2026/5/29
今回歩いたのは、長野県安曇野市の三股登山口から常念岳へ登り、蝶槍、蝶ヶ岳を縦走して再び三股へ戻るルートだ。二日間で累積標高差は約2500m、移動距離は約19km、行動時間は20時間を超えるタフな行程だった。

登山道で他の登山客とはほとんど出会わない。ピークシーズンには蚕部屋状態になる山小屋は貸し切りで、常念岳、蝶槍、蝶ヶ岳の山頂も独占できた。穂高連峰と槍ヶ岳を右手に眺めながら、自分のペースで静かな稜線を歩く。この時期ならではの贅沢だ。

左に見えるのが穂高三山、右端が槍ヶ岳
ただ、残雪期の北アルプスに夏山感覚で入るのは危険だ。蝶槍では雪でコースが見えなくなっていたため、アイゼンとピッケルで直登することになった。蝶ヶ岳からの下りでは、踏み抜きと滑落に神経を使い続けた。
実際に歩いてみて、5月の北アルプスは「別の山」だと痛感した。
スタート時点の三股は雨だった。もちろん天気は織り込み済みだ。初日の早い時間に雨はやみ、2日目は快晴の予報となっている。
私の場合、天候が悪い場合は登山自体を断念する。ようやく取れた休日に計画した登山が中止になるのは残念なのだが、天候には決して逆らわない。

三股登山口にて
私は道具に余分なお金を掛けない主義だが、雨具は別だ。防水性と透湿性を重視して高価なものを選んだのは正解だった。
登り始めて一時間もすると小雨になり、山全体が霧に包まれる。視界は狭くなるが、幻想的な雰囲気も悪くない。

雨具を脱いで、ひたすら上を目指す。
2300mを超えて森林限界を迎えると、景色も空気も一変する。登山を始めて4年。ようやく、「ここからが登山だ」という感覚が分かってきた。

登山道はよく整備されている。近郊の低山と違い、マークを辿れば道に迷うことはまずない。さすが北アルプスだと思う。
山の維持管理は、行政だけでなくボランティアによって支えられている部分が大きい。実際に歩くと、そのありがたさが身に染みる。頭が下がる思いだった。
途中、宿泊も含めて立ち寄った山小屋はどこも清潔で、スタッフも親切だった。特に印象に残ったのは、若いスタッフたちだ。山を愛していることが伝わってくる。
北アルプスは、こうした人たちに支えられている。
2500m地点に到達したあたりから、雷鳥が何度も顔を見せてくれた。天敵がいないからか、人を怖がる様子は全くない。私の2メートルほど先で、草をついばむ姿には心癒された。
二日目の朝3時に山小屋を出て、常念岳に登頂した。標高2857mの山頂からは、澄みわたった空気の向こうに、北アルプスの山々が迫って見えた。圧巻の光景だった。
雲海の縁が、わずかに紅く染まる。やがて一点に光がにじみ、雲を割って太陽が顔を出す。冷えきった稜線の空気が、ゆっくりと温められていく。夜明け前から歩き続けた身体にたまっていた疲労が吹き飛ぶ。この一瞬があるから、また上りたくなる。

360度のパノラマ。富士山、穂高連峰、槍ヶ岳、さらに遠く剱岳まで見渡すことができた。
山頂の光景は、カメラにはとても収まりきらない。自らの足で登った者でなければ見られない景色が、そこにある。
5月の北アルプスでは、残雪対応が欠かせない。
食料、水、着替えに加えて、アイゼンとピッケルも持つため、ザックの重さは8kgほどになる。下半身だけでなく、体幹や上半身のトレーニングの重要性を感じた。
バズーカ岡田直伝の上半身トレーニングについては、「ザックを背負って登る筋力は、こう作る」というタイトルで次の機会に書きたい。

水分は、塩分補給を兼ねてスポーツドリンクと、疲労回復用にクエン酸を溶かした飲み物を併用した。私の場合、多少の重さは気にならないので、非常時を考えて真水を1リットル余分に持つようにしている。
行動食も様々なものを試してみた。MAURTEN GEL、ナッツ類、チョコレート、プロテインバーなどを組み合わせ、アミノ酸も適宜摂取した。
登山では、「空腹になったから食べる」では遅い。消費するカロリーを、どの程度のペースで補充し続けるか。行動食の取り方ひとつで、推進力が切れない体力を維持することができるかどうかが決まる。
間違っても、「登山でダイエット」などと考えてはいけない。
今回、最も体力を削られたのが蝶槍の上りと、蝶ヶ岳からの下りだった。
蝶槍の上りでは、登山道を時間をかけて探したが、雪の中に埋もれて見つからなかった。ベテランの同行者と相談したところ、雪のない道なき道を上るより、アイゼンとピッケルを使って雪道を直登した方が安全との結論に至った。
角度のある斜面だったが、ピッケルとアイゼンがしっかり食い込む雪質だったので、落ち着いて登り切ることができた。
蝶槍を越えたところで、張りつめていた緊張が少し緩んだ。振り返ると、穂高連峰が圧倒的な存在感で広がっていた。

蝶槍から蝶ヶ岳までは、ご褒美のような稜線歩きが続く。
対照的だったのは、蝶ヶ岳から三股への下りだ。標高2677mの山頂から下山を始めると、すぐに斜面は雪に覆われる。そこから2200m付近まで、傾斜のある雪面をひたすら慎重に下った。足を滑らせ、ピッケルで止められなければ、そのまま滑落しかねない。
これまでアイゼンとピッケルで雪面を歩いた経験はあったが、「身の危険」を感じながら使ったのは初めてだった。

とにかく、滑落だけは避けなければならない。雪の上では、すべての動作に注意が必要になる。コースの選択、踏み出す位置、ピッケルを刺す場所。一歩ごとに判断を迫られる。
しかも、雪が解け始める時間帯になると、踏み抜きが増える。膝まで沈み込む場面もあり、体力だけでなく精神力まで削られた。
今回の登山は、筋トレの効果と課題を確認する格好の機会となった。
上りでは、筋力より先に心拍数の限界が来る。トレッドミルの15度・時速6km設定のトレーニングを、手すりに頼らずにどこまでできるか。この夏は、心肺機能をもう一段鍛え直したい。
アイゼンを外した後の下りでは、筋力不足を感じた。やはり大腿四頭筋とハムストリングの強化が課題だ。筋肉痛が落ち着いたら、ブルガリアンスクワットで下半身を徹底的に追い込みたい。

バズーカ岡田直伝のブルガリアンスクワット
登山では、リスクをゼロにすることはできない。ただ、準備不足や無謀な判断で、救助の方々や周囲に迷惑をかけることだけは絶対に避けなければならない。
特に50代の登山は、自らの体力を直視することが前提になる。私の場合、持続力にはある程度自信があるが、若い頃のような爆発力や俊敏性はもはやない。

政治家として、私は迷ったら前に進むことを選んできた。思えば無理な決断もあった。登山は違う。山では「迷ったら止める」。長く山を歩き続けるためには、それが必要なのだと思う。
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ホーム>政党・政治家>細野 豪志 (ホソノ ゴウシ)>迷ったら止める──50代で歩いた残雪の北アルプス