
7月10日公開の「選挙ドットコムちゃんねる」では、終盤国会の情勢を毎日新聞政治部の田中裕之記者が解説!「立法府の総意」をもとにまとめられた皇室典範改正案が波紋を呼んだわけと、各党の思惑と、MCの山本期日前氏も驚いた政府も巻き込んだ与野党の『協力プレイ』とは?
MC期日前氏: まず、皇室典範の改正に向けた動きが進む流れになりました。今日の注目の動きはありましたか?
田中記者: そうですね。まずスライドを出してもらいましょうか。皇室典範の改正案の話なんですけど、本日、衆議院本会議で採決が行われ、衆議院を通過して参議院に送られました。

終盤国会は皇室典範が最優先ということで、ようやく動いているということですが、中身がどんなものかと言うと、大きく分けて「養子縁組の話」と「女性皇族が結婚後も身分を保持する話」の二つがあり、さらにその中に細かな論点があります。
まず「養子縁組」の方ですが、こちらは1947年に皇籍を離脱した旧11宮家の元皇族の方々のうち、15歳以上の男系男子を対象とします。この方を、今の4宮家が養子にできるという案です。そうなると養子に入った方は皇族となり、さらにその養子の方のお子さんが男性なら、その人は皇位継承資格(天皇になる資格)を持つということになります。
もう1つの「女性皇族が結婚後も身分を保持する」方ですが、その女性皇族と結婚した夫や子は皇族とはせず、一般国民のままとします。また、女性皇族は結婚後、皇族の方々だけが登録される戸籍のような「皇統譜」とは別に、僕らと同じ「住民基本台帳」にも登録されるという点があります。
この「養子縁組」と「女性皇族の身分保持」にまつわる計四つのポイントが論点になっており、今日の衆議院本会議でも造反する人が出たりしました。参議院に行っても立憲民主党が反対の姿勢を示していますが、現在も大変な議論が行われています。
MC期日前氏: このニュースを見ていて分からない部分があるのですが、今回の採決の前からなるべく静かな環境で、色々な政党を巻き込んで話し合いましょうと進められていましたよね。しかも、衆議院の森英介議長や石井啓一副議長、参議院の関口昌一議長や福山哲郎副議長が4人で並んで会見なども行われていたので、基本的にはすんなり行くのかなと思っていたら、結構バチバチやっているじゃないですか。これ、一体何が起きているんですか?

田中記者: 非常にいい質問です。これは「立法府の総意」として、議長と副議長の下に各政党の代表者が集まって会議をずっと重ねていたんですよね。
そこで、先ほどの「養子縁組」と「女性皇族の身分保持」のポイントについて、賛成ではなく「了とする」という少し不思議な言い方でまとめて、それを政府・高市(早苗)総理に提出し、「これで皇室典範改正案を作ってください」としたんです。
ところが、上がってきた政府案には、その「立法府の総意」には明確に書いていなかった項目――特に、養子縁組をした子について「その子が男性なら皇位継承資格を持つ」という文言が入ってきたんですよ。
そのため、特にこの養子縁組に慎重な立憲民主党や中道改革連合の議員たちから見ると「総意に書いていなかったのにこれが入ってきたのは騙し打ちではないか」という指摘が出たわけです。
一方で政府側や自民党からすれば、「いやいや、これは元々の皇室典範に書かれている規定をただ当てはめただけだ」という主張です。今の皇室典範の制度だと、生まれながらの男系男子が皇位継承資格を持つのは当然だ、と。
MC期日前氏:「抜けがけではなく、これまでの解釈をそのまま適用しただけだ」ということですね。国会の議論の前に森議長が一つ発言をして、野党が反発していたことがありましたが、あれが実際に内閣の案として出てきたということですか?
