
昨年11月に大統領選で勝利して以降、トランプ氏の公約や発言は常に注目されてきました。大統領に就任した今年の1月以降を見てみると、そうした公約や発言が政策として実際に実行されているように見えます。
その中でとりわけ注目されたのが、1月27日に出された「外国のテロリストのアメリカ入国からこの国を守る」と題した大統領令。この大統領令は、テロを防ぐために、イラクやシリアなど7か国の国籍を有する者の入国を一律に禁じるもので、差別として強い批判を浴びました。
このように、トランプ氏のこれまでの公約や発言に加え、「大統領は強い」というイメージから、「トランプ氏がやろうと思った酷い政策は何でもできてしまうのではないか」という悲観的な議論も語られています。
しかし、トランプ氏の公約や発言がそのまま政策になるかという点については、立ち止まって考えなければなりません。というのも、この半月ほどで、トランプ氏の公約や発言の中でトランプ政権が政策として実行しようとしたものの多くは壁にぶつかっているからです。実は、トランプ氏の対抗勢力とも言うべき人たちも大勢存在します。
トランプ政権の最大の壁ともいえるのは、司法の存在です。現在、1月27日の大統領令は効力を失っていますが、効力を失わせたのはまさに連邦裁判所の判決でした。
連邦控訴裁判所(日本でいう二審、高等裁判所)は2月7日の判決において、各州に対してトランプ政権を裁判に訴える権利を広く認めたうえで、トランプ政権が重視する安全保障に関する事項についても広く司法が判断する権利があることを宣言しました。そして、判決では、大統領令を発するにあたり適正な手続きを踏んでおらず、宗教上の差別に当たるかもしれないとして、憲法上問題があることから、1月27日の大統領令の差し止めを継続させることを決定しました。
「大統領令を使えば何でもできてしまう」という懸念の声も当初はありましたが、今回の判決は大統領令にも当然限界があるということを示しました。この判決が最高裁でも維持されれば、トランプ大統領個人の権限は大きく制限されると言っていいでしょう。
アメリカでは各州(日本でいう、都道府県)の政府が強い権限を持っています。加えて、ワシントン州やカリフォルニア州といった、移民が多く民主党の厚い支持基盤を有する州は当初からトランプ政権に対して異議を唱えてきました。
1月27日の大統領令に対する判決が認めているように、各州はトランプ政権を裁判で訴えることが認められ、実際に大統領令の差し止めを勝ち取っています。裁判という枠の中での話ですが、彼らもまたトランプ政権の壁として立ちはだかるでしょう。
トランプ政権の場合は、本来味方であるはずのホワイト・ハウスで働く人もまた対抗勢力として機能しているのです。
そのことを示すのが、再び1月27日の大統領令が発された時のホワイト・ハウスの対応です。CNNのスクープによれば、大統領令の作成にあたって、本来入国管理を主管する国土安全保障省はほとんど関われませんでした。しかし、大統領令が発されると、難民を1000人前後受け入れたり、7か国の国民でもアメリカに永住権を持つものについては入国を認めたりと、当初の難民入国禁止と7か国の国民の入国禁止から後退しました。
一方で、トランプ大統領自身は同様の内容の大統領令を作り直すことを示唆するなど、ホワイト・ハウス内でかなり混乱していることがうかがえます。また、一部報道では策定にあたり内閣の中で対立したことも伝えられており、ホワイト・ハウス内でも意見集約ができていないのが実情のようです。
このように、大統領令1つを実施するにしても、ホワイト・ハウス内での理解が得られなければ実際には実行は難しいと言えるでしょう。
1月27日の大統領令をめぐる混乱は、大統領の権限の強大さではなく、むしろ大統領の権限に対する制約の強さを明らかにしました。大統領だから何でもできるという訳ではなく、実際には憲法や政策に大きく制限されるのです。
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