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お盆企画「道義国家試論」⑤最終自主抑止力の構築我が国は岸田政権時にこれまでGDPの1%以内を維...

2026/8/16

お盆企画「道義国家試論」⑤最終

自主抑止力の構築

我が国は岸田政権時にこれまでGDPの1%以内を維持してきた防衛予算を2%まで引き上げた。どうやらこれは米国の要求によるものであったようだ。そのことはバイデン前大統領自身が自慢していた。しかし、米国からいくら高額な兵器を買って通常戦力を強化しても、台湾や尖閣諸島の有事に際して中共から核の恫喝を受けたら一巻の終わりであり核戦略なき防衛論は画竜点睛を欠くと言わざるをえない。

例えば、中共が台湾に侵攻した場合、米国は台湾関係法に基づいて救援に向かうと思われるが、その出撃拠点になるのは在日米軍基地であるから、我が国は自動的に台湾有事に巻き込まれる。しかしその際、中共は米国本土を直接攻撃すると全面戦争に発展する可能性があるので、米軍基地や物資の供給拠点になっている主要都市を攻撃するだろう。そのことは、米国イスラエルによるイラン攻撃に対して、イランが米国の同盟国である湾岸諸国にある米軍基地や都市に報復攻撃を仕掛けたことでも証明されている。そのとき、米国も中共との核戦争のリスクを冒してまで日本や台湾を守るかといえば、そんなことはあり得ない。同じことは中国が台湾と並ぶ核心的利益と位置付ける尖閣諸島での有事にも言える。人民解放軍が尖閣に侵攻した場合、もし自衛隊が尖閣を死守したとしても、中国は国家のメンツにかけて我が国に核攻撃の恫喝をするだろう。我が国は核戦力がないので当然、米国の核抑止力に頼ることになるが、その際、米国が中国との核戦争のリスクを犯してまで尖閣を守るとは考えられない。現在の日米安保条約では、第5条で米国の対日防衛義務を定めているが、その対象になっているのは我が国の「施政の下にある領域」であり、尖閣が中国に奪取され「施政の下」から外れれば対象ではなくなる。事実、米国はこれまで尖閣諸島が我が国の施政下にある事実は認めてきたが、歴史的かつ法的に我が国固有の領土であるとは一度も明言していない。これは、米国が日本のために尖閣諸島を守る法的根拠がないことを意味する。このように、米国による核の傘など幻想であり、最初から被っていないか破れているのであり、いざというとき米国の核抑止力は機能しないのである。

現在の国際平和は、MAD(相互確証破壊)に基づく核の均衡によって成り立っており、核保有国同士は戦争をしないが、ウクライナやイラン然り、核を持たない国は核を持つ大国からの攻撃を受けやすいのが現実である。だとすれば、我が国は核開発に邁進する隣国からの核攻撃を防ぐために、自前の核抑止力の保有について現実的かつ戦略的な議論をせねばならないのであって、核の保有はおろか議論すら認めないというこれまでの風潮は、戦後の空想平和主義に微睡む無責任で危険な態度と言わざるをえない。

農本社稷の再生

そして最後に、自主防衛を成り立たせる産業基盤、食料・エネルギー安保などの経済基盤についてである。目下、高市政権は中共政府がレアアースの輸出規制などにとって我が国に経済的威圧を加えるなかにあって、新たなサプライチェーンの構築や南鳥島などの海底資源の開発、戦略産業の買収を阻止する日本版CIFIUS(対米投資委員会)の創設など、経済安全保障の強化に取り組んでいる。エネルギー安保については、イラン戦争によるホルムズ海峡の封鎖を受けて、原油の代替調達を押し進めているが、その有力な調達ルートであった紅海も親イランのフーシ派による封鎖の危険が高まり、結果的に米国産原油への依存を強めることになったことは前述した。

特に脆弱なのが食料安保であり、高市政権のアキレス腱とも言い得る。農業は我が国の立国の根本であり、なかでも稲作は天照大神の「斎庭の稲穂」の神勅に象徴されるように我が国の伝統文化そのものである。しかしながら、戦後我が国はGHQによる占領政策の下で、農地改革が実行され、学校給食などを通して米食中心から小麦食への転換が推し進められた。その背景には、米国産小麦の余剰在庫を我が国に輸出する戦略があった。米需要の減少に対して政府は減反政策を続け、生産を抑制してきた。また、93年のウルグアイ・ラウンド合意でのコメ市場の自由化を契機に、95年には、政府がコメを高値で買い安値で消費者に売ることを定めた食糧管理法が廃止されて以来、米価の下落・低迷傾向が続いた。農家の所得は減り、高齢化による離農が進んだ。