田中記者: そうです。だから森議長がポロっと皇位継承のことを言ってしまい、野党から反発されたわけですが、その後の釈明でも「今の現行の皇室典範に当てはめたらそうなるという解釈を言っただけです」と言っていました。こうなることは分かっていたのですが、根っこにあるのは「皇位継承をずっと男系男子でやっていくべきか」、あるいは「女性天皇もしくは女系天皇まで認める議論をすべきか」という大きな対立です。自民党は男系男子派で、立憲民主党などは女性・女系天皇を視野に入れているので、そこが交わらない対立点があるから、こういう事態が起きています。
MC期日前氏: この閣法として出てきて、立憲民主党は反対。一方で中道は賛成が分かれています。それこそ「付帯決議」などのワードも出ていましたが、今日になってまた色々な動きがあったのでしょうか?
田中記者: そうです。今日(7月10日)、衆議院の議院運営委員会で審議・採決されることは分かっていたのですが、昨日になっても中道は賛否を明確にしていませんでした。保留したまま昨日の夜を迎えても決まらず、今朝午前9時からの議院運営委員会が始まる直前まで、各マスコミは「おい、どっちなんだ」「当日なのにどっちのニュースを出せばいいか分からない」という状態だったんですよ。
MC期日前氏: なるほど、そこが決まっていなかったんですね。
田中記者: そうなんです。中道としては、養子の子が男性なら皇位継承資格を持つという部分が党内で引っかかっていました。しかし、立法府の総意の段階では「了とする」と、立憲とは違って賛成した。中道には旧立憲と旧公明の人がいる。公明は、参議院で「了とする」に賛成しているので、基本的には賛成の方向です。中道がどうするかは、小川(淳也)代表もどうするか頭を悩ませていて、賛成するにしても、このままでは賛成できない、メンツが立たないというか、「もう少し縛りをかけたい」ということで、昨夜から今朝までずっと調整を続けていました。そこで何をやろうとしたかと言うと、「付帯決議」です。

付帯決議というのは普通の法案でもよくやるのですが、法案を採決した後に、法的拘束力はないものの「議会の意思」として「政府はこの法案を執行するにあたって、こういうことに注意してくださいよ」と議会の意思として示すものです。政府はそれを尊重すると答弁し、内容に反映させるやり方なのですが、この付帯決議の文面も、議長が各党の意見を取りまとめて作ったため、一見すると何が書いてあるか非常に分かりにくい内容になっています。
MC期日前氏: 文字が多くて、ちょっと読みにくいですね。
田中記者: 要するに、読むべきところは「必要があると認められる時は、適時適切な措置が講じられるものとする」や「引き続き、検討するものとする」という部分です。つまり、「これで決まり(フィニッシュ)ではないですよ」ということです。
養子の方のことも女性皇族のことも含めて、これで決まりではないから、また見直しの機会がありますよね、という点を示しています。議会の中では自民党と立憲民主党で考えていることがバラバラで、男系男子にこだわるか、女性・女系天皇を視野に入れるかで思惑は違いますが、「それぞれの方向に向けてまた議論しましょうね」ということを議会の意思として示したのが、今回の付帯決議です。
ただ、中道としては、ここにもう少し「方向付け」をしてほしいと考えていました。具体的には、中道案として「養子の子が皇位継承資格を持つことについて、速やかに検討が加えられ、必要があると認めるときは所要の措置が講ぜられるべき」というように、「速やかに検討」という文言を加えたかったんですよ。
MC期日前氏: スピード感があるか・ないかですね。
田中記者: けど、自民党側はそれを受け入れませんでした。なぜなら、この付帯決議は各党の様々な思惑が絡み合ってできた、いわば「ガラス細工」のようなものだからです。どこか一カ所でも文言を入れれば、全体が壊れかねない。みんな思惑があるから、「中道がそう言うなら、うちはこれをやってほしい」などと言い出したら収集がつかなくなります。だから自民党としては「速やかにという文言は入れたくない、このまま行く」となり、調整がつきませんでした。
