情勢調査文学、という俗語をご存知でしょうか。
選挙報道においてメディアが「やや先行」「横一線」というような独特の用語で候補者の情勢を表すことがありますよね。
例えば、A氏に投票すると答えた人が20%、B氏に投票すると答えた人が15%いたときに、直接的にA氏が5ポイント優勢である、といった表現を”しない”この報道方法。実は公職選挙法の抜け道なんです。
選挙報道のこのような表現を知っておくと、より報道内容に対する理解が進みます。
まずは情勢調査文学で使われる主な用語一覧を見てみましょう。
情勢調査記事で使われる表現には、一定の基準があると言われています。候補者がどのような表現をされているかを比較することによって、候補者同士が情勢調査で何ポイント差であるかもある程度推測が可能です。
安定・先行・優勢などの用語は、その候補者が他の候補者に対して非常に優勢である場合に使われます。
続いて、やや先行・抜け出す勢いなどの用語が使われます。優勢ではありますが、①で示したほど他の候補者とポイント差はついていません。5〜9ポイント差といったところでしょう。
候補者同士が横一線・互角・激しく競り合うなどと書かれている場合は、その候補者同士はほぼ同じポイントの支持を得ていると考えてよいでしょう。
先に名前を書かれた候補者が0〜4ポイント差で優勢であると言われています。
大接戦・まったくの互角、といった強調表現の場合は、差が1ポイント以内の場合もあります。④激しく追う・わずかな差 など
激しく追う・わずかな差などの表現は、その候補者がやや劣勢で厳しい戦いであることを示しています。とは言え、⑤ほどのポイント差ではありません。
厳しい・浸透せず・独自の戦いなどの表現は、④よりもさらに厳しい戦いであることを示しています。
それよりも厳しい戦いをしている候補者についてはそもそも記述がないことも。
情勢調査文学では、候補者名の並び順も情勢を探る大事な要素になります。
ずばり、候補者名は先に書かれている方が優勢です。
「A氏、B氏がやや先行」と書かれている場合は、基本的にA氏の方が優勢となります。
同様に、「A氏、B氏、C氏が優勢」の場合は、A氏>B氏>C氏の順に優勢です。
ただし、差が1ポイント以内の大接戦のときは届出順に表記されることもあるそうです。
その他にも、最後は「有権者の○割が態度未定者」などとしめくくり、できるだけ情勢調査の報道内容が投票行動に影響しないようにするという工夫も見られます。
なぜ「情勢調査文学」ができたかというと、公職選挙法では「人気投票の公表」が禁止されているからです。
まずは条文を読んでみましょう。
(人気投票の公表の禁止)
第百三十八条の三
何人も、選挙に関し、公職に就くべき者(衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては政党その他の政治団体に係る公職に就くべき者又はその数若しくは公職に就くべき順位)を予想する人気投票の経過又は結果を公表してはならない。
選挙の結果を予想する人気投票の経過や結果を公表してはいけません。選挙でどの候補者に投票するかを調べた情勢調査の結果をそのまま公表すると、この箇所に抵触する可能性があります。
情勢調査文学は、それでも報道をする方法はないかと模索され出来上がった抜け道なのです。
選挙報道の独特な情勢調査用語について触れました。
公職選挙法にある「人気投票の公表の禁止」に抵触するおそれがあるため、各社は選挙報道の際に具体的な「何ポイント差で優勢」といった報道を行いません。
そのかわりに出てきた表現が、やや先行・横一線などの用語です。これらの表現は各社でほぼ共通し、候補者同士に何ポイント差があるのかを暗黙の了解で匂わせているのです。
情勢調査用語を覚えておくと、これからの選挙報道をより深く理解できるでしょう。
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