近年では、ウクライナ戦争の長期化やイラン戦争による原料や飼料・肥料価格の高騰、などが農業経営を圧迫し離農に拍車をかけている。これらの結果、我が国の食料自給率は低下の一途を辿り、直近の25年度ではカロリーベースで37%と過去最低を記録した。しかも農業に必要な種子や肥料は9割近くを輸入に依存しているので、実質的な自給率は数%にも満たないとされている。
かたや、近年の異常気象による不作や、戦争などで食料輸入が途絶することによる世界的食料危機のリスクが高まっている。なかでも中国はそうした食糧危機に備えて、世界中から穀物を買い占め、備蓄を増しているだけでなく、我が国の農地や水源となる森林の買収を進めることで食料や水のサプライチェーンを掌握しようとしている可能性が指摘されている。よって、もし台湾有事などで輸入が途絶えれば我が国民はたちまち飢えてしまう。
こうしたなか、政府は、企業の農業への参入や、農地集約や大規模化を促進するとともに、スマート技術の導入によって生産性を高め「儲かる農業」への転換を推し進めているが、我が国のような国土狭小にして中山間地が多い国では生産性の向上には限界があることから、農家所得は向上せず離農に歯止めがかかっていない。それに、農業はただ単に国民にカロリーを供給する産業ではなく、水田や里山の自然や生態系、家族を中心とした信仰の共同体である「社稷」と一体不可分である。したがって、効率性を追求して企業や大規模農家ばかりを優先するのではなく、小規模農家や家族営農を保護する視点が重要である。

昨年令和7年は「令和の米騒動」が起こり、米不足から米価の急騰を招いた。これに対し当時の石破政権は、これまで「生産調整」の名で続けてきた減反政策を改め、米の増産に舵を切ったが、その後発足した高市政権は、鈴木農相が「需要に応じた生産」を唱え再び生産調整に戻ったかに見える。たしかに米の民間在庫が膨れ上がり米価の下落が予想されているが、だからといって生産を減らせば、不作など不測の要因で再び需給が逼迫し米価高騰とコメ離れを加速させさらなる需要の低下を招く悪循環に陥る。その過程で繰り返される米価の乱高下は持続的な営農を不可能にするだろう。したがって、政府は農家から米を再生産可能な価格で買い取るか、市場価格との差額を補助し、消費者に安価で提供することで農家の所得を補償し、米の需要を下支えする必要がある。そのためには農業予算を増やさねばならないが、高市政権の予算編成を規定する「経済財政運営の指針」(通称「骨太方針」)を見てもその気配は感じられない。高市政権は、農本社稷の再生に本腰を入れねばならない。

(詳しくは「千葉農政に危機感はあるか」「学校給食から日本の独立を取り戻す」「農地買収の実態調査について」を参照のこと)

米軍の撤退は可能か

かくして自主防衛体制を整えたうえで、我が国は外国軍隊である米軍の撤退を成就せねばならない。それは前述したように、我が国の衰退を招いたグローバリズムや新自由主義の根底に対米従属があり、我が国に対米従属を強いる権力装置が、日米地位協定で治外法権を与えられた在日米軍の存在だからである。日米安保条約は、「自由と民主主義」という価値に基づいた同盟であり、我が国の祭政一致や忠孝一致の国体を封じ込める権力装置でもあった。それでも我が国が米国との同盟関係を維持してきたのは、米ソ冷戦下には国際共産主義の脅威が、冷戦以降は核ミサイル開発を進める中共や国民同胞を拉致した北朝鮮の脅威を抱えているからである。しかし、一方では長年にわたる米国への軍事依存が、国民の国防精神を希薄化させ、いつまで経ってもひ弱な保護国に留めているのも事実である。しかし、いまや宗主国である米国自身が、相次ぐ世界戦略の失敗や内政の混乱によって国際政治にコミットする余力がなくなっており、同盟国に対しても軍事的自立を求めており、ひ弱な日本は米国の国益にもならない。

こうしたなかで、我が国は防衛予算を増額し戦力を強化しているが、米国から高額な通常兵器を買うだけで、果たしてどこまで自立につながっているのか疑問だ。むしろ、日米両国は、ハワイに司令部を置く米国のインド太平洋軍の傘下にある在日米軍に「統合司令部」を新設して指揮権を持たせ、陸海空の自衛隊で新設される「統合司令部」と一体での運用を開始した。これは事実上、自衛隊の指揮権を在日米軍に委ねるに等しく、対米協調の名の下に対米従属を強化することになる。

日米安保は日本が戦力を放棄し基地を提供する代わりに米国が日本を防衛する非対称な関係に基づいている。ということは、論理的には、米軍が撤退するためには、我が国も米軍に代わる戦力を保持し、自国のみならず米国本土も防衛せねばならないということだ。戦後の鳩山一郎政権で外務大臣を務めた重光葵は、米国のジョン・フォスター・ダレス国務長官との会談で、在日米軍の削減・撤退を求めたが、ダレスから憲法9条があるのに日本は米国を守れるのかと問われ、断られた。外交交渉は相手がある以上、自国の国益だけを主張しても現実は変わらない。在日米軍の撤退は、日米双方に利益になる形でなければ不可能である。安倍内閣時の安保法制で集団的自衛権の行使が一部解禁されたが、当時のオバマ政権は意に留めなかった。やはり憲法9条を削除して我が国の戦力保持と集団的自衛権の行使を全面的に解禁することで、現在の非対称な関係を対称化し、相互防衛条約を締結するなどしなければ、米国が在日米軍の削減撤退に応じることはないだろう。それも、一足飛びには不可能でも、まずは本土の米軍を九州以西の南西の方面に移転するなどして段階的に削減し、完全撤退のゴールに向けて粘り強く前進せねばならない。