そこで中道としては困ってしまい、どうやって賛成の理由を作ればいいんだとなった結果、苦肉の策として、今日の国会答弁で、なんとか同じ内容の言質を引き出そうという作戦に出たわけです。
本日、衆議院の議院運営委員会で質問に立ったのは、公明党出身の中野洋昌さんでした。中野さんは質問の中で、「この養子の子の皇位継承について、速やかに検討が加えられ、必要があると認めるときは所要の措置が講ぜられるべきである」という、本当は付帯決議に加えたかった文言をそのまま喋り、その上で「私のこの考えは、今の付帯決議の中に読み込めますか?」と質問したのです。
MC期日前氏: なるほど。この枠の中に入っているかと。
田中記者: その通りです。附帯決議を変えなくても、この中に自分たちの考えていることも含まれていますよね、という言質をとりたかった。答弁に立ったのは木原(稔)官房長官ではなく、衆議院法制局の特別参与である橘幸信さんという方でした。この方は国会では知る人ぞ知る「辞書」的な存在で、衆議院法制局という議員立法をサポートする組織の法制局長を長年務めた方です。与野党問わず、議員が法律を作る際にお世話になってきた人で、特に憲法審査会や皇室典範に関しては、この人がいないと事務方が回らないと言われるほどの中枢の人物です。
MC期日前氏: めちゃくちゃすごい人なんですね。
田中記者: もう本当にすごい方です。(中略)わざわざその橘さんに答弁してもらい、橘さんが「十分に読み込めるものと拝察している」と答弁したわけです。衆議院の事務局がそう答えたと言質を取り、さらに木原官房長官に対して「この付帯決議案が議決されたら尊重しますか?」と質問しました。これも異例のことで、普通は法案を採決・可決した後に「この法案に対して付帯決議をくっつけます」と可決するものなので、法案が通ったら付帯決議を尊重しますか、という質問は普通ありません。
MC期日前氏: そっか、順番が逆なんですね。
田中記者: ですが、木原官房長官は「仮の話ということですが、政府として議決された場合には、付帯決議の趣旨を尊重して対応すべきことは当然だ」と答えました。予算委員会などでも絶対に答えないような仮定の質問にあえて答えさせ、この答弁をもって中道としてはこの付帯決議に自分たちの意思も反映されると判断した、と。さらにもう1回、木原官房長官に皇位継承の話についても「立法府における将来の検討を先取りし、縛る趣旨ではない」と答弁してもらい、これをもって賛成できますとしました。

MC期日前氏: 色々とややこしいことをしたんですけど、与党も野党もみんなで協力プレイをしたような形ですね。
田中記者: 政府も衆議院の事務局もね。
MC期日前氏: 中野さんは元々国土交通大臣も務められた方なので、与党のポジションでそうした調整などの技の練り上げに長けていたのだと思います。
田中記者:あとは元国対委員長の笠(浩史)さんや色々なところから知恵を借りて、総出で行っていたと思います。賛成するために「この付帯決議に盛り込まれていますよね」「尊重しますよね」という異例の質問をした。
MC期日前氏: 森英介議長や、自民党にすると、皇位継承の流れを維持しつつ、野党からしても途中で変更できる余地を残すという、双方にとって妥協できる形になったということですね。
田中記者: 曖昧な附帯決議になったわけですけどね。自民党にとっても非常に助かった部分があります。もしここで参議院だけでなく衆議院でも野党第一党が反対に回ってしまうと、「立法府の総意」とは言えなくなってしまいますからね。
MC期日前氏:中道が賛成に回ってくれたことは非常に大きいです。
田中記者:水面下でみんな頑張ったと思いますよ。(中略)
MC期日前氏: 一方で、造反者も出たようですね。
田中記者: さすがに「そんな賛成の仕方はないだろう」と思う人は出てくるわけで、委員会採決の後の衆議院本会議では、立憲民主党から早稲田夕季さんや有田芳生さん、中道からも一部の議員が退席する造反者が出ました。
MC期日前氏: 神谷裕さんや野間健さんも名前が出ていますが、最終的に何人になるのか。
田中記者: そうですね、結構多いですよね。
MC期日前氏:立憲民主党出身の議員が中心です。ちなみに野田佳彦さんは党の方針に従いました。党の意思決定には従うというスタンスですね。また、自民党からも採決に参加しなかったそうですね!
