再審制度、「開かずの扉」は今度こそ開くのか?元検事の山尾志桜里氏が解説する法改正のポイントと「引き返せない構造」とは?

2026/05/15

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選挙ドットコム編集部

一度判決が確定した刑事裁判をやり直す「再審制度」を見直すための刑事訴訟法改正案が15日、閣議決定されました。制度の見直しをめぐっては、与野党で結成した議員連盟による抜本的な改正案に対し、現状の権限維持を図る政府提案の改正案が真っ向から対立する異例の事態となりました。なぜ無実の人が救われるまでに半世紀もの時間を要したのか。弁護士を務め、検事や衆院議員の経験も持つ山尾志桜里氏に議論のポイントや背景にある検察の組織風土などについて解説していただきました。(この記事は2026年5月4日公開の「選挙ドットコムちゃんねる」を元に作成しています)

【見直しの経緯】なぜ今、法改正が必要なのか?

日本の刑事裁判では、地方裁判所や高等裁判所、最高裁判所で3回裁判を受けられる「三審制」が採用されています。一度確定した判決は重いものですが、その後に新たな証拠が発見されるなどの事態が生じた際に裁判をやり直す「再審制度」が設けられています。ただ、この再審制度をめぐっては、実際のやり直しに時間がかかることから「開かずの扉」とも呼ばれてきました。

この再審制度見直しの機運を高めたのは冤罪事件「袴田事件」です。冤罪被害者の袴田巌さんは30歳で逮捕され、死刑が確定してから釈放されるまで48年。2024年に無罪を勝ち取るまで58年という歳月を要しました。袴田さんの「人生を奪われたあまりに長い時間」が可視化されたことで、政治サイドを動かし、与野党による超党派の議連が一致して、再審について規定している「刑事訴訟法」の改正案をまとめることに至りました。

超党派議連案と政府案の議論のポイントは?

しかし、超党派の「議連案」の後に、法務省が有識者会議の「法制審議会」からの答申をもとにまとめた「政府案」が激しく対立しました。2案が大きく割れたのが次の3点です。

① 検察官の「待った」(抗告)を認めるか

最も大きく意見が割れたのが、検察官が再審に「待った」をかける「抗告(不服申し立て)」の禁止か維持かです。議連案では速やかに再審に入るために抗告の禁止を求めたのに対し、政府案は抗告の制度を維持する考えで真っ向から対立し、自民党部会が紛糾する事態にもなりました。この後、政府案が譲歩する形で、抗告の「原則禁止」を本則に盛り込む案をまとめて自民党の部会から13日に了承されました。

② 証拠開示のルール化

検察側が持つ証拠のリストを弁護士側に見せるかどうかです。議連案ではリストの開示を裁判所が求めることの義務化を盛り込んだのに対し、政府案は裁判所が開示を求めることができると裁量に任せる文言にとどまり、強制力に温度差がありました。この点は裁判所が一定の要件のもとで検察への提出命令を義務化する形で決着しました。

山尾氏は自身の検察官時代の経験を振り返り、現在の証拠提出の実態について「起訴に必要な証拠しか出さない。検事として描いているストーリーとぴったりマッチする証拠をジグソーパズルのように当てはめていく」と明かします。

この「出されないパズルのピース」に無実の証拠が隠されていることが多いため、改正案では証拠リストの開示義務化が盛り込まれました。一方で、プライバシー保護の観点から捜査協力が減ることを危惧する声もあり、義務化の実効性と副作用のバランスが今後の運用における課題となります。

③ 証拠の目的外使用に対する罰則

政府案にのみ盛り込まれた、開示された証拠を再審手続きやその準備以外の目的で使うことを罰するという項目は、改正案にも採用されています。これに対し山尾氏は、世論による監視を封じる恐れがあると警鐘を鳴らします。

そもそも冤罪被害者という個人と国家権力の間には圧倒的な力関係の差があります。袴田事件においても、メディアが証拠の不自然さを報じたことで世論が動き、扉が開いた経緯があります。再審手続きは原則として非公開で行われるため、目的外使用の禁止が外部への発信を縛り、結果として冤罪被害者に不利に働くことへの懸念を示しました。

【異例の構図】そもそもなぜ議連案と政府案は対立したのか?

自民党政権では内閣が提出する法律案「閣法」を国会に提出する前に、自民党の政調会に各省庁ごとに設置された「部会」で審査して与党の了承を得る手続きが慣行となっています。部会で賛否が分かれている法案を審議する際には、その分野に精通し、どちらかと言うと省庁側の立場で利害調整を行う「族議員」と、その反対の立場の改革派の議員など議員同士で議論するケースが多いです。しかし、今回は政府案に対して、自民党内の有志議員が真っ向から法務省案に反対意見を表明するという極めて珍しい対立が起きました。この背景には、法務省の側に立つような族議員が不在でこれまでの事前審査では役所の案がそのまま通るのが通例だったことがあると山尾氏は解説します。

【なぜ改革停滞?】検察の「引き返せない構造」

先進国で再審制度の見直しが進む中、日本ではなぜ改革が停滞しているのでしょうか。山尾氏は、検察が過去の判断を覆せない背景には「組織の自己防衛本能」があると指摘します。

その核心にあるのが、「検察は間違えない」という無謬(むびゅう)性への固執です。捜査の各段階で「やるべきことは尽くした」と自認する検察官にとって、冤罪の責任は「最終的に判決を下した裁判所にある」という論理が働きがちです。

加えて、検察官が自らの判断を覆すことは、先輩や組織が積み上げてきた仕事を否定することを意味し、組織内では極めて高い心理的ハードルが存在します。こうした「自己防衛本能」と「無謬性の神話」が、客観的に無罪の可能性が高まってもなお有罪を主張し続けてしまう「引き返せない構造」を作り出していると山尾氏は解説します。

山尾氏は最後に、「制度を変えることで得られる国民の信頼の方が大きいじゃないですか。 だから、今ここで抗告待ったの権利は絶対必要と言い続けると、本当にちゃんと真犯人を見つけて起訴して処罰してる普段の検察の活動まで不信の目で見られて、逆に検察全体への信頼が揺れてしまうということに気付く必要がある。でも、やっぱりその舵は切れない組織なので、そこで政治家の出番になってくる」と締めくくりました。

改正法案は15日、自民党内での事前審査を経て閣議決定され、国会に提出・審議される局面に進みました。「開かずの扉」とまで言われた制度がどのように変わるのか。私たちにも決して遠い話題ではない制度として注目です。

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選挙ドットコム編集部

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