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大阪ロマンボーイズ その16 恐怖のファミリーレストラン 前編

2026/7/1

 JR西ノ宮駅から南に下り国道43号線を超えると西宮市久保町に入る。西宮マリーナがあったり白鹿酒造博物館があるエリアである。俺は大学入学後すぐにそのあたりにあった聞いたことない名前のローカルファミリーレストランでアルバイトをするようになった。8時間働くと2食の賄いが付くというのはありがたい。メニューは洋食全般でハンバーグからパスタまで一通り揃っている。店はそんなに大きくない。駐車場が20台分くらいあり、店内のテーブルも20卓くらいのこぶりな店だ。スタッフは厨房内にいる店長とホールのアルバイト2人くらいだけだった。店の入り口には西洋の甲冑が二体おかれている。シルバーが経年劣化でくすんでアンティークな佇まいになっているがお客が入りやすい演出ではない。店の中の雰囲気は一転してアメリカンなテイストだ。ロックンローラーが好みそうなバドワイザーのネオンやハーレーダビッドソンのロゴやROUTE66の標識が飾られていたりする。床も使い込んで黒に近くなった深茶のフローリングが渋い。

 その店の店長は横田さんという40歳くらいのオジサンだ。横田さんのキャラは最強だった。横浜銀蝿の翔を洋風にして中年にしたような感じ、完全無欠のロックンローラーを歌うアラジンに少し似ていたかもしれない。ただし、前歯は折れたままになっていて風通しのよい隙っ歯だったのでコント仕立てのロックンローラーだ。気合の入ったリーゼントはポマードで固めていて照りがある。毛量は豊富でソリの入った黒髪がカツラだと勘違いさせるほど見事な出来栄えだ。

 横田さん自身は矢沢永吉の熱狂的なファンだったようで、口調は終始、矢沢風味を思わせる。お客からの注文を厨房にいる店長に通すと「アイラブユー、OK!」と返事が返ってくる。調理が出来上がるとホールに向かって「OK、ヨロシク!」って叫ぶ口元が歪んでいる。よく厨房から「ルイジアナ、テネシー、シカゴ、遥かロスアンジェルスまで、きつい旅だぜ、お前にわかるかい♪」って矢沢のトラベリン・バスを歌う横田さんの酒とたばこ焼けした掠れた声が響いていた。

 店のまかないはあまりものではない。横田さんが休憩時間になると「アーユーハングリー?」って尋ねてくれる。お客さん用のメニューから好きなものを注文させてくれる。もちろん、何を頼んでも無料だ。

「ハンバーグプレートをお願いします」

「イエス・マイ・ラブ、世話が焼けるぜ」

横田さんは顔を斜に構え左目だけを細めて言う。そんなヘンテコな大人にあったことのない俺は反応に困って固まる。

「OK、ボーイ、パーフェクト!」

完成したと言いたいようだ。

「ありがとうございます。頂きます」

「おい、坂本!これを食ったら、止まらないHA~HAだ」

口元だけ笑顔を作って返しておく。横田さんの作る飯はなんでも旨かった。ほとんど出来合いは使わず手間暇かけて作っている。ハンバーグのミンチは粗目の素材を使い、濃い味でボリューミーで奇を衒わないスタイルである。店はランチ時も満席になることはない。かといって閑古鳥が鳴くこともない。毎日の来店数は100名ぐらいだったと思う。恐らく赤字ではないが大して儲かりもしないと思う。この忙し過ぎない店が横田さんには実に居心地が良いのだろう。(後編へつづく)


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著者

坂本 雅彦

坂本 雅彦

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肩書 作家 学者 参議院議員政策担当秘書
党派・会派 無所属
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