき、厳密な意義・定義が存在していません。明確な意義・定義が十分に定まっていないまま地方議会においてEBPMを取り入れることが検討され、進められているために、地方自治体の現場職員の間では混乱が生じていると言われています。

そこで、EBPM(証拠に基づく政策立案[決定])の意義・定義を検討してみることにします。政府の資料、文献、ネットでの記事などで、この用語の意義・定義の説明がされているものをいくつか取り出し、意義・定義を法律家の視点で整理してみました。

EBPM(証拠に基づく政策立案[決定])の様々な意義・定義

まず、「消極的定義」として整理されるものがあります。これは、「〇〇〇ではないもの」として説明される場合で、「エピソード・ベースド・ポリシー・メイキングという色彩が濃厚な政策立案(現状の多くの政策立案)ではない政策立案」というものです。今までの多くは、ある事柄について、そのことを具体的に示す、ちょっとした出来事であるエピソードに頼り政策立案がなされてきていることから、この意義・定義は、この現状の政策立案の方法を変えていくべき、という方向性を示しているにすぎず、その限りでの意味があるものにすぎません。

次に、実質的な内容として、EBPM(証拠に基づく政策立案[決定])の積極的な意味の定義(積極的定義)を考えてみましょう。法律学では、用語の定義をする際に、議論が混乱しないように、狭義・広義などのように、用語の意味の広さを考えて、定義をすることが一般です。このような視点からすると、EBPMは、狭義と広義の定義をすることができると思われます。

狭義の意義・定義として代表的なものは、以下のものです。
【内閣官房行政改革推進本部事務局による説明での定義】
証拠に基づく政策立案(EBPM)とは、(1)政策目的を明確化させ、(2)その目的のため本当に効果が上がる行政手段は何かなど、「政策の基本的な枠組み」を証拠に基ついて明確にするための取組
(内閣官房行政改革推進本部事務局「EBPMの推進」[2018年3月6日])
https://www.meti.go.jp/shingikai/others/seisaku_hyoka/pdf/029_05_00.pdf )

この意義・定義は、政策立案をするにあたり、証拠に基づくことを要請するものということができます。

次に広義の意義・定義として説明がされているものは、以下のものです。
【神奈川県政策研究センターによる定義】
「EBPM とは、政策運営において、政策課題の発見から、政策立案と実施、成果の検証までのつながりを、因果関係の明確化やデータによる検証等を行うことによって、根拠をより強く意識するための仕掛け」(「『根拠(evidence) 』に基づき政策を『運営(manage) 』すること」)
(「根拠に基づく政策運営(Evidence-based Policy Making)―EBPMの基本的な考え方と自治体の今後の対応―」かながわ政策研究ジャーナル 第13号[2019年3月]18頁https://www.pref.kanagawa.jp/docs/r5k/cnt/f7282/p20190304.html )

この意義・定義は、EBPM(証拠に基づく政策立案[決定])の内容を二つに分けつつ、広く捉えているものと言えます。すなわち、「政策課題の発見と政策立案」の部分と「政策の実施と成果の検証」の部分の二つを含むものと言えます。狭義のEBPMは、前者の政策課題の発見と政策立案の部分について証拠に基づくことを要請するものであるのに対して、広義の定義は、その後、その立案されて実施された政策に基づき、成果(アウトカム)が出ているか、という成果の検証までを対象としているものとなります。

このようにEBPM(証拠に基づく政策立案[決定])の内容・意義・定義を検討すると、政策立案レベルの問題として捉えるか、また、その後の政策実施と成果の検証レベルの問題まで含めるか、ということで整理することができると思われます。

EBPM(証拠に基づく政策立案[決定])における必要な証拠のレベル

この前の部分で記載したようにEBPMの定義をとらえたとして、次に、エビデンス(証拠)として、どのようなレベルのエビデンス(証拠)の収集が求められるかの課題があります。従前の政策立案過程と比較してより厳密な科学的手法を用いて、「政策課題の発見と政策立案」の部分と「政策の実施と成果の検証」の部分、すなわち、立案と検証の取組の両方それぞれにおいて因果関係が明らかになるようなエビデンス(証拠)が求められているものと考えられます。この場合のエビデンス(証拠)のレベルとしては、内閣府の「平成30年度 内閣府本府EBPM取組方針」(平成30年4月)では、以下の内容が示されています。

エビデンスの質のレベルに係る目安
レベル1   ランダム化比較実験(RCT)
レベル2a  差の差分析、傾向スコアマッチング、操作変数法等
レベル2b  重回帰分析、コーホート分析
レベル3   比較検証、記述的な研究調査
レベル4   専門家等の意見の参照
(注:上に行くほど質が高い)

EBPMにおけるエビデンス(証拠)の質のレベルを考慮すると、狭義のEBPMにおいて、政策立案の際に、ランダム化比較試験(RCT)などの科学的な妥当性を有した高度な統計手法に基づいて測定された政策効果のエビデンス(証拠)を重視する立場があります。そのようなEBPMは、最も狭い意味でのEBPM(最狭義のEBPM)ということができると思われます。

以上をまとめると以下の通りとなります。
最狭義の定義のEBPM政策立案において科学的な妥当性を有した高度な統計手法により測定された政策効果のエビデンスを要求するEBPM
狭義の定義のEBPM政策課題の発見と政策立案の部分について証拠に基づくことを要請するEBPM
広義の定義のEBPM:「政策課題の発見と政策立案」の部分と「政策の実施と成果の検証」の部分、すなわち、立案と検証の取組の両方のそれぞれにおいて因果関係が明らかになるようなエビデンス(証拠)が求められるEBPM

これらの整理に基づいて、どの意義・定義のEBPMであるかを明確にしながら、EBPMの議論をしていくことが、今後の地方自治体におけるEBPMの議論の混乱を防ぐことになるものと考えられます。

 

自治体スクールコンプライアンス研究所 (東京都江戸川区)
http://www.jsc-i.jp   代表 弁護士 金井高志(金井たかし)
(江戸川区在住 弁護士 武蔵野大学[江東区]法学部・大学院教授)
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著者

金井 たかし

金井 たかし

肩書 江戸川区議会議員 弁護士・行政書士 元 武蔵野大学・大学院教授 元 LINE監査役
党派・会派 自由民主党

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