2026/7/12
秋田市で来年度開設予定の「学びの多様化学校」の参考とするため、三重県立みえ四葉ヶ咲中学校を視察しました。
不登校の子どもたちに必要なのは、無理に元の教室へ戻すことだけではなく、安心して人とつながり、もう一度「学びたい」と思える場所をつくること。
秋田市で大切にすべき視点をまとめました。
秋田市では、来年度、学びの多様化学校「秋田市立みらい学園小学校・中学校」の開設が予定されています。
学びの多様化学校とは、不登校や不登校傾向にある子どもたちに対して、通常の学校とは異なる柔軟な教育課程を編成し、一人ひとりの状況に応じた学びの場を提供する学校です。
不登校の子どもたちは、全国的に増加しています。
その背景には、友人関係、学習不安、家庭環境、発達特性、心身の不調、生活リズムの乱れなど、さまざまな要因があります。
「学校に行きなさい」と言うだけでは、解決しないケースが多くあります。
朝起きられない。
教室に入るのが怖い。
友達の目が気になる。
授業についていけるか不安になる。
こうした状態にある子どもたちに対して、これまでの学校の形だけで十分に応えることが難しい場合があります。
だからこそ、通常の学校とは異なる時間割、学び方、居場所、支援体制を備えた「学びの多様化学校」が必要とされています。
秋田市で開設される学びの多様化学校は、不登校の子どもたちにとって、安心して学びにつながるための新しい選択肢となる可能性があります。
不登校は、決して特別な家庭だけに起きることではありません。
子ども本人にとっても、保護者にとっても、日々の生活の中で向き合う、とても切実な問題です。
「このままで大丈夫なのか」
「勉強は遅れないだろうか」
「進路はどうなるのか」
「今日、休ませる判断は正しいのか」
「無理に行かせるべきなのか、それとも休ませるべきなのか」
そうした問いを、家庭の中で何度も繰り返すことになります。
子どもが苦しんでいる姿を見ることは、保護者にとっても大きな苦しさです。
一方で、周囲に相談しづらいと感じることもあります。
「甘やかしていると思われるのではないか」
「親の対応が悪かったと思われるのではないか」
「学校や地域の人に知られたくない」
「ほかの家庭は普通に通えているのに、なぜうちだけ」
そうした思いから、子どもだけでなく、保護者も孤立してしまうことがあります。
だからこそ、不登校支援は、子ども本人だけではなく、家庭全体を支える視点が必要です。
学びの多様化学校は、単に新しい学校を一つつくるという話ではありません。
子どもと家庭が孤立しないための、大切な選択肢として考える必要があります。

今回視察した三重県立みえ四葉ヶ咲中学校は、令和7年4月に開校しました。
この学校の大きな特徴は、2つの機能を持っていることです。
1つ目は、夜間中学です。
さまざまな事情により、義務教育を十分に受けられなかった人が、もう一度学び直すための学校です。
2つ目は、学びの多様化学校です。
不登校や不登校傾向にある現役の中学生が、通常の中学校とは異なる柔軟な教育課程で学ぶことができます。
つまり、みえ四葉ヶ咲中学校は、
学び直したい大人と、
学校に行きづらい子どもが、
同じ場所で学ぶ学校です。
年齢も、国籍も、学びの経験も異なる人たちが、「学びたい」という思いを持って同じ空間にいる。
この環境そのものが、子どもたちにとって大きな意味を持っていると感じました。
今回の視察で、最も印象に残ったのは、みえ四葉ヶ咲中学校が、子どもを無理に教室へ戻すことを目的にしていない点です。
不登校の子どもにとって、教室に入ることは、とても大きなハードルです。
教室に入れない。
授業に参加できない。
人の視線が気になる。
誰かと話すことに緊張する。
またうまくいかなかったらどうしようと思ってしまう。
そうした状態の子どもに対して、いきなり「教室に入りなさい」、「授業を受けなさい」と求めても、かえって苦しくなってしまうことがあります。
みえ四葉ヶ咲中学校では、教室に入ることだけをゴールにしていません。
学校の中にいられる。
安心できる場所で過ごせる。