日ロ平和条約

かくして在日米軍の削減・撤退が進めば、ロシアとの間における平和条約の締結と北方領土の返還にも道が開ける。というのも、現在の日米安保条約や地位協定のもとでは、「全土基地方式」に基づき、米国は日本全国の何処にでも米軍基地を設置することができる。このため、仮にロシアが北方領土を日本に返還すると、そこに米軍基地が設置されロシアの安全保障を脅かすことになりかねない。このことが北方領土の返還の妨げになっていると、プーチン大統領自身が述べている。したがって、在日米軍が撤退すればその懸念はなくなる。ロシアは我が国にとって、北方領土の返還や、天然ガスなどエネルギーの供給国として重要なだけでなく、覇権主義を隠さない中国を封じ込めるためにも戦略的に重要だ。ウクライナ戦争で我が国が欧米に追従して経済制裁を科したために、ロシアが中国に接近し同盟が成立してしまった。しかし米国は最終的には東アジアから手を引く可能性もあることから、我が国は欧米の対ロ敵対政策とは一線を画して中ロの関係に楔を打ち込み、戦略的な協力関係を構築すべきだ。

アジアの道義的秩序

そのうえで、我が国は台頭するBRICsやグローバル・サウスの国々との関係を主体的に構築しなおす必要がある。これまでは、我が国は米国のハブ・アンド・スポーク戦略により、米国を介在しないアジア諸国との関係を嫌ってきた。このことは97年の東アジア通貨危機に際して、我が国が米国抜きで提唱した東アジア通貨基金構想に米国が猛然と反対し頓挫した歴史にも示されている。このため我が国の対アジア外交は大きな制約を科されてきたのである。

しかしいまや米国の覇権が後退し、米中双方が覇権主義をむき出しにしているなかにあって、我が国はあらゆる大国の覇道に反対し、アジア諸国と連携して、国家の主権と文化を相互に尊重した共存共栄の道義的秩序を構築する旗手になるべきである。

維新と興亜の遺産

そして、そのような道義的秩序は、大東亜戦争に至る近代史の過程で、我が国の先人たちが目指した維新と興亜の理想に他ならない。周知のように、明治維新以降、我が国は国家の近代化を急速に推し進め、日清日露の戦役に勝利したことで、西欧列強の植民地支配下で苦しんでいたアジアの諸民族に独立の希望を与えた。しかし、その反面、内政では薩長藩閥政府による「有司専制」が敷かれ、外交では西欧列強に追従して自らもアジア大陸に進出したのである。

これに対して、一君万民の国体を顕現するために維新をやり直し、皇室を戴く我が国の道義精神を恢弘して、西欧列強に蹂躙されたアジアの独立と連帯を志向する大アジア主義の運動が起こった。その源流になったのが、西郷南洲(隆盛)であり、西南戦争で斃れた西郷の精神を継承したのが頭山満を始めとする福岡玄洋社の一統であった。頭山は、中国の孫文や朝鮮の金玉均、インドのビハリ・ボース、フィリピンのアルテミオ・リカルテ、ベトナムのファン・ボイ・チャウといったアジアの独立の志士たちを献身的に支援した。孫文は、1925年、死の直前に神戸で行った「大アジア主義講演」において、日露戦争での勝利でアジアに希望を与えた日本の大陸進出を批判し、「西洋覇道の番犬となるのか、東洋王道の干城になるのか」と問いかけた。しかしあれから約100年が経過し、同じ言葉を覇道を突き進む中共政府に投げかけねばならない。

たしかに大東亜戦争に至る我が国の近代史の過程では、様々な矛盾や悲劇もあったが、我が国が国民の莫大な犠牲を割いてあの大戦争を戦った結果、多くのアジア諸国が独立の悲願を達成し今日の隆盛の基を築いたのも事実である。戦時中の昭和18年に我が国が東京で開催した大東亜会議では、アジア各国の指導者が一堂に会し民族自決と共存共栄の道義的理想を高らかに宣言した。そしてその理想は、戦後もアジア・アフリカ諸国が会したバンドン会議での宣言にも受け継がれたのである。

こうした我が国の偉大な先人たちによる維新と興亜の物語は、今日においても、アジア諸国との友好親善の絆となっており、かけがえのない歴史的遺産である。したがって、我が国はこうした歴史的遺産を外交において活用し、軍事大国ではなくとも、光輝ある道義国家として独自の道を歩むべきと考える。

(大アジア主義については第三部の史論を参照のこと)

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著者

折本 たつのり

折本 たつのり

選挙 千葉県議会議員選挙 (2023/04/09) [当選] 14,940 票
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肩書 千葉県議会議員、オピニオン誌主宰、会社役員
党派・会派 無所属
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