2026/6/3
2.5兆円の白紙委任は認めない・・・令和8年度補正予算案の分析。
2026年6月3日、令和8年度補正予算案が閣議決定されました。政府資料を基に分析します。
この補正予算案は「中東情勢対応」を名目とした歳出総額3兆1,135億円の補正です。
うち予備費が3兆0,135億円(96.8%)を占め、具体的な個別事業はほぼ存在しません。
緊急対応力を確保する意義は理解できますが、国会統制・財政規律・政策効果の観点では深刻な問題を抱えています。
1. 全体評価
令和8年度補正第1号の歳出総額は3兆1,135億円。内訳は以下の通りです。
・重点支援地方交付金:1,000億円(補正の3.2%)
・一般予備費:5,135億円(補正の16.5%)
※5月26日に電気・ガス代支援で取り崩した分を、1兆円水準へ復元
・中東情勢等対応予備費:2兆5,000億円(補正の80.3%)
・財源:全額、特例公債
評価としては、「備え」としての意義は理解できますが、補正予算としての説明責任が大きく欠けています。
特に問題なのは、補正歳出の80.3%を占める2兆5,000億円の中東情勢等対応予備費について、対象・単価・実施率・想定期間・発動基準のいずれも政府資料に示されていないことです。国会が個別政策の必要性・金額・効果を審査する前に、政府に大きな白紙委任を与える構造になっています。
なお、一般予備費5,135億円は5月26日の電気・ガス代支援で既存の予備費枠を取り崩した分の復元であり、白紙委任の性格は2.5兆円とは異なります。批判の核心は、積算根拠が皆無の「2兆5,000億円」に絞るべきです。
2. 最大の問題点:2.5兆円の積算根拠がない
最大の論点は、2兆5,000億円の「中東情勢等対応予備費」の積算根拠が、政府資料の中でほぼ示されていないことです。
政府資料によれば、中東情勢に伴うエネルギー価格の高騰など我が国経済への影響への対応、および国際情勢の変化に伴う緊急を要する経費に使うとされています。ですが、対象・単価・実施率・想定期間・発動基準がすべて不明です。
ここで比較として注目してほしいのが、5月26日に一般予備費から支出が決定した電気・ガス代支援(5,135億円)です。政府資料では対象月(7〜9月)も値引き単価も以下のように具体的に示されています。
・電気(低圧):7月3.5円/kWh・8月4.5円/kWh・9月3.5円/kWh
・電気(高圧):7月1.8円/kWh・8月2.3円/kWh・9月1.8円/kWh
・都市ガス:7月14.0円/㎥・8月18.0円/㎥・9月14.0円/㎥
5,135億円についてここまで丁寧な設計ができているなら、2.5兆円についても同様の説明が可能なはずです。それができないということは、「必要額を積み上げた数字」ではなく「政治的に置いた数字」ではないかと言わざるを得ません。
政策分析上は最低限、以下が必要です。
・原油価格・LNG価格・為替の想定シナリオ
・電気・ガス・ガソリン・LPガス支援の想定規模
・家計支援と企業支援の配分
・発動条件(価格水準・影響指標)
・未使用時の扱い
・既存予備費・基金・補助金との重複整理
3. 財政面の評価
補正後の一般会計総額は125兆4,228億円、公債金は当初の29兆5,840億円から32兆6,975億円へ増加します。財源は全額特例公債です。
基礎的財政収支(PB)は、当初予算のマイナス1兆3,429億円から補正後のマイナス1兆7,706億円へ、赤字幅が約4,277億円拡大します。
一方、政府資料では「令和7年度分の特例公債のうち出納整理期間に発行予定の3兆円分は減額できる見通し」として、令和8年度の市中発行額を増やさず対応すると説明しています。
ここは政府側の防御線ですが、厳密には以下の整理が必要です。
・令和8年度予算上は特例公債が約3.1兆円増加する