少しだけ人と話せる。
オンラインで授業に参加できる。
自分に合った場所で学ぶことができる。
そうした小さな一歩を大切にしています。
「教室に戻る」ことよりも前に、まずは「安心してつながる」こと。
この視点は、秋田市の学びの多様化学校を考える上でも、非常に重要だと感じました。
みえ四葉ヶ咲中学校では、学びに向かう前提として、まず「安心」が大切にされています。
たとえば、授業は午後から夜にかけて行われます。
不登校の子どもの中には、朝起きることが難しい子どももいます。
生活リズムが乱れている場合もあります。
心身の状態によって、午前中の登校が大きな負担になることもあります。
そのため、午後からの校時は、子どもたちにとって登校のハードルを下げる工夫になっています。
また、校内には教室以外にも、安心して過ごせる場所があります。

一人になれる場所。
少人数で過ごせる場所。
相談できる場所。
気持ちを整える場所。
視察では、トイレのような場所も、子どもが気分転換をしたり、心を落ち着けたりするために大切にされていると聞きました。
大人から見ると小さなことに思えるかもしれません。
しかし、子どもにとっては、「逃げ場がある」、「落ち着ける場所がある」ということが、学校にいられる安心感につながります。
さらに、オンラインで授業に参加できる仕組みもあります。
教室に入れない生徒が、校内の別の場所から授業を受けることもできます。
場合によっては、保護者の車の中からオンラインで授業に参加することもあるそうです。
ここで大切なのは、「それはだめ」と切り捨てるのではなく、今できる形で学びにつながることを認めている点です。
登校できるか、できないか。
教室に入れるか、入れないか。
授業を全部受けられるか、受けられないか。
そうした二択ではなく、少しでもつながり続ける方法を探す。
そこに、学びの多様化学校の大きな意味があると思います。
みえ四葉ヶ咲中学校の大きな特徴は、夜間中学と学びの多様化学校が同じ校舎で運営されていることです。
夜間中学には、10代から高齢の方まで、さまざまな年齢の人が通っています。
外国籍の方もいます。
戦後の混乱、家庭の事情、不登校、外国からの移住など、それぞれに学びの背景があります。
そのような大人たちと、不登校経験のある中学生が、同じ空間で学んでいます。
これは、通常の中学校ではなかなか得られない環境です。
子どもにとって、先生や親から認められることはもちろん大切です。
しかし、それが時にプレッシャーになることもあります。
一方で、同じ「学び手」である大人から、自然に声をかけられたり、認められたりする経験は、子どもにとって大きな意味を持ちます。
「普通」は一つではない。
同じ年齢の子と同じようにできなくてもいい。
いろいろな人生があり、いろいろな学び方がある。
そうしたことを、言葉ではなく、日常の中で感じられる環境がありました。
秋田市で同じように夜間中学と併設するかどうかは、別途検討が必要です。
しかし、教師や保護者以外の多様な大人と子どもが関わる機会をつくることは、秋田市でも大切にすべき視点だと感じました。
みえ四葉ヶ咲中学校では、子どもたちに前向きな変化が見られています。
学校に来ると明るい気持ちになる。
人と話すことが楽しい。
先生と生徒の距離が近くて安心できる。
いろいろな年代の人と話せてよい。
自信がついた。
こうした生徒の声が紹介されていました。
保護者からも、居場所ができてよかった、笑顔が増えた、いろいろなことにチャレンジするようになった、という反応があるそうです。
一方で、課題もあります。
まず、受け入れ人数には限りがあります。
学びの多様化学校は、一人ひとりの状況に応じた少人数の支援が必要です。
そのため、希望するすべての子どもを一つの学校で受け入れることは難しいのが現実です。
また、卒業後の進路支援も大きな課題です。
通信制高校、定時制高校、全日制高校など、進路の選択肢はあります。
しかし、「通信制があるから大丈夫」と簡単に考えるのではなく、その子に合った進路をどう一緒に考えていくかが重要です。