田中記者:重鎮がお二人。
MC期日前氏:一人が船田元さん、もう一人が村上誠一郎さんです。 これは何が起こったんでしょうか?
田中記者: 船田さんは、7日のメールマガジンで「皇室典範改正案は国会の総意を逸脱したと言わざるを得ない」と指摘していました。本日の本会議は欠席されましたが、一応の説明によると「海外出張中」とのことです。
MC期日前氏: たまたま海外出張が入っていた、と(笑)。
田中記者: この大荒れの国会の中で、採決の日程を読んで出張を入れたのか、本当にどうしても必要な出張だったのかは分かりませんが。
MC期日前氏:理由を作った?元々は反対なんですよね?
田中記者:メルマガで「逸脱したと言わざるを得ない」と言っていますからね。そしてもう1人の村上誠一郎さんですが、こちらは説明によると「風邪のため」とのことです。(中略)先日の国旗損壊罪の時は岩屋毅さんが退席してぶら下がりにも応じましたが、明確な意思がある退席と風邪ひいちゃったのは違いますよね。(中略)
MC期日前氏: この皇室典範改正案ですが、参議院の方は可決される見込みなのでしょうか。
田中記者: 可決に向けて、会期末の17日までには成立する見込みです。参議院本会議は月・水・金とありますが、中盤から後半にかけて、他の法案も含めて一気に成立を目指す動きになるでしょう。
現在、未成立の法案がこちらです。皇室典範をはじめ、これだけの重要法案が残っています。来週の参議院は毎日が緊迫の連続になると思います。参院自民の幹部に聞いたけど、今のところ、17日までには何とか成立できるというシナリオみたい。

MC期日前氏: 今日、自民・維新・国民民主・公明の政調会長が会談し、修正協議を始めることを確認しました。ただ、14日に委員会採決を提案したけど、野党が反対したと聞きますが、間に合うんですか?
田中記者:問題は、副首都法案は参議院の内閣委員会か、沖縄・北方問題及び地方に関する特別委員会に付託されるかで違っていたけど、今回は「特別委員会」の方に付託されることで与野党合意できました。常任委員会だと定例日しか開けませんが、特別委員会なら毎日開くことができるため、なんとか17日までにできるかもしれない。

MC期日前氏:1回の延長もなく行ける可能性も残っているということですね。
田中記者:17日はすごいですよ。国旗損壊罪も皇室典範改正も、刑事訴訟法改正などもあって、どのニュースをトップで扱えばいいか分からないくらいの状況になると思います。ただ、本当に不測の事態が起きて1日でも日程が飛んだら、シナリオが狂う可能性があります。そのため、参議院の幹部からも「絶対に遅刻するな」という指示が出ているそうです。
なぜそこまで遅刻を警戒するかと言うと、過去に遅刻のせいで採決が吹き飛んだ事例があるからです。2021年5月、当時の三原じゅん子厚労副大臣が参議院の厚労委員会に30分遅刻した際、5時間以上委員会が空転し、その日の法案採決が飛んでしまったことがありました。
当時の記事によると、自民党側の説明では厚労省内の情報共有が不十分で、三原氏は省内の別の会議に出席していたそうです。野党側が副大臣の不在に気づき、理由を尋ねたが、国会内にいる厚労省の職員も副大臣がどこにいるか把握しておらず、一時は完全に行方不明状態になって大騒ぎになりました。(中略)
MC期日前氏: 来週は「遅刻があるかないか」も注目ポイントですね。
田中記者: そうですね。あとは不規則発言や答弁のブレにも要注意です。例えば、国旗損壊罪を審議する衆議院の委員会で日本維新の会の議員が「愛国心の醸成につながる」といった趣旨の発言をし、内心の自由に関わるとして野党から撤回を求められる一幕がありました。最終的には政治家個人の信条としての発言であり、法案の答弁者としての発言ではないということで収めましたが、こうした不規則発言が一つあるだけで国会は一気に荒れてしまいます。非常に緊迫した1週間になると思います。
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