・令和7年度決算見込みによる調整はまだ精査中(本年7月公表予定)
・補正によりPBの赤字幅は拡大する
したがって、「市中発行額は増やさないから財政悪化ではない」という説明は不十分です。
また、補正3.1兆円が全額特例公債であるにもかかわらず、PBの悪化幅が約4,277億円に留まる点は、政府資料でも算出根拠が明示されていません。この点について政府は明確に説明すべきであり、国会でも問うべき論点です。
4. 政策効果の評価
重点支援地方交付金1,000億円は、特別高圧電力・LPガス利用者支援など地域の実情に応じた支援財源とされています。
方向性は妥当です。特に、特別高圧電力は中小企業・病院・商業施設・製造業・学校法人・福祉施設などに影響します。LPガスは都市ガスの普及率が低い地域で基幹エネルギーとなっており、支援の必要性は高いと考えます。
ただし、1,000億円では規模が小さい可能性があります。全国の自治体に配分すると、実効的な支援額は限定的になります。政策効果を出すには以下への重点化が必要です。
・医療・介護・福祉施設
・中小製造業
・冷凍冷蔵・物流
・公共交通
・学校・保育施設
・LPガス比率の高い地域
5. 国会論戦上の急所
政府に問うべき核心は以下の6点です。
1 2.5兆円の積算根拠は何か。
原油価格・為替・対象世帯と事業者・支援単価・支援期間を示せるか。
5,135億円の電気・ガス代支援で単価まで示せているのに、なぜ2.5兆円は示せないのか。
2 なぜ通常の個別事業補正ではなく予備費なのか。
予備費は憲法87条2項の規定上、国会の〔事前審査〕を経ず〔事後承諾〕のみで足りる。国会の予算審査を構造的に回避していないか。
3 中東情勢等対応予備費の発動基準は何か。
どの原油価格水準・どの影響指標・どの被害規模で発動するのか。基準なき予備費は行政裁量の無制限な拡大につながる。
4 未使用分はどう扱うのか。
翌年度繰越・不要額・国債発行抑制のいずれを原則とするのか、ルールを明確にすべきだ。
5 重点支援地方交付金1,000億円で足りるのか。
自治体配分額と対象分野別の見込みを示すべきだ。特別高圧電力・LPガスの影響規模と1,000億円の乖離を政府は認識しているか。
6 PBの悪化幅(約4,277億円)の算出根拠は何か。
補正3.1兆円が全額特例公債であるにもかかわらず、PBの悪化が約4,277億円に留まるメカニズムを明確に説明せよ。「市中発行額は増やさない」という説明とは別の問題だ。
6. 総合判定
5段階で評価すると以下のイメージです。
・緊急対応力:4
・財政規律:2
・国会統制:1(憲法87条2項の構造上、事前審査が及ばない予備費を補正の97%に集中させている)
・政策効果の明確性:2
・説明責任:1
・政治的実現可能性:4
総合評価は、「可決はされやすいが、制度設計としては粗い補正予算」です。
7. 改善提案
この補正予算案を改善するなら、最低限、次の修正・附帯決議が必要です。
・中東情勢等対応予備費2.5兆円の発動基準(価格水準・影響指標・対象・支援単価)を明文化する
・使用後は速やかに国会報告を義務付ける
・対象をエネルギー価格高騰・物流・医療介護・生活困窮・地域産業に限定する
・未使用分は国債発行抑制または不用処理を原則とする
・重点支援地方交付金は、特別高圧・LPガス・医療福祉・中小企業支援へ重点配分する
・補正後のPB悪化について、算出根拠を含む政府の説明責任を附帯決議で求める
一言で言えば、「危機対応の必要性」は認めつつ、「2兆5,000億円の白紙委任」は認められない。それがこの補正予算案への評価です。
前衆議院議員 きいたかし 福岡10区(北九州市門司区・小倉北区・小倉南区)

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