さらに、教員の負担や専門性の問題もあります。
子どもたちの変化は、すぐに見えるとは限りません。
反応が少ないこともあります。
成果が出るまで時間がかかることもあります。
それでも、焦らず、急がず、しかし見逃さずに関わり続ける。
この姿勢を学校全体で共有することが必要です。
今回の視察を踏まえると、秋田市で学びの多様化学校を開設するにあたり、特に大切にすべき点は7つあります。
第一に、学びの多様化学校を「不登校生徒の受け皿」としてではなく、学びに向かう力を回復する場として設計することです。
第二に、授業時数を単に減らすのではなく、探究、体験、表現、健康、キャリア、地域との関わりを含めて、教育課程を再構成することです。
第三に、朝からの登校を前提にしすぎないことです。
午後からの校時やオンライン参加など、柔軟な形を検討する必要があります。
ただし、秋田市の場合は、冬の下校時間、積雪、公共交通、保護者の送迎負担、安全確保といった地域特有の課題もあります。
三重県の取り組みをそのまま移すのではなく、秋田市に合った形にすることが重要です。
第四に、教室以外の居場所をしっかり整えることです。
学習室だけでなく、一人になれる場所、気持ちを整える場所、相談できる場所が必要です。
第五に、教員だけで抱え込まないことです。
スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、医療、福祉、家庭支援などと連携したチーム支援が不可欠です。
第六に、地域や企業、大学、NPO、文化・スポーツ団体などと連携し、子どもたちが自分の「好き」や「得意」を見つけられる体験機会を広げることです。
第七に、学びの多様化学校で得られた知見を、市内の通常校にも広げることです。
学びの多様化学校だけで、すべての不登校児童生徒を支援することはできません。
だからこそ、そこで得られたノウハウを、通常の小中学校、校内教育支援センター、教育支援センター、フリースクールとの連携などに広げていく必要があります。
不登校の子どもに対して、私たちはつい、「どうすれば学校に戻れるか」と考えてしまいます。
もちろん、元の学校や教室に戻ることが、その子にとってよい場合もあります。
しかし、それだけが正解ではありません。
大切なのは、子どもが安心できること。
人と関わる力を少しずつ取り戻すこと。
自分のペースで学び直せること。
そして、もう一度「学びたい」と思えるようになることです。

同時に、保護者が孤立しないことも大切です。
不登校は、子どもだけが抱える問題ではありません。
家庭の中で、保護者も迷い、不安になり、時には自分を責めてしまうことがあります。
だからこそ、学校や行政は、子ども本人だけでなく、保護者にも「相談していい」、「一緒に考えてくれる人がいる」と感じてもらえる支援を整える必要があります。
みえ四葉ヶ咲中学校の視察を通じて、私は、学びの多様化学校の本質はここにあると感じました。
秋田市でこれから開設される学びの多様化学校も、単に新しい学校を一つ増やすだけで終わらせてはいけません。
それは、秋田市全体の不登校支援を見直し、子どもたち一人ひとりに合った学びの選択肢を広げるための、大切な出発点にすべきです。
学校に来られない子を、どう戻すか。
その問いだけではなく、
子どもが安心してつながり、もう一度、学びたいと思える環境をどうつくるか。
そして、子どもと保護者が孤立しない支援をどう整えるか。
秋田市の学びの多様化学校は、その問いに対する秋田市なりの答えとして、丁寧に設計していく必要があります。
今後も、秋田市で開設される学びの多様化学校が、子どもたちにとって本当に安心できる学びの場となるよう、先進事例を調査しながら、議会の立場から提案を続けていきます。
「車の中も、トイレも、すべてが「教室」だった。三重県立みえ四葉ヶ咲中学校で出会った、新しい学びの形。」(note) ← このブログとは少し異なるテイストでまとめています